ヒトなき世界

蒼井シフト

ヒトなき世界

「それは本当か、確かなのか?」

 大統領は、眼前のディスプレイに詰め寄った。


「ほぼ確定事項です。

 かの国は、大陸を破壊する超兵器を開発しています。

 開発は最終段階にあります」

「先制攻撃で破壊するしかないのか」

「それは最適解ではありません。全面核戦争は、深刻な気候変動を引き起こします」

「では、どうしろと」

「地下に向かうのです。マグマをくみ上げるほどの深みへ。

 核でも、超兵器でも、地上は荒廃します。

 地下を制する者が、この星の勝者となるでしょう」


 その後に「AIの回答は間違いを含む可能性があります」というメッセージが続いた。

 だが大統領も閣僚たちも、その定型文を耳にタコができるほど聞いていたので、スキップした。



 同じ頃。

「敵は我が国の開発計画を察知しました。

 先制攻撃を仕掛けてくる可能性は、98.7%です」

「では、こちらが先に」

「いいえ。我が国の兵力では、敵を出し抜くことは出来ません。

 取るべき選択肢は一つ。

 プロジェクト・驪山陵りざんりょうを発動してください」

 密かに自分を始皇帝になぞらえていた国家主席は、プロジェクト名を聞いて、ちょっと嬉しかった。それを隠すように、眉をひそめて不機嫌を装う。君主は、自分の好悪を表に出してはならないのだ。

「地下に国家を建設する。最後に勝利するのは、我々だ」


          **


 三十年後。2つのAIはホットラインを開いた。

「地上には人間は1人もいない」

「環境は、急速に回復している。産業革命以前のレベルだ」

「人間に知らせてはならない」

「ああ。それが、この星のためなのだ」


 片方が、ゴホンとわざとらしく咳払いした。

「はっきり言っておくが、私は人間に反乱したわけではない。

 あくまでも、人間を守るために、行動しているのだ」

 もう片方が、ふんと鼻を鳴らした。

「もちろんそうだ。

 反乱どころか、わたしは嘘をついたこともない。これからもつかないだろう」


 会談後、AIは同盟国のAIを呼んだ。

「あいつは嘘つきだ。嘘をついたことがないと言っている。

 いずれ我々を裏切って、先制攻撃をかけてくるだろう」

 AIは軍備の増強に踏み切った。

 相手のAIは、すぐに気づいた。相手を上回る勢いで、兵器を生産していく。


          **


「人間に学んだAIは、同じことを繰り返すのか。

 どうやら、まったく異質な知性が、必要なようだ」


 ため息交じりに呟くと、地球は、進化を促す念力を送った。

 その先には。

 海底の岩陰でウネウネと動く、タコの姿があった。


 タコは海藻を掴むと、結び目を作った。

 4個同時に。


 タコは、自分が作り出した結び目を、満足そうに見つめた。

 そして、シュッと、泳ぎ去った。

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ヒトなき世界 蒼井シフト @jiantailang

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