第10話 命の重み

 採取依頼を受けた次の日、俺はシウ道具店へと来ていた。スライムの粘液を売るためだ。よくこれで小遣い稼ぎをしていた冒険者もいた。ちなみに、マシロは抱っこして中へ入っていく。


「おう。シュウ。働いてるかぁ? 今日はブツを売りに来たぞぉ」


「おう。父さんか。なぁにを持ってきたってぇ? っていうか、何その白いモフモフ?」


「新しい家族。マシロだ。持ってきたのはこれだよ。シュウもよく工作に使ってただろ?」


 小瓶を出してカウンターへと置く。それをマジマジと見て「おぉ。粘液か……」とこぼして頷いた。これは結構売ることができるから需要があると思う。


「これは、一つ五百ゴールドで」


「ほぉぉ。俺は三百ゴールドで買い取っていたけど、なにかいい需要でもあったか?」


「そうなんだよ。それがさぁ、レンガの粉末と混ぜて乾燥させると固くなるらしくて、家を作る時の基礎に役立つんだってさぁ」


 そんな情報は初耳だ。さすがは情報収集能力に長けているシュウだ。やっぱり息子に任せたのは間違いじゃなかった。


「そうなのか。さすがシュウだな。じゃあ、またくるよ」


「はいはぁい。まいど」


 手を振るとシウ道具店を後にする。

 店を出るとギルドへ歩く。

 街並みが少し違って見える。


 いつも見ている光景で変わらないのに、なぜか新鮮だ。それは、自分が新しい自分へ脱皮したからなのかもしれない。


 抜け皮は過去に置いて来た。もう今は夢見ていた冒険者になったんだ。冒険者として上を目指すんだ。この年齢でどこまでいけるかはわからない。


 今がピークなんだ。何事にも挑戦しないとな。


 いつの間にか、目の前はギルドの入り口だった。


 扉を開けると、喧騒に包まれている。まだ冒険に行っていない者は飲食スペースで話しながら朝ご飯を食べている。もう既に冒険へ行っている者もいるのだろう。掲示板が所々穴あきになっている。


 掲示板は、基本的に毎日朝に更新され、ぎっしりと依頼が貼り出されるのだ。


「おう。おっさん。昨日はどうだったんだ?」


 赤髪のカロオが声を掛けてくれた。冒険者になって少し俺を認めてくれたみたいなんだよな。


「なんとか薬草の採取をできたよ。ただ、道中に出たスライムとブラックウルフに苦戦したよ」


「ふんっ。そんなのに苦戦してるようじゃ、まだまだだな。ブラックウルフは格上……だが……」


 カロオの視線が俺の足元へと行き、怪訝な目つきになった。なんでここにといった風の顔なのかもしれないけど、すごい剣幕である。


「おっさん、それなんだ?」


「ん? この子はマシロだ」


「そうじゃねぇ! そいつ、ホワイトウルフ、魔物だろ?」


「そうだな。怪我していてな。手当してやったんだ」


 その言葉に目を見開いてこちらを見るカロオ。信じられないようなものを見る目でこちらを見つめる。魔物を救うという行為が理解できないかな?


「まさか、それの為にブラックウルフと戦ったのか?」


「追われていたからな」


「ありえねぇ!」


 そう吐き捨てるように言い、近くにあった椅子を蹴り飛ばして立ち去ってしまった。なんだか気分を悪くさせてしまったみたいだ。魔物を連れて歩くのはそんなに悪いことなんだろうか。


