⑤
再びの放心状態。
今日、何回放心状態になればいいの、私。
てか、この人なんなの? 「やっぱり」ってどういう意味? 私の過去を知ってる? ……というか、ヘアゴムは!?
「……あのー、ヘアゴムは?」
「んー? ウソだよ、ウ〜ソ」
「……は?」
「こっわ〜い、女の子がそんな声出しちゃ、メッだよ。メッ」
こ、こいつ。なにがおとなしそうな子だ!
鹿島さんたちの方が何倍も優しいじゃんか!
もう、こうなったら鹿島さんたちにバレてもいいから助け求めようかな……うぅ、でも信用するには早い? どうする? どうする、やよい!
「あのさー、なーに二人でコソコソしてんの?」
「あ、すみませ〜ん。宮坂さんがヘアゴム見つけてくれたみたいで〜」
「え? あ、そうなの?」
「はい〜、ですので、“アタシ”はこれで〜」
マジで何しにきたんだ、この人。
私がここにいることも知ってたみたいだし……。
もしかして付けられてた? ストーカー? こっわ!
「……それじゃあ、またね、厨二病のyayoちゃん」
おのれ桜庭ぁぁぁぁぁぁ!!!
言いやがった、言いやがったよこいつ! 一軍ギャルグループの前で! ここまでいい感じに誤魔化せてたのに! 置き土産にとんでもないもの落としやがった!
「宮坂」
あ〜。やっば。
普段より、一音下がったトーン。
振り向きたくない。振り向いたら終わる!
でも、逃れられないこの状況。
くっ……! 覚悟を決めるか! 宮坂やよい!
もう、どうにでもなれぇぇぇ!
「一旦、座ろうか」
「あ、はい」
(あれ? 意外に大丈夫そう?)
「宮坂、厨二病ってマジ?」
「………………」
「沈黙は、肯定と一緒だよー」
「……はい、マジです」
訪れる沈黙。
私はこれからの未来を考えて、ただただ下を向いて視線を逸らすことしかできなかった。
とりあえず何か言葉を発しようとしたその時。
「やっば、メロりそう」
「なにそのギャップ! ちょ〜かわいい!!」
「好き」
聞き間違えだろうか。
てか、どうゆう反応!?
なぜ、どこに、そうなる要素があった?
「あのー、みなさん?」
「宮坂」
「えっ、あ、はい」
「さっきの写真は、コスプレじゃなくてキャラになりきってたってこと?」
「……そう、なるね、うん、はい」
「今度、見せてよ」
「あ、いや、それはお姉ちゃんの部屋に封印してあってー」
「もしかして、さっきの事情ってそれ?」
「うん」
「じゃあ、宮坂さんの家、今度遊び行かない?」
「いーねー、さんせー」
「宮坂、どう?」
私の前で、どんどん話がまとまって進んでいく。
これ、遠回しに「拒否権ないから」って言ってるようなもんだよね!?
「……どうだろう」
「お願い、宮坂」
「宮坂さん、お願い」
「このとーり」
なんだこの光景。
一軍ギャルグループのお三方が私に頭を下げている。
しかもなんか、目をうるうるさせてるし……。
くっ! これだから、顔のいいギャルは嫌いだよ。
「……お母さんに、聞いてみる」
「「「やったぁ〜」」」
そんな喜ぶかね。
まぁ? でも、私だって? 別に、まんざらでもないっていうか? えへ、えへへ、このこの〜。
「じゃあ、あの、お姉ちゃんに開封の交渉しとくね」
「いいよ、あたしたちが行った時に一緒に交渉するよ」
「そうそう! 急な約束になっちゃったしね〜」
「最終手段は、コブラツイストで」
「まった、それは絶対無しの方向で。出禁食らうよ!?」
「じょーだん、じょーだん、私は全力で頭下げとくー」
一瞬、不穏な発言があったけど……。
この優しさを、桜庭奈々に見せてやりたいよ。
私には、一軍ギャルグループというバックアップがあるからな! 次会った時が桜庭奈々の終わ——
急激に、寒気が全身を伝う。
……どこかで見られてる?
いや、まさか、ね。
「てか、外」
「あ、もうそろそろで真っ暗になっちゃうね」
「ごめん、宮坂、遅くまで付き合わせた」
「いや、私は全然! 私が逃げたから遅くなったのもあるわけで……」
「まぁ、それもそっか」
「うん、ごめんね」
「別に、気にすんな」
「ありがとう」
「お、おう。……ちーよー?」
「まだなんも、いってなーい」
「さっ、帰ろっか! 会議室の鍵も返さないとだしね〜」
パンッと八代さんが手を叩く。
それぞれが帰り支度をして、忘れ物がないかチェックをして、職員室に行って鍵を返す。
外へ出ると、春の空気が頬を撫でる。
冬の寒さがまだ残っている風に、体が震える。
「寒いか?」
「大丈夫。まだ体が慣れないだけだから」
「あたしたち、右方面だけど宮坂は?」
「私は、みんなと反対方向」
「そっか、じゃあここでお別れだね」
「うん、じゃあね」
「おう、また明日」
「宮坂さん、また明日〜」
「あしたー」
校門を抜け、お互いの帰り道へと歩を進めた。
「また明日」。その言葉に、私はなんだか可笑しくなって笑ってしまった。
最初の展開からこうなるなんて誰が想像つくだろうか。
一軍ギャルグループは、私の過去を知ってもいじめるどころか肯定してくれた。その事実が、なによりも嬉しく感じた。
やっぱり、人は見た目だけじゃ判断できないよね。
明日、謝ろう。鹿島さんたちに。
いい感じに浸ってた私に、ひとつの問題点が脳裏に浮かぶ。
……桜庭さんについてはどうしたものか。
厨二病を拗らせていた黒歴史を隠すために高校デビューした私、一軍ギャルに秒バレしたけどなぜか溺愛され始めました!? Laura @Laura83
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