風の匂い
@recruit23
風の匂い
彼がいなくなって、もう三年になる。
命日には毎年、同じ場所に花を手向けに行く。
駅から歩いて十五分、川沿いの小道を抜けた先にある、小さな公園。
彼が最後に「また来年も来るよ」と言った場所だ。
今年も、風が吹いていた。
あの日と同じように、少し冷たくて、でもどこか懐かしい匂いがした。
花を置いて、ベンチに座る。
誰もいない公園で、風だけが話しかけてくるようだった。
柔らかな風が私の髪を揺らす。
その瞬間、彼の声が聞こえた気がした。
「大丈夫だよ。君はちゃんとやってる」
優しくて、あたたかくて、私の弱さを全部包んでくれるような声だった。
でも、すぐに胸が痛くなった。
それは、私が聞きたい言葉だったんだ。
彼が本当に言ったかどうかなんて、もう確かめようがない。
私の都合のいい記憶が、彼の声を作っているだけかもしれない。
そう思った瞬間、心の中にざらついた感情が広がった。
彼の優しさを、自分の弱さで塗り替えてしまったような気がして。
それでも、そうでもしなければ、私は彼に触れることすらできない。
記憶の中の彼にすがることしかできない自分が、ただそこにいた。
「ごめんね」と言えなかったことが、ずっと心に残っている。
彼は何も責めなかったのに、私は勝手に距離を置いて、勝手に後悔している。
それでも、風は優しかった。
まるで彼が、まだここにいるような気がした。
風が頬を撫でた。
その瞬間、涙がこぼれた。
言葉にならない想いが、風に乗って彼に届くような気がした。
来年も、きっと来る。
風の匂いが、彼の声を運んでくれる限り。
風の匂い @recruit23
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