④
場所は変わって、会議室。
うちの高校は、生徒用の会議室があるらしく、申請を出すと使える。普段は部活動のミーティングとかで使うらしい。
みんなは、私が素直に連行されたと思っていると思うけど、ここへ来るまでにも涙なしには語れない戦いがあった! ……てのは冗談で。ちょっとした抵抗をしたら、八代さんに耳元で「む〜ね♡」って囁かれた。
八代半端ないってもう! そんなん抵抗できひんやん普通! ってな感じで、無事素直に連行された。
さてさて、回想はここまでにして。
現状、私は会議室で一軍ギャルグループ三人に壁際へ追いやられていた。……なんだか、既視感。
「……あのー、みなさん。座って話しませんか?」
「どうせ逃げるんだろ?」
「まさか! もう諦めますよ」
「だいじょーぶ、逃げたら次は、足4の字キメちゃうんでー」
「やめて! 乳酸でパンパンの足にそれは終わる!」
「タップアウトで私の勝ちー」
「技かける前にね!」
「宮坂、ノリいい、好き」
「……サ、サンキューな」
(なに照れてんだ私! ……でも、日比野さんと話すの結構楽しいかも)
それぞれ席についた。
私が、一番出入り口から遠い席。それを囲むようにギャルたちは座ってる。当然っちゃ当然の席。
今から始まることを考えると胃がキリキリする。
「よし、じゃあ色々聞いてくね」
「は、はい。お手柔らかにお願いします」
鹿島さんの声を合図に、場が一気に静まり返る。もう、逃げ場はどこにもない。
これから私はどうなるんだろ。いじめられる流れかなこれ、怒らせることしたし、散々逃げ回ったしね……。
「まずは、逃げた理由。聞かせてほしいかな」
「あ、はい。逃げた理由は単純で、黒歴史が暴かれると思ったからです」
「ふーん。黒歴史ってこれ?」
教室で見せられた写真を差し出される。
中学時代の私。シスターの格好した私。
やめて、そんな純真無垢な目で私を見ないで!
「そうです」
「じゃあ、これは宮坂だって認めるわけね?」
「はい。認めます」
「……あのさ、敬語やめてくれない? なんか尋問してるみたいじゃん」
「え、違うんですか?」
「ププッ。紗綾香ちん、勘違いされてやんのー」
「ちーよー?」
「……ごめんなさい。うぅ、綾芽ママ慰めて」
「も、もう。千代ちゃんったら〜」
な、なんだあれは!
日比野さんはここぞとばかりに八代さんの胸に頬をスリスリしてる。しかも目で「羨ましいだろー」って言ってくる。べ、別に羨ましくなんてないんだからねっ! 私はスリスリじゃなくて、もみもみしたんだからねっ!
「なんだ? 宮坂、気が散ってるようだけど?」
「あ、いえなんでもないで……なんでもない!」
「あ〜、そういうことか。宮坂って意外とむっつりなんだな」
「なっ!? べ、別にむっつりなんかじゃないんだからねっ!」
「キャラ、バグり散らかしてるけど大丈夫そ?」
「はい、すみません。落ち着きます」
「……気を取り直して、どうして暴かれたくないの?」
「え、普通に黒歴史なんで」
「ん? なんで? これ、コスプレっしょ?」
「……へ?」
「ん?」
そういうことかぁぁぁ!
確かに写真だけだからコスプレにしか見えない。動画じゃないから仕草や言葉使いが全く分からないのだから。
あっぶな。てことは、私はコスプレイヤーだと思われてるってことでいいのかな? つまり、厨二病だったってことはバレてない! いける。いけるぞ、やよい!
「あはは〜、そうなんだよね。実はコスプレが好きでさ」
「へー、今はやってないの?」
「う、うん。やってないっていうか、出来なくなったっていうかー」
「なにそれ?」
「いやぁ、ちょっとした事情があって……」
「ふーん。まぁ、言えないんだったら深くは探らないよ」
「あ、ありがとうございます! 鹿島さん!」
「お、おう。……あんまし面と向かっていうなよ」
「照れてるー。紗綾香ちんはこう見えて照れ屋だもんねー」
「うっさい! 千代!」
場が和む。
こうやって、日比野さんが途中で軽口を挟んでくれるのは結構助かる。
実際、話してみるとこの三人が同じグループなのは納得できる。もはや家族ばりの安心感。例えるなら、父・鹿島さん、母・八代さん、子・日比野さんって感じかな。
「あのー、もう言えることはないから帰ってもいい?」
「あー、待って待って」
「ん?」
「宮坂、このキャラって——」
ガチャ。
会議室の扉が開く。急いできたのか、息を切らして肩を上下させた女の子が立っていた。
「す、すみません。落とし物しちゃって……あ、宮坂さん。こんにちは」
「ん? あ、あぁ! こんにちは」
よくよく見ると、隣の席の
ここにきて、お隣の地雷さん。写真見られたらやばい感じじゃないか!?
「鹿島さん、八代さん、日比野さんもこんにちは」
「「「こんにちは〜」」」
「桜庭さん、忘れ物って?」
「あ、えっと、ヘアゴムなんだけど……」
「わかった、一緒に探そ」
「うん、ありがとう」
急遽始まった、桜庭さんのヘアゴム捜索。
……全く見つからない! 鹿島さんたち含めてみんなで探してるのに見つかる気配ゼロ。
ヘアゴムなんて、本当にあるの? そもそも、最初からなかった気がするんだけどな……。
「あ、やっぱり」
桜庭さんは、テーブルの上に置いてあった鹿島さんのスマホ画面を見て、自分が推してる人と握手しちゃった時くらいの笑顔を浮かべた。
そういえば、鹿島さんのスマホ画面に映し出されてるのって……!
「シスターやよい、だよね?」
ニコッ。
ニコッ……じゃない! え、何で知ってるの? うちの中学にいた? え? まさかのギャルたちにいじめられるんじゃなくて隣の席のおとなしそうな子にいじめられるの?
「ど、どうして……?」
「ふふっ、そんなに焦らなくても大丈夫。ね? yayoちゃん?」
耳元で囁かれる、甘ったるい声。
私は全身から血の気が引いた。
だって、その『yayo』って名前……SNSやってた時の名前だもん!!
あー、今度こそガチで終わったわ……。
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