 立ち去る背中はどこか寂しさを漂わせていた。何か理由があるんだろうけど……。


「あいつの親父はな、ケルベロスに食われたんだ」


 ローグさんが様子を見ていたようで横から口を開いた。


「えっ……。ケルベロスって……」


「まぁ、獣系で頂点のフェンリルに次ぐ魔物だな」


 獣系の魔物を俺が連れていたから嫌だったのか。悪いことしたかな。でも、マシロを助けたことは後悔してない。見捨てるという選択肢はなかったのだから。


「ってことはAランク……」


「カロオの父親はA級冒険者だった。俺と同期でな。将来はSランクになると言われていた」


「そんなに強かったのに、やられてしまったんですか?」


 ため息を吐いてマシロを見つめた。そして、しゃがむと頭を撫でる。嬉しそうに撫でられているマシロはとても可愛くて癒される。


「あいつも、魔物の子供を守って戦ったらしいんだ」


「だから……」


「同じことをしたガルに親父を重ねたんだろう。まぁ、悪く思わないでやってくれ」


 これから俺は絶対強くなる。ケルベロスにも負けないくらい。見てろ、カロオ。俺は親父さんみたいにはならないって証明してみせる。


「俺は、今がピークです。まだ強くなりますよ!」


 ローグさんは、少し目を見開いた後にニカッと笑い。俺の肩を思いっきり叩いた。


「いたっ!」


「オレはな、期待してんだ。ガルが、オレが到達できなかったSランクになるのをな」


「楽しみにしてるぞ?」


 今度は優しく肩を叩き、奥へと去って行った。Sランクにはなりたいけど、俺は今がピークだ。どんどん挑戦していかないと。


 キアラさんにちょっと聞いてみよう。カウンターへと行くと「おはようございます!」と声を掛ける。


「あっ、ガルさん。おはようございます。受ける依頼、決まりました?」


「あのぉ、Sランクに最速でなるにはどうしたらいいですか?」


 周りの喧騒が一気に静まる。注目されているみたいだ。


「えっ? 変なこと言った?」


 ギルドがドッと沸いた。

「おっさんいきなりすぎ!」

「コツコツいけよ!」

「いきなりSランクは無理だって!」

「カッコいいわおじ様!」

「まずは中堅のCランクにならねぇと!」


 いろんな意見があるみたいだ。でも、俺は質問を変える気はないよ。知っていて損はないと思うんだ。できるかどうかは挑戦してみて決める。


「あはは。すみません。で、どうすれば最速でなれます?」


「結局聞くんですね。んー。理論上は、ランクが一つ上の依頼を三回連続で成功させるとランクが一つ上がるのでそれが早いかと。ただし、討伐系も受けないといけません」


「そうなんですねぇ。なるほど。わかりました」


 じゃあ、Eランクを受けようかと思い、掲示板へと身を翻す。


「ガルさん!」


 キアラさんに呼び止められた。目を細めて凄く悲しそうな顔をしている。


「急がないでください。じゃないと、死にますよ?」


 紡ぎ出す声が震えていた。

 本当に心配してくれている。


「ご心配ありがとうございます。俺は諦めが悪いんです。できるところまで、やってみたい。残りの少ない人生を精一杯生きたいんです」


 ムッとした顔になるキアラさん。アドバイスを聞かなかったから怒ったのかもしれない。


「無謀そうな依頼は、受理しませんからね!」


「はいっ! ちゃんと見極めますよ!」


 掲示板に貼り出されている討伐系のEランク依頼を見ていく。だいたいがゴブリンの討伐だ。動物の討伐もあるけど、これから上へ行くことを考えるとゴブリンが妥当だろう。


 やつらは何気に魔物でも知恵を持っているそうだ。油断はできない。放っておくと村や町を作ったりするそうなのだ。


 定期的に駆除が必要らしい。今回は隣町までの道中のゴブリンの討伐にした。遭遇したら討伐するだけでいいという内容だった。


 これなら、万が一の時は逃げられるしいいだろうという判断だ。

 キアラさんの所に持っていくと少し考えて受理してくれた。


「ガルさん。Sランク目指すなら、ソロじゃなくてパーティ組んだ方が安全ですよ?」


「そうなんですか?」


「討伐系はパーティの方が生存率は高いです。それに、ソロのSランクは魔法も剣術も一流の人です。あの人たちはもう次元が違います。ガルさんは、そうじゃないでしょう?」


「うっ……たしかに。魔法も使えないしね」


 目尻を下げて泣きそうな顔になるキアラさん。


「私、ガルさんが死んじゃうのは嫌です。だから、攻撃魔法の使える人、回復魔法の使える人、盾になってくれる人。探した方がいいですよ?」


「わかりました! 探してみます!」


 そう宣言してギルドを後にする。

 とは言ったものの、全然当てがないのはどうしたらいいものか。

 パーティ募集でもしてみるかなぁ。たしか専用の掲示板があったはずだ。


 まずは、怪我の治っていないマシロを家へ置いて。

 ゴブリンを討伐してこようか。

 このくらいはソロでできないとな。


 ここからが、冒険者の頂点への挑戦だ。

 夢はでっかくいくぞ!

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おっさんから始める冒険者~セカンドライフは夢を叶えます~ ゆる弥 @yuruya

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