第7話 甘い狂気

 スーパーは普段二人で入る事も多々ある。だが、少しだけ琴奈の視線を敏感に感じるのは気のせいだろうか?


「今日は......焼肉」

「カレーか焼き魚」

「焼肉!」

「カレーだな」


 俺は牛肉、根菜、カレールー、をカゴに入れてお菓子コーナーに向かった。後ろでは駄々を捏ねかけている琴奈が居たので、


「スナック?」

「......買う」


 琴奈はお菓子コーナーに消えて行った。琴奈が一人暮らしを始めて一ヶ月後、銀行口座額100円だったらしい。それを親にバレて俺に白羽の矢が立った。


「グミ、ポテトチップス、芋けんぴ」

「ありがとな。俺の分まで」

「でしょ」

「だが、グミを10袋入れる必要はない」


 同じ種類を複数入れてきたので個々を一袋にした。駄々を捏ねる仕草をしてきたので、無理にでもレジに向かった。


「全部で3200円ね」

「はい」

「熱いわね」

「「......」」


 レジのおばちゃんから言われた言葉に俺達は嫌でも実感した。さっきまで気づかない様にしていた雰囲気をおばちゃんはぶっ壊した。


 スーパーを出て俺達は勿論無言、基本は琴奈から話しかけてくる事が多い。だが、今は琴奈も空気を伺っている。


「カレー手伝ってくれるか?」


 うずうずした俺は夜ご飯の話題を投げかけた。元々琴奈を一人前にさせる事を目的としているので、


「勿論!」

「あぁ、宜しく」

「素敵だな」

「!」


 ん? もしかしてさっきの会話をぶり返すのか。若干甘酸っぱい空気になったが、


「なんか夫婦みたいかなって」

「いつもしてる事だろ」

「良吾は鈍感ってより意地っ張りかな」


 恋人を飛ばして夫婦は驚いたが、それはアニメ台詞で取得している。このセリフを言われた時は大体のアニメ主人公は否定をしている。ここで肯定したらそれはもう夫婦だ。


「マンション着いたね」

「あぁ」


 俺達はマンションに入り帰宅した。早速カレーの準備に取り掛かった。琴奈には水洗いとカットを頼んだ。包丁を最近習得した琴奈は「私に切らして」が口癖だった。


「ねぇ、もし良吾が他の女と歩いてたら切らしてね」

「!」

「冗談だよ。冗談」


 ザク、


 人参が切られた。真っ二つに、


「怖すぎるて」

「だがら冗談だよ。良吾が他の女と歩いていても刺さないから、良吾は......ね」


 曇りのち雨、その様な目だった。あぁ、玉ねぎもマルチタスクしてたんだな。人参と玉ねぎが同じ大きさになっていた。若干、人参が大きく切れていた。


「冗談だよな」

「勿論」


 笑っていない。冗談なら笑ってほしい。もしそれが現実となる可能性が存在するなら俺は天涯孤独じゃないか、あ、琴奈が居るか。


「じゃあ、琴奈が責任とってくれよ」

「え、僕が」

「ダメか?」

「まぁ、良吾が咲き遅れたら私が満開に咲かせてあげるよ」

「その時は頼んだ」

「(勿論、どんな手段を使っても絶対咲かすけどね)」


 俺達はカレールーを入れるまで準備して先に琴奈に風呂に入ってもらう事にした。勿論カレーを完成させる為に、


 前回、ハヤシライスを二人で作った時に逆の立場になり、帰ってきた時には悲惨の一言だった。ハヤシライスのルーを買ってきた分全部入れて隠し味にコーヒー500ml全部入れていた。


「えぇ、完成まで居るよ。僕」

「まだ琴奈に完成は早い」

「ケチ」


 琴奈は顔を膨らませながら浴室に去った。


「はぁ......なんか緊張するな」


 今日の一件で少し琴奈に対する見方が変わった。元々男友達寄りの関係だったが、手紙とあの会話で少し情緒不安定な俺が居る。


「(もし本当の意味で好きになって断られたら)」


 今は立ち直れない事はないが、全体ギクシャクする。それくらい今の関係が心地いい。琴奈が高校から告白ラッシュを受けている事は知っていたが、笑い話くらいで終わっていた。だが、


「大学は少し違うな」


 大学卒業後はどうする、少しだけ不安に感じた俺は少し傲慢だった。琴奈が他の男子と付き合っても応援できた俺は多分もう居ない。だが、本当に好きかどうかは今は分からない。


「はぁ......こんなに早いんだな」


 アニメの主人公を改めて尊敬した。俺は10年ほど関係を築き上げて悩むのに対して彼らは早くて数日で悩んでいる。フィクションに疑問を持つのは変だが、変に尊敬した。


「良吾、風呂出たからご飯!」


 あ、ご飯炊くの忘れてた。


「おっちょこちょいだね。僕の幼馴染は」

「お互いにな」


 ご飯が炊き終わるまで一緒にアニメを見た。俺は高校の時からクールで3〜5本を観ていたが、現在は琴奈も同じ感じで観ている。感想を言い合う事がこれほど楽しいかと理解できたのは琴奈のお陰だった。


「(やっぱりこの関係もまだ悪くないな)」


 俺は画面を食い入るように観る琴奈の横顔を見ながらそう感じた。臆病な俺に少し嫌気がさしたが、今はそれで良かった。


「あ、良吾のエロ本とグラビア、おばさんに渡して廃棄してもらったの僕だよ」


 突然言えれた事実に、


「お、お、お前が俺のコレクションを!!!」


 俺の怒りを琴奈は、


「だって刺されたくないでしょ?なんてね」


 俺の横腹に琴奈の人差し指が刺さった。



 

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幼馴染は一人暮らしを謳歌しながら外堀を埋めてくる件 クロエ @kuro1313

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