【異星人外交官】モフモフ

ロックホッパー

 

【異星人外交官】モフモフ

                      -修.


 「所長、新しい来訪者の宇宙船が到着しました。」

 所長が見つめる宇宙港の発着床には、紡錘形の宇宙船が着床していた。

 「大きさは?」

 「長さ100m、縦横50m、いたって平均的ですね。どんなのが出てくることやら・・・」


 銀河連邦のエージェントとして最初の異星人が地球に来訪して以来、毎年のように次々と新たな異星人が表敬訪問するようになった。このため、地球政府は宇宙港に異星人専門の外交機関を設置した。

 最初の異星人は地球の言語を研究し、公用語で通信してきた。しかし、それに続いて来訪する異星人達はお構いなしに自分たちの言語とコミュニケーション手段で話かけてきた。その手段は音声以外にも、電磁波、重力波、接触型など多様を極めた。

 このため、この外交機関は、異星人を出迎えるよりも、むしろコミュニケーション手段と言語の解析が主なミッションとなっていた。


 「うむ、宇宙船の大きさから判断して、大きさは人類と大差ないかもしれないな。」

 「そうですね・・・」

 多くの異星人は、昆虫型だったり、爬虫類型だったりと、一見してミサイルを叩きこんでやりたくなるような外観だった。とはいえ、いずれも人類より何千年も何万年も進んだ文明を持っていると考えると、できるだけ偏見を持たないで接する必要があった。


 「タラップが開きました。何か降りてきます。」

 部下が指さすディスプレイには、宇宙船の先端部が開き、地上へ向けてタラップが降ろされる様子が映っていた。そして、直径1mほどの漆黒の球形の生物らしきものがタラップを降りてきた。

 「あれが異星人のエージェントロボットなのだろうな。」

 異星人のコミュニケーション手段のなかには、強力なレーザービームであったり、爆音であったり、異常な重力波であったりと、生身の人間が受けると一撃で死に至るものがあった。このため、異星人の出迎えは、人間と同じ姿で、色々な種類のセンサーを持ったエージェントロボットに行わせていた。異星人側も、同様にコミュニケーション時の安全確保はもちろんだが、そもそも地球上では生存できないケースもあり、自分たちの姿に似せた、自分たちと同じようにコミュニケーションができるエージェントロボットを用いていた。


 「所長、拡大画像を見てください。何か、黒い毛に覆われているみたいですよ。」

 「哺乳類に近いのか・・・」

 タラップ上の異星人の毛は、発着床を吹く風になびいていた。

 「所長、コンピューターの解析結果が出ました。画像解析からは、口や目や耳のような感覚器官も、手や足のようなものも見当たりません。黒い毛だけですね。それと、黒い毛にはステルス性があるようです。電波も、光も、音波もほとんど吸収しています。」

 「そうか。体表がすべて毛で覆われていて、感覚器官も手足もないとすると、いったいどのようなコミュニケーション手段なのだろうな・・・。いや、そもそもどうやってタラップを移動してきたのだ?異星人から、電波とか、磁力とか、何か出ていないか?」

 「何も出てないようですね。いずれのセンサーも反応なしです。」


 「うむ、予想がつかんな。とりあえず、こちらもエージェントロボットを出して、反応を見よう。」

 発着床から、人型のエージェントロボット1体がせりあがってきて、異星人と対峙した。すると、異星人はすーっと人型ロボットに近づいてきた。そして、ついに人型ロボットに重なった。

 「この行動パターンは接触型のコミュニ―ケーション手段のようだな。電気信号か何か受信していないか。あるいは毛の接触パターンに特徴があるとか・・・」

 「何もないですね。進展なしです。所長、ロボットからの近接画像が入ってきていますけど、この異星人は本当にモフモフしていて、なで心地が良さそうですよ。」

 「そうだな。もしかすると、これは異星人のペットで、異星人はペットを通じてコミュケーションを取ろうとしているのかも知れないな。考えすぎだろうか。」

 「所長、試しに、撫で撫でしてみてもいいですか・・・。まあ、ロボットが撫でるだけなので、こっちには何も伝わりませんけど・・・。もしかしたら、ご機嫌になって何か変化があるかも知れませんよ。」

 「膠着状態だからな、なんでもやってみよう。」

 「では・・・」

 部下はコンソールを操作し、人型ロボットのアームで異星人の上部を軽く撫でてみた。


 「ん?」

 部下が不思議そうな声を上げた。

 「所長、全然滑らかじゃないです。動かすと、何かいちいち引っ掛かりますね。なんだぁ・・・?」

 部下はディスプレイの解像度を上げ、腕の接触部を拡大した。

 「おおっ、毛が刺さっている!」

 「どういうことだ?」

 「所長、腕に毛が刺さっては抜け、刺さっては抜けしながら動いているようです。」

 「毛が刺さる・・・、もしかしたら異星人は哺乳類ではなく、棘皮(きょくひ)動物に近いのではないか。要はウニだな。黒いのは、毛ではなく、棘だ。であれば、何か毒・・、というか化学物質が注入されている可能性があるな。エージェントを回収して体表面を調査しよう。」

 部下はコンソールを操作し、人型ロボットを回収した。


 数日後、ロボットの胴体と腕の人工皮膚には、多数刺した跡があり、そこには様々な化学物質が注入されていることがわかった。そして、それが異星人のコミュニケーション手段であろうと推測され、刺されたら化学物質を瞬時に解析する装置と、化学物質を合成し、注射できる多数の針が人型ロボットに追加された。異星人の言語解析には、数十人の化学者と言語学者からなる一大プロジェクトが組まれた。数ヶ月後、ようやく異星人とのコミュニケーションが成立し、公式な挨拶が行われ、無事に異星人は立ち去ることとなった。


 離床していく宇宙船を見ながら所長は小さくつぶやいた。

 「やれやれ、とんだモフモフだったな・・・」


おしまい

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