2099 ひみつの保安官~私の新バディがUSA育ちだったんですが~

禁断で秘密のこどもたち

当然、育成計画表の難易度バク上がりだぁぁあぁぁッッ！！ どうしましょう？

どの脳みそが思ってんだよ、頑張れるとか。

「朝の私はなんて無責任な…………リリム〜〜ッ！！！！」

　自宅の官舎マンションにて23時、魔宝石騎士（マジュエルナイト）に登場する兎の妖精 リリムの巨大ぬいぐるみへハグして落胆する。

　2本のモコモコ垂れ耳の隙間からテーブルにあるノートPCを見つめた。点滅するカーソルが早う打てと私を責めてる気がする。

「こ、こっちはルムチルドレンの新人とか初めてなんだぞ？！

　……ダメだ、一旦お風呂いこ」

　立ち上がり、リビング＆ダイニングキッチンを抜け洗面所の先の戸を開けた＿＿＿＿その人間を口にするのが唯一の幸福となった病みつきのジェミニは、理性や常識をどこへと飛ばしたか、体力と知力と夜行性の本能を犯罪に注いでくる。

これまで共存してきた隣人とはとても思えない。

知ってる側からすれば、超イカれた怪物に思えるよ。実際。

……その怪物への有力な対抗者がルムチルドレン。熱いかな？

ルムチルドレンとは『国家主体のmālumプロジェクトにより産まれた特別な遺伝子の特性を持った子供』のことだ。

昔は日本の特許技術だったが、解禁された現在じゃ世界中で造られてる……ちなみにmālum（マールム）はラテン語で林檎を指し、聖書の禁断の果実も意味する。まぁ確かに色々OUTだもんね、私（・）た（・）ち（・）の存在。

だから界隈では『禁断のこども』と呼ばれるし、世の絶対の秘密なのだ。

「入るか」

お湯跳ねる浴槽から顔を上げた際、横顔の左耳裏に印字されたバーコードが鏡へ映った。

ちょっと顔をしかめて両耳から特注の耳栓を外す。

特性も日常生活において困ることしかない……「耳が良い」とか、マジで動物の兎じゃないんだよ。あぁどうしよう。

「チルドレン同士のバディ案がどうして通るわけ？

　しかも、目の特性って何……まさか本気で透視か？？」

　こう愚痴って湯船へ潜っても暦は進み＿＿＿＿新年度４月3日。

与えられた覆面車両を背にして、その子と私は対面を果たした。資料で見たままの珊瑚色（コーラルピンク）なショートヘアの女の子。

眼鏡越しのヘーゼルアイがこちらを向く。

私服に風が通り抜けてって現実だと教えてくれる。

ドキッとした……でも、それは相手だってきっと一緒。 私より先に握手の手。

「初めまして。毘乃木さんと特巡（とくじゅん）６０３（ロクマルサン）号車に搭乗する廣目（こうめ） 瑛梨（えり）です。

すっごく色々不慣れかもしれないんですけど、よろしくお願いします！！」

おお。日本語できるんだ。学科で取ってたのかな……？

「毘乃木 沙与です。こちらこそ宜しくお願いします！

私、廣目さんの指導役も兼ねてますけどぉ……おんなじ階級・同い年なので気楽にどんどん聞いてください！……それじゃあ、行きましょうか？」

24時間の長い長い夜が、ついに今日も始まる＿＿。