「透ける影」

人一

「透ける影」

僕は少し前から、いじめられている。

学校で、口を聞いてくれる人がいなくなった。

誰もが、僕が存在していないみたいに無視をする。

クラスメイトだけでなく、先生もだ。

アパートの共用廊下で世間話をする母さんに呼びかけても、返事すら返ってこない。

みんなの気に触るようなこと、した覚えなんて……ないのになんでだろ。


無視される日々でも、明日は問答無用にやってくる。

今日も憂鬱な気分で登校する。

一番乗りで教室に入り、僕だけ椅子が机の上に上げられている。

下ろそうとしたが――やめた。

ここは、窓辺の特等席。

小春日和の暖かな陽を浴びる。

少しすると教頭先生が来て、ストーブを点けてくれた。

小さいがほんのり明るい火が、やがて大きく立ちのぼるのを眺める――ここ最近の楽しみだ。


教室がゆっくりと暖まっていく。

クラスメイトたちも続々と、教室に入って来てあっという間に教室は喧噪に包まれる。

先生の号令で静かになり、出欠確認が始まった。

1人1人順に呼ばれていくが、やはり僕は飛ばされ後ろの子が呼ばれる。

初めてではないが、毎回少し悲しい気分になる。


1日はいつも通りに過ぎ去った。

誰にも話しかけられず、指名もされぬままに。

名札の外されたロッカーから荷物を取り出そうともせずに、帰路につく。

夕焼けに照らされた校庭を、とぼとぼと1人で歩く。

遠くで部活のかけ声が聞こえる。


予告もなく突然野球ボールが飛んできた。

思わず目を伏せたが、痛みはない。

まるですり抜けたかのように、僕の後ろに落ちていた。

野球部員がこちらに向かって走ってくる。

彼は僕に目もくれず、一直線にボールに駆け寄った。

するりと……僕の体をすり抜けて。


何が起こったのか、理解できない。

野球部員は、もうチームの元に戻っている。

自分の体や腕に触れるも、ちゃんと感触はある。

足元に目を向けるも異常はなかった。

ただ一つこの橙色の世界に、長く伸びる影たちの中に――僕の影だけが存在しないことを除いて。


僕は、僕だけが、ずっといじめられていると思っていた。

「――あぁ。ようやく、わかった。僕は……

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「透ける影」 人一 @hitoHito93

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