途方もない夢

芸術前線集団

そんなこと、あるわけないさ

 この頃は湿気が多い。洗濯がよく乾かないし、気分も憂鬱になるだけだ。こんな日はなにもしたくなくなる。夫が帰ってくる。飯を炊く。子供の世話をする。これが何なのだろうと思ったりもする季節なのだ。鶯が法華経と鳴く、雨の中でも鳴く時は鳴くらしい、よくやるもんだと思う。

 子供が遊園地に行きたいと言いだした。私がダメよと言ったら夫はいいじゃないかと言った。子供はこういう時には夫の味方だ。いつもは私に寄り付いて甘えるくせに、こういう時には夫に寄り付いてそうだよという。言って、お母さんはケチだということを遠回しにでもいいのける。夫のやり口を真似たのだろうか、巧妙だから、夫はそれを下品とは思わず、むしろ子供らしいダダだと思う。そもそも夫は、お金がないのは知ってるだろうに、どうしてそれかわからないのだろうか、自分の収入を高いとでも思っているのだろうか、私はいちいち貴方の収入は低いと、そんなことを言わねばならないのだろうか。結局は2体1だ行くことになる。すると私がどうやってその分のお金をやりくりするかを考えなきゃならなくなる。そうなると本当に虚しい。こういう時以外、私は考えてなんてないんじゃないかって気がしてくるし、そのあとで家事もしなきゃと思うと、余計に。

 明日になると雨が止んで、朗らかな天気が立っていた。私は洗濯を干しに外に出る、すると法華経と鳴いていたウグイスの死骸が横たわっていた。風が吹いて、大きな入道がポカンと浮かんでいるのが背景となり、私の前に出たっている。私は何だか涙が出ていた。知らぬ間に、訳もわからない涙が、死んでしまいたいと、考えたことすらない私にその時死ぬまで泣いた鳥が、何だか私の如く思ったから、だから鳴いたのだ。でも、何だかそれだけじゃない気もする。きっと空が青いから、私は泣いたんだ。鳥が死んだから死にたくもなったのだし、入道が白いから私もまた白いのだ。風が立つから、私はここに立っていた。

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