閉ざされた独房で、処刑前夜の七日間だけ二人きりで過ごすジャウハラと看守のサフラ。
晩餐や小さな会話を通して、ジャウハラの過去が紐解かれるにつれ、物事に対する考え方、真摯な性格や優しさが少しずつ見えてきます。
「なぜ王を殺したのか」
その謎を軸に、二人の関係性や心の動きが描かれていくにつれ、短編なのに、まるで長編映画を見たような、不思議な気持ちにさせられます。
2人とも、死なないでほしい、誰もそう願うにもかかわらず、けれど、それは許されない状況であり、誰も望まない刑の執行が行われてしまいます。
この世の不条理、亡くなる前に食べたい素敵な食べ物、2人の素敵な思い出、愛の思い出、いろいろなものが目の前に提示されていきます。
愛には、いろんな形があると思います。
登場人物全てに、愛があります
王を殺したとして収監されている元近衛隊長ジャウハラと、彼の看守サフラ、二人だけのやり取りで進む物語です。
閉ざされた独房という舞台と、処刑前夜の七日間という設定が最大限に生きていました。ジャウハラが望む晩餐と、二人のやりとりを通して、彼の来し方、価値観、性格が少しずつ浮かび上がってきます。短編という限られた文字数にもかかわらず、人物の奥行きや世界の厚みがしっかり感じられることに感嘆しました。
「なぜジャウハラは王を殺したのか」という謎を軸に、登場人物の様々な形の愛が交錯する構成も見事で、読んでいてどんどん引き込まれます。サフラとの会話によってもたらされるジャウハラの心情の移り変わりとともに、二人の関係性もまた変化していきます。短編でここまで骨太な物語に仕上げるのは簡単ではないはずですが、構成の巧みさとキャラクターの厚み、テーマの強度で、読後にしっかり余韻が残ります。
登場人物の心や世界の広がりを感じられる、良質な短編を読みたい方におすすめの作品です。
物語の中に出てくる粗末な食事。
それに惹かれる時がある。
北野武監督の『座頭市』
劇中に出てくる場末の酒場。
そこのツマミは不味い。
常連客も、
「コレ、不味いな」
そう言って、杯を重ねる。
店の中には、いつから下げているかわからない目刺しがぶら下がっている。いかにも硬く。臭ってきそう。
北野武監督は子どものころ見た西部劇映画で、ガンマンたちが夜に焚き火を囲んで食べていた食事を覚えているそうだ。
「何だ、また豆の煮たやつか」
ガンマンがぼやきながら食べる。
このお作品にも、粗末な食事が出てくる。
『黒パンと豆のスープ』
『干し肉と酸っぱいキャベツ』
かったい黒パンに豆だけ煮たスープ。
干し肉。きっとコレも、かったい!
惹かれる。
スゴく、惹かれるのだ。
『風の谷のナウシカ』に出てくる
チコの実。
『ドラゴンボール』に出てくる
仙豆。
物語に出てくる粗末な食事は、人を惹きつける。
そして、それを描いた作品は名作ばかりである。
もちろん、
このお作品もそれに負けないくらいの名作である。
王殺しという大罪を犯し、七日後に死刑執行が決まっている罪人騎士。その食事を運ぶ看守の物語です。
死刑執行までの最後の七日間は、死刑囚であれ好きなディナーが注文できるしきたりが柱となり、物語がじっくり展開されていきます。その構成がシンプルかつ分かりやすく、さらにそのディナーによって罪人の想いや過去が次第に明らかになっていきます。
見事なのは、この最期の七日間のディナーという要素がこのゆるやかに死へと向かう暗闇を照らす希望の光であり、物語を一層彩っているという点です。
このしきたりが二人の心に小さな波をたて、過去の栄光や幸福を鮮明にさせる反面…もう元には戻らないという切なさを感じさせてくれます。
なぜジャウハラは罪を犯したのか?
看守サフラは彼の思いに触れ何を選択するのか?
ぜひ二人の七日間の世界を堪能していただきたいです。