白いカーテン

竜太郎

第1話


 太陽光が本腰を入れ始めた頃、夏休みにも関わらず私は教室にいる。目の前の青春にうつつを抜かした代償として、補習授業を受けることになったのだ。頼りない扇風機の羽音が、鉛筆が走る音と同化する。そして額から降りた汗がノートに模様を描く頃、私は軽い熱中症になった。

 扇風機一つで一体何ができるのだろうか。

 担任に腹立たしい気持ちを抑えながら、私は保健室に向かった。私はしわが伸びた真新しいベッドに横たわる。空調が効いた室内と美人教師の診察は、天国そのものだ。保健室をサボり場として選んだ山田に謝礼を振り込みたい。

 そんなことを考えていると、隣のベッドに誰かがいることに気付いた。カーテンで仕切られているため、うっすら影だけが見える。

 「涼しいよね、ここ」

 顔の見えない誰かは私に語りかけてきた。

 「そうだね、まるで天国だ」

 「天国…確かにそうかも。」

 なんとなく、顔を見てみたい。

 私はおもむろに立ち上がり、カーテンの隙間から顔を覗かせる。

 隣には当然のようにしわが伸びたベッドが私を待ち構えていた。

 八月の中旬、お盆の時期のことだった。

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白いカーテン 竜太郎 @waltalow

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