「白目化エピファニー症候群」症例報告
裏拍手
「白目化エピファニー症候群」症例報告
本資料は「白目化エピファニー症候群」を発症した相川拓斗について、主治医が作成した診療カルテの内容を整理・要約したものである。
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〇患者基本情報〇
氏名:相川 拓斗
年齢:24歳
性別:男性
職業:フリーランスイラストレーター
家族歴:特記事項なし
既往歴:なし
アレルギー歴: ハウスダスト
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10/18
主訴:「視界が明るすぎて落ち着かない」
入院時、両眼の黒目が少し薄くなっているが、視力・眼底は正常。
患者は診察室に入るとすぐに窓と壁のあいだを凝視し、しばらく口をきかなかった。
その後「そこに立っている人は誰ですか」と質問。
しかしそこには誰もいなかった。
家族によれば、数日前から夜に寝なくなり部屋の隅でじっと誰かと話すような仕草をしていたという。
強い不安が続くと危険と判断し、入院。
夜は睡眠薬を投与。
10/20
黒目がさらに白っぽく変化。
本人はそれを「まぶしいけど気持ちいい」と表現。
「世界が二重に重なって見える」「昼なのに星が光っている」と語った。
表情は不安というより、少しうっとりしたような笑みを浮かべることが多い。
夜、ナースステーション前でじっと立ち、誰もいない方向を見つめる行動あり。
看護師が声をかけると「もうすぐ来るから」と答えてその場を離れた。
10/24
黒目がほとんどなくなり、白目のような外見になる。
本人は「触ってしまった」と話し、手を繰り返し洗う行動を見せた。
手が赤くなるまで洗っていたが痛みはない様子。
家族と面会させると「こんなの息子の顔じゃない」と言い、以降は面会を拒否する。
夜間、病室のカーテンを開け放ち、窓の外に向かって笑っていたという看護師報告あり。
10/26
両目の黒目が完全になくなる。
しかし歩行可能で、物などにぶつかる様子は見受けられなかった。
夜間「壁の向こうに道がある」「今はまだ狭い」とつぶやきながら病棟の廊下で30分以上同じ壁を撫でていた。
看護師が止めると「次は向こうから来る」と笑い、再び壁に顔を寄せた。
10/30
会話が減り、声をかけても軽くうなずくだけになる。
看護師が夜の巡回時に患者が誰もいない病室で誰かと話しているのを目撃。
「あと三日だって」「大丈夫、心配しないで」という言葉が聞き取れたそう。
脳波の検査では、これまでになかった高い周波数の波が短時間出ていた。
11/2
午前2時、ドアも窓も施錠されていたにも関わらず病室から患者がいなくなった。
監視カメラに異常なし。
患者のベッドの上には一枚のメモが残されていた。
「ぜんぶ見た ぜんぶ思い出した
もう帰れない でも行ける
そっちの世界はこっちより静かで、広い
もし君が来るなら、壁の向こうで待っている
次は君の番」
看護師はこのメモを読んで強い動悸を訴え、当直室で休養。
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ここで「白目化エピファニー症候群」を研究し、相川さんの主治医だった小林先生の見解を紹介する。
〇専門家見解〇
この病気は、黒目が少しずつ白くなると同時に、患者の見える世界が変わっていく。
相川さんの場合も最後まで目は完全に白かったが歩行や行動に支障はなく、むしろ普通より先が読めるようになっていた。
入院の後半では誰かと会話しているような行動が増え、本人も「迎えが来る」「もうすぐ向こうに行く」と口にしていた。
同じようにいなくなった患者は過去に複数人存在し、今も見つかっていない。
目の病気か脳の異常か、それともまったく別の現象か、医療が発展した現在も原因はわかっていない。
ただ患者たちは恐怖よりも期待や喜びの表情を見せることが多く、消える前に「誘うような言葉」を残す。
次に同じ症状の患者が出た場合はさらに詳しい記録を残し、消える瞬間を確認する必要がある。
しかし私自身、最近「視界が少し明るい」と感じることがしばしばある。
次の報告者が私でないことを祈る。
「白目化エピファニー症候群」症例報告 裏拍手 @ura_154
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