命の灯火

閒中

命の灯火

ケーキに灯るローソクの火を吹き消す。

私はこれが苦手だ。


昔、何処かのお寺で見た沢山の蝋燭。

蝋燭の灯りは人間の寿命を表していて、蝋燭が短くなるとその人ももうすぐ寿命が尽きるという。


その光景が目に焼き付いて離れない私にとって、目の前で自分の為に灯されたローソクの火を自分で吹き消す、というのは自殺行為に近い。


用意されたバースデーケーキのローソクの灯りをじっと見ていると、目の前に私が手を振りながら現れた。


「どうも、昨日迄の私です。」


突然の事に呆気に取られる私に、昨日迄の私は続ける。

「このローソクは昨日迄の私にさようならをする為に消すんだよ。

貴女の命はまだ消えない。だから悲しまないで。」


にこやかに話す昨日迄の私に私は聞いた。

「良い一年、だった?」

昨日迄の私は少し考えた後に言った。

「そんなに良くなかったかな。」

わお。まじか。

「──でも最悪でもなかったよ。」


それならまぁ、良かったかなと思い、私は昨日迄の私に「一年間ご苦労様。」と労いの言葉をかけた。

そして二人で一緒に「せーの」と声を合わせて、柔らかな命の色のローソクの火をそっと吹き消した。


目の前にはもう誰もいなかった。


さて、刻まれる年齢が一つ増えた私は今日から何をしよう。どう生きよう。

何があったとしても、また来年の私に向かって「悪くなかったよ。」と言えますように。




〈終〉

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命の灯火 閒中 @_manaka_

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