第13話
「……ガガガ……ピピッ……」
俺はその場に倒れ込んだ。
次に目が覚めたときは、JUSの医務室だった。
しばらくして体調も落ち着き、俺が倒れた理由を説明された。
説明に来たのは人事兼AI未来予知研究事業部の幹部だった。
「君は、入社時に社内で優遇される代わりにAI未来予知の被験者に立候補した。
ここにサインを入れた書類もある。
君が入社から体験したことは、AIがはじき出した、起こりうる可能性の高い未来の出来事だった。
私たちもモニタリングをしていたが、君が体験したことは
戦前の日本が、戦争に向かっていったそのものの歴史だった。
これが何を意味するかはわからないが
君の行動は貴重なデータとして保管する」
俺はぼやけた頭のまま、窓の外を見つめた。
街はネオンとホログラムに照らされ、何事もなかったかのように輝いていた。
俺はゆっくりと頭の中の整理を始めた。
入社が決まったときに、人事担当に提案を受けた。
入社後優遇するからと、新開発AIの被験者の提案をされたのだった。
俺は優遇という言葉に惹かれて受け入れたのだった。
その後、自分が体験したことは医務室のベッドの上の出来事であり
夢に近いものを見ていたということになる。
夢と大きく違うことは
「未来予知AIが想定する未来、その中を俺は生きたということだ」
――そして、その未来予知は戦前の日本の歩みそのものだった。
世界に追いつこうとした日本が、正当な努力をもって急成長した、それを欧米列強は国連で否定した。
そして日本は不正を行い、世界に追いつこうとした。
世界はそれを断じて許さず、日本を経済の力で締め上げた。
日本は不正を認めず、アジアに対して横暴と捕えられるような方法で、孤立ぎみに経済圏を確立していった。
しかし、それでも日本は厳しく欧米諸国に対して
「服従か、戦争か」
現実的には究極の二択を迫られた。
日本の選択は戦争だった。
あとは周知のとおり、日本は最終的に完膚なきまでに敗北した。
これが、日本の戦前からの歴史そのものだった――
俺は状況を理解した。だが胸の奥にはまだ、
紙吹雪の眩しさと、赤い警告ランプの不気味な光、
机に突っ伏した時の冷たい感触が、はっきり残っていた。
数日後、JUSの 入社式。
同期たちは笑顔で列を作り、スクリーンには「未来を担う新世代へ」と映し出されている。
紙吹雪ドローンが舞い、拍手が波のように押し寄せた。
俺は知っている。
この祝祭がやがて崩壊へと続くことを。
AIの予知は幻ではなかった。
「なぁ、これ……危ないんじゃないか?」
隣の同期に言葉を投げる。
だが返ってきたのは、呆れたような笑み。
「何言ってんだよ、今日はお祭りだろ?」
俺は口を閉じた。
なんの言葉を使っても、その言葉は届かないだろう。
あの日の光が、今の俺そのものだった。
祝祭の喧噪の中、
机の冷たさを思い出し、
頭上に舞う紙吹雪の白に目を細め、
あの赤い警告ランプの光を心に重ねた。
そして気づいた。
胸の奥に、確かに残っているものがある。
――小さな炎。
その炎に問う、もし日本が戦争を回避した未来があるのなら、それは「――服従」の未来である
それが正しいことなのか、俺にはわからないから教えてほしいと。
しかしその炎の中に、答えを見出すことは出来なかった
だから俺は、まだ見えない「――第三の選択肢」を考え歩んでいくと強く誓った。
未来は変えられる。
いや、変えなければならない。
この孤独が、次の道を照らす光になると信じながら、
俺は拍手の渦の中に立ち尽くしていた。
人はまた昇り くり返す @JAPAN-NAPAJ
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