森でくまさんに出会った

猫ララ

第1話森でくまさんに出会った

 私は10年前に会社を退職してからずっと実家に引きこもっている。理由は勤め先がブラック企業だったからだ。

 仕事を辞めて、自分の部屋に引きこもってゲームをやって、アニメを見る生活が長く続いている。


「このごろ、ずっと、ゲームばかりやってるとさすがに飽きるなあ」


 だらしない生活を送ってきたせいなのか、最近とても体が重くてしょうがない、ずっとゲームをやっているせいだろう。

 不健康なのは自分でも分かっているのだから、気分転換にちょっとは外出したほうが良いのではないだろうかと思い、そう感じた私は夕方近くの公園に出かけた。

 涼しい風がとても心地よくて良い気分転換になった。そして遠くに見える山々に夕陽が沈む光景を見た私のモヤモヤとした嫌な気持ちが急に晴れてやっとやる気がでてきた。 

 そう考えた私は健康のために、ちょっとだけ運動を始めようと決意した。

 私は何か始めるときは小さな目標を立てる。

 最初から遠くて大きい山に登る自信はないので近くの小さい山に登ってみようと思った。

 何日間か経過した後、母から近所に畑仕事をしている、田中さんが近くに山を持っているとを聞いた。

 私は田中さんの山なら安心して登る事ができると思い、お弁当や飲み物などをリュックサックに詰めてそこ山に行き登り始めた。


「キ、キツイ!坂道が、体が重い、重力を感じる」


 体が重くて足がなかなか思うように前へ進まない。歩いていると喉が渇いて仕方がないので、ペットボトルを片手に持ち、水分を少しずつ取りながら坂道を上がって行った。

 そして、やっと小さな山に登る事に成功した。かなりの時間を費やしたが不健康な自分にとって大きな成功体験を得ることが出来た。


「ここが、田中さんの畑かあ、結構広いんだなあ」


 畑の奥にきれいなベンチを見つけた。田中さんが作ったものだろうか?私はそこで少し休憩することにした。

 ここまで、結構登った感じがしたのだが、周囲には竹やぶもある。こういうところにイノシシが出るのだろうか?私はお弁当を食べながら想像していた。

 そんな事を考えていた時、突然竹やぶの方からガサガサ、バリバリッという音が聞こえてきた。

 田中さんが来たのかと思った私は挨拶をしなくてはいけないと思い、物音がするほうに近付いた。


「田中さん、こんにちは、あれ、あれ、ちょっと違うな」


 バサバサ、ザッザと大きな音を聞いた瞬間、自分の目の前に突然大きな熊が現れた。

 私の人生で一番びっくりするイベントに出くわしてしまった!

「ああ、もうダメだ!死んだふりしなきゃ!ていうか死んだ!もう、おわりだ」

 私はびっくりして仰向けに倒れてしまった。そこに、ドスンと熊も一緒になって倒れこんだ。私の頭の中は真っ白になった。


「キミ、大丈夫かい、けがをしていないかい」

 目を開けた私の前に、ライフルを持った男が立っていた。猟師さんに見えた。どうやらこの人が熊を退治してくれたようだ!


「ありがとうございました、あの、とにかく助かりました」


「ふう、良かった!キミに当たってしまい、死んじゃったら、どうしようかと思ったよ!」


「いやあ、助かりました。その手に持っているライフルは凄くかっこいいですね!猟友会の方ですか?」


「えっ、これがライフルに見える?これはレールガンだよ!すごいだろう」


「レールガンって!あの超電磁砲ですか?」


「そうだ、この長いケーブルが見えるだろう!遠くの発電所からエネルギーを供給しているのだ!」


 びっくりするイベント二回目がおきた。私の人生は今とてつもなく凄い事になっている。

 今まで私が空想の中で考えていたレールガンが実在した。それが熊を倒したのだ!私はこんな体験を今までしたことがない。でも長いケーブルがどこに繋がっているのかが気になってしょうがなかった。


「そのケーブルすごく長いですね、どこから電力を集めているんですか?」


「ああ、近くの太陽光発電施設だよ。最近は銅の価格が上がってしまってね!銅を集めるのに苦労してるんだ!」


「そうなんですか!熊を退治してお金を稼いでるんですか?」


「ああ、もちろん、この倒した熊の毛皮はかなり良い値段で売れる!」


「それは大変ですね。とにかく助けてくれてありがとうございました」


「どういたしまして。助けたけど、このことは内密にしてくれないかなあ!こんなことが世の中にバレると大事になってしまう!」


 私は頷くと急いで家に向かって走った。重たい体で無我夢中に足をがくがくさせながら、なんとか無事に帰ることができた。

 私は部屋に戻り今日起きた出来事を考えてみた。田中さんの山に熊が出てきた。そして、レールガンが熊を倒した。とてつもない非日常を味わってしまった。その夜は疲れて眠ってしまった。

 翌朝目を覚ました時、すごく変な夢を見たなあと思った。しかし、体が筋肉痛で痛かったので気になってテレビをつけてみた。そしてニュースで熊の映像が流れた瞬間、私は昨日の出来事を思い出した!

 それは夢ではなかったのだ。最近熊が人里におりてきて人を襲う事件が話題になっているのだが、それは人間が自然を破壊して熊たちの住む場所を奪っているからだと私は思っている。


 この前、助けてくれたレールガンの人は今も熊を倒して回っているのだろうか?

たしか、私は銅の値段が高いと言っていたことをふと思い出した。

 あの山で起きた不思議な体験をしてから一週間が経過していた。テレビをつけるとニュース速報で、メガソーラー発電施設で熊が捕獲される瞬間が動画によってテレビに映し出されていた。

 私はびっくりしてしまった。熊がソーラーパネルの銅線を盗んでいるシーンを撮影している動画を誰かが投稿したのだ!

 熊が銅線を盗むとかありえないだろう。それとも人間に対しての復讐なのだろうか?今は簡単に動画編集で何でも作れるから時代だからこんな事は信用できない話だ。

 それでも、最近おかしなことがよく起こる。自分でもびっくりする体験をしたのだからと思い、インターネットで「熊、銅線」で検索した。調べてびっくりした。捕獲された熊は人間だったという動画がでてきたのだ。

 私は熊の毛皮から人間が出てくるシーンに驚いた。中に入っていた人に見覚えがあったからだ。


「そうだ!思い出した」


「レールガンの男だ、何やってんだ、あの人は」


 そういえば熊の毛皮がお金になると言っていたが毛皮を売るよりも、熊に変装して、銅線を盗みに行くことを考えていたのかあ!レールガンは銅線をたくさん使うもんね!発想がかしこいと思った。


「変なところだけ、頭が良いんだなあ」


 私の口からぽろりと変なセリフが出た。でも、この秘密は誰にもバラしてはいない。

 なんだかこの動画を見ていたら、とても愉快な気持ちになってしまった。

 そして、自分の心の中のストレスが無くった事に気が付いた。

 私は生きていれば良いことが起きるものだと思った。これからの自分が生きていくために、もっと人生が良いものになることを神様に願った。


「神様、どうかお願いします。私はもう熊さんには出会いたくないです」







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