第13話 戦場への誘い

師匠は落ちている枝を拾う。

数回振ったのち、魔力を纏わせた。

私も「魔纏」を使えるが、師匠の物とは別物に思えてしまう。


師匠は巨木の前に立つ。


「的としてはこれぐらいで十分だろう。」


そう言い、棒を構える。過度な力みも無く、あくまで自然体。

その姿があの時と重なる。


「特別に少し教えたる。坊主、この技は相手を破壊させる技だ。だから、それだけに集中すればいい。」


あの時と同じように教えてくれる。


「別に力を使わなくていい。相手を押し込まなくていい。ただ、破壊させるだけ。」


あの時のように木に棒を添え、


破壊した。


木の皮が弾け、棒の当たっていた部分はえぐれている。周辺は不自然に隆起し、摩訶不思議な現象を起こした。


「すると、こんな感じになる。」


師匠はあの時のように、気負うこと無く言う。


「ハハッ…」


乾いた笑いが漏れた。

何年も魔力や魔術を習ったのに、目の前の現象がちっとも理解できない。


いつになったら習得できるのだろうか?

改めてみてもその技の完成度に、美しさに惹かれてしまう。

諦める選択肢はないし、妥協したくない。

この技を使うことが自分の生きる目標であり、今だって精一杯努力している。


それでも壁の高さに、軽く絶望してしまう。

現実逃避に空を眺める。


「まぁ、頑張れ。」


無責任な応援に腹が立ち、私は大きなため息をつくのだった。




師匠と別れて三日がたった。

毎日、いつもの集合場所に行っているが、師匠は宣言通り一度も来ることは無かった。

私だけではオークは倒せないため、森の浅瀬部分しか入れず湖には行けていない。

食事も随分と質素になった。魚が食べられなくなった今、木の実や昆虫で飢えをしのいでいる。

スラムではほとんど交流していないためお金も持っていなければ、稼ぐ手段すら無い。

一人では何も出来ないことを改めて実感した。


「はぁー…」


どうしようにもならない閉塞感からか視線を落として、トボトボと家に帰る。


「おー、レン。」


肩が跳ねる。こんな風に私を呼ぶのは一人しかいない。


「お疲れ様です、ビィレントさん。」


「おう、お疲れさ……ん?

どうした暗い顔をして。」


急に近づけないでくれ。

怖い顔が間近にきて少し引いてしまう。

彼は優しいが自分の容姿や体型が怖いことをあまり理解していない。


「最近満足に食べれてなくて、少々困っていたんです。」


「あん?あの森食料も満足に取れねぇのか?」


「ま、まぁそんなところです。」


なんとも嫌な質問が来て答えを濁してしまう。

師匠については誰にも話していないため、このことにつっこまれて欲しくない。


「ならお前さん、戦争に行くのはどうだ?」


「戦争?」


「なんだ、戦争の事も知らんのか。今この国は大っきい戦争をしてるんだ。確か昨日の大戦でこっちがボロ負けしちゃって、人手が欲しいようで広場に張り紙が貼られていたぞ。なんとか子爵の三男坊が功績を得たいって事で…」


戦争のことは師匠から聞いていたが、張り紙のことは知らなかった。

戦争に行けば配給で飢えずにすむし、お金だって稼げるだろう。

もし功績を挙げたら成り上がって、ゆくゆくは…

だめだ、だめだ。落ち着け、クールにクールに。


とりあえず広場に行って張り紙とやらを確認しよう。

そうと決まれば話は早い。


「ありがとうございました。それでは」


ビィレントさんに形だけの挨拶をして駆けるように広場へと向かう。

戦争に行くと師匠に聞いたときは色々悩んだのに、切羽詰まっている今はすぐに決めてしまった。

案外俗っぽいのかもしれない。

そう思いながらもこれからのことを思うと、にやけが止まらないのであった。



------------------

「お、おい、坊主!」


去っていく後ろ姿に声をかけるが聞いていないようだ。

レンは頭が良いが突っ走る傾向にあるように思える。それは長所にもなるが、今回のように痛い目を見ることも多いだろう。


「冗談のつもりだったんだが…」


戦争に徴用されることは確かに魅力的に映るだろうが、実態は罠である。

スラムの人間を求めるにまで切羽詰まっているんだったらこの国は負けるだろう。

俺は少し罪悪感を覚えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スラムに吹く風―どん底からの成り上がり― 弱隠 @yowain

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画