推しがくれた夜

RAKT

ユウとハルカは放課後に推し活に夢中になる相棒。 「恋人なんていらない」と笑い合い、推しがあれば十分だと信じていた。

放課後のカフェ。

テーブルには缶バッジやアクスタが並び、ユウはハルカと夢中で語り合っていた。

「見て、この動画! 推し、神すぎない?」

「ほんとだ! やっぱ恋人なんていらないよね〜」

その言葉は軽口でありながら、二人だけの合言葉だった。


かつてユウがハルカを推しの世界へ誘った日から、二人は相棒になった。

推しがいれば、そして隣に相棒がいれば、それだけで十分――そう信じていた。


けれど、その均衡は揺らぐ。

ユウはクラスの男子カズキと推しの話で意気投合する。

カズキの前で見せるユウの笑顔を目にするたび、ハルカの胸に小さな棘が刺さった。

――恋人なんていらないって言ってたのに。

やがて、ハルカの言葉は冷たくなり、二人の間に距離が生まれていく。


文化祭の当日、ユウはカズキに誘われても首を振った。

「……今日はハルカと回る」

探し当てたベンチで、二人は互いの気持ちを吐き出した。


「恋人なんていらないって言ってたのに……。私との時間は何だったの?」

「……ごめん。でも気づいたんだ。推しも大事。でも、ハルカがいないと私は空っぽになる」


沈黙のあと、ハルカも小さく笑った。

「……私も。寂しかった。でもやっぱり、一緒がいい」

こうして二人は相棒としての絆を取り戻した。


夜の花火


夜空に花火が咲き、二人は肩を並べて見上げた。

そのとき背後から声がした。

「やっぱ、この曲と花火は合うな」

振り返ると、カズキが立っていた。


一瞬の緊張。けれどその瞳に宿る熱AとBは放課後に推し活に夢中になる相棒。

「恋人なんていらない」と笑い合い、推しがあれば十分だと信じていた。


けれどAが同じ推しを愛するCと出会ったとき、二人の関係は揺らぎはじめる。

嫉妬、すれ違い、そして文化祭の夜――。


推しが繋いだ友情は、本当に恋よりも強いのか。

切なさと温かさが交差する青春ストーリー。


「……俺も同じだ。推しがいるから、生きていける」

カズキの言葉に、ユウもハルカも頷いた。

「わかる。推しがいるから、こんな夜も特別になる」

「推しがいるから、寂しくても立ち上がれる」


三人の声が重なり、夜空に溶けた。

共感が胸を温めながらも、それぞれの心には埋めきれない隙間が残っている。


ユウの視線はハルカへ。

ハルカはその温もりに安堵しながらも、カズキのまなざしの切なさを感じていた。

カズキは微笑みの奥で、自分が選ばれないことを静かに知っていた。


花火の最後の光が消え、夜空には煙だけが漂う。

三人の影は一度重なり、やがて別々の方向へ伸びていった。


――推しがいる。だから共感できる。

それでも、人の心は同じ形にはならない。


夜は切なく、それでいて温かく、静かに終わっていった。

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