第32話 悪女に真実は無粋

 私の生きてきた意味は、生き返った意味はあったのかしら?


 遊ぶ時間や休日を犠牲にして頑張って勉強をしたとしても、毎日精神を擦り減らしてまで仕事を頑張ったとしても、他人に誇れる成果をあげた偉人だとしても、


 --結果、死んだら意味がないと思わない?


 理不尽を強いる人間、不幸を見て悦ぶ人間、他人に迷惑をかける自己中、女を無理矢理犯す男、男を値踏みして卑下する女……善人も悪人も皆んなゴール結果は一緒。


『死ぬ』


 絶対的な平等であり、全ての生物に生きる価値を失わせる強制力。


 偉人だろうが、強者だろうが、独裁者であっても抗えない最強のシステム。


 ……私は彼に何をしてあげられた?


 物語のヒロインのように窮地から助けたり、苦しみも安らぎも分かち合ったり……思い返してみてもどれ一つとしてないじゃない。


 悪魔、都内の人間、涼音、奇妙な女。


 嗚呼————どれも私にとってはどうでもいいものだったのね。




『……中途半端な覚悟で誰かが救えると?』


「誰も、傷付いて欲しくなかっただけよ」


『軟弱な覚悟だから貴様は死ぬのだ。無駄に死闘へ参入して、想い人を殺すなど、神ですら嘲笑しているであろうな』


「違う……っ!!!!そんなつもりっ」


『何が違うのだ。“結果”的に貴様のせいで奴は敗北をしたのだ。貴様が中途半端に奴を想ったせいで、殺したのだ』


「違う、……違う」


『ではなぜ貴様は地獄此処にいるのだ?』


「……」


 雄大に聳える灰色がかった山が仮面を付けた女の後方に見える。


 昔に登った山なのかもしれないし、そうでないのかも知れない。余りにも巨大な灰色の山を見ているだけでも畏怖を抱くほどの威圧感がある。


 以前とは違ってお腹からは鎖が突き刺さっていないけれど、首と左手首が遥か上方から伸びる鎖に繋がれ、身動きが取れない。


『人間はよく、生きる意味を模索するが--そんなものがある訳なかろう。死ねば天界か地獄に行くだけの生物だ。貴様も当然に存在意義すらない』


「そんな事……わかっているわよ」


『わかっておらんから、こうなっているではないか』


「……っ」


 ————

 ——————

 ————————

 ———————————



 それから3年、5年……もしかしたら数百年は此処地獄で山を眺めていたと思う。


 一度目の死によって希薄になっていた感情が、更に薄められ自我すら曖昧になってきた。


 死んでいるのだから生きようと思えないし、自分自身の罪に関しても興味が微塵もない。他者は所詮、私と何の関係もない、ただの喋る生き物。


 そう、魂に刻んだわ。



 一部を除いてね。


「ねえ、貴女にはしているわ」


『さっさと失せろ』


「ふふっ……それは私のセリフだけれど」


『今度、違えたら———お前以外の奴をアイツと引き合わせるだけだ』


「そう……そんな未来は来ないと思うけれどね」


 私しか彼を愛し、愛世界に作り変えてやるんだから。



 —————————裡の真核



 私の力が想いに叛逆する力ならば、人を呪いましょう、世界を恨みましょう、全知全能の存在を憎みましょう。


 そうすれば、彼と永遠に肩を寄せ合えるのだから……………



 ◇



『長い時間を費やし“生きる”という純粋な人間の生存本能を失い、人の世界を憎む……なるほど、スキルで反転して生き返り、人間の世に向かうか。ようやく、君の“願い”は叶ったのかな?」


「……」


『私、ラスボスっぽい演技までして頑張ったよね?……よねっ!?』


「ええ、感謝しています。神様にもお伝えください」


『……“言葉”だけの感謝をどうも。あと、アレは神様ではないからね!』


「そうですか……以後、気を付けます」


『だから、そういう適当な敬語も要らないから。あ〜あ、マヌケ顔している猿達人間は面白かったのに〜ちょっと終わらせるのが早いよ』


「人が困惑している姿を見る為だけに電気を消すなんて、酷い大天使様ですね」



『……人類を惨殺した君には言われたくないけどねっ!』


「遅かれ早かれ、ゴールは訪れます。愉快犯の大天使様とは違いますね」


『あっそ。……それで、次のコンセプトは考えているの?』


「ネタバレはつまらないですよ。ただ、次は百華と仲睦まじく、結ばれるので他の敵モンスターでも用意します。人間は其方の対処で手一杯になり、俺の食糧も増えますので」


『うっわ!とうとう卒業かな!?』


「赤飯、用意しておいてください」


『あはははっ……まぁいいよ。そうだ!転移者でも用意しようかな。やっぱりチーターが君にボコられるのを見るとスカッとするんだよね♪』


「面倒くさいので辞めて頂きたいです。演技とはいえ、百華の“想い”が想定以上に強過ぎて死にかけましたので」


『絶望的なシーンから君がヒーローのように立ち上がれば良かったのにね……彼女、絶対に落ちてたよ?』


「俺の力で百華の存在が消え去るのはよくないですから、“触れるな”とは言ったのですが」


『彼女、絶対に勘違いしたまま数百年は過ごしてたよ……可哀想に』

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私だけに見えるブサ男〜家から追い出す為にコキ使っていたら未来で人体実験にされたので溺愛します〜 黒猫の餌 @timestop1215

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