第10話 刀寺 大恩寺①
「おう、唯人、こっちだぜ」
新之介が駅まで迎えに来てくれた。今日は夏休み初日の7月下旬。俺の住んでるところより、よほど都会の街並みに彼はいる。俺は挨拶を返し、
「昨日電話で話した通りなんだけど、新之介んちのお父さん預かってくれるって言ってた?」
「あーどうだろ?難しそうな顔してたなー。とりあえず話は聞くって言ったな。そもそも一万体だったっけ?お前のことも含めて、信じられないって顔してたよ」
「だよねー、言ってる俺も実感ないからなー。変な目で見られたっしょ」
「そうだな…でも本当のことだしな。俺はあれをこの目で見てるし、その時のことも説明してあるよ」
「ありがとう、助かるよ。こんなこと頼めるの新之介しかいないからね」
「あはは、まーそうだよな」
新之介は自転車で来ていた。「後ろに乗れよ」と言ってくれたが「走るからいいよ」と言い返して彼の後ろをついていった。
走るだけの単純な運動なら頭は使わない。体を動かした方がすっきりするのだ。
寺には10分ほどで着いた。都会的な街並みから少し落ち着いた住宅街に大恩寺はあった。大きな参道は綺麗に掃除されており、あたりにゴミ一つない。お守りなどを売っているお
のぼり旗が間隔よくたっており、そこには『刀寺 大恩寺 供養祭』と書かれている。どうやらこのお寺の大きなお祭りが近いようだ。
「凄いね、新之介んち、超立派じゃん」
俺は興奮して彼に話しかける。しかし、新之介は真面目な顔をして言う。
「唯人、お前汗一つかいてないな。息も切れてない。大丈夫なのか?」
新之介には俺の体の異変を話してある。しかしそれを目の当たりにして、当然ながら違和感を感じたようだ。
「…うん、このくらいなら問題ないんだよ…」
「そうか…、早く普通に戻るといいのにな。それともこのままの方がよかったりするのか?」
「どうかな?でも早く普通の体に戻りたいよ」
新之介は微笑して、
「そうだよな。さぁ、行こうぜ。ここを真っすぐ行くと俺んちだから」
二人で歩いていくと寺の本殿の脇に、これもまた大きくて立派な日本家屋があった。「おまえんち、相当儲かってるの?」と驚きを隠せない俺に、彼は「あはは」とはぐらかして玄関に向かう。
「ただいまー」と新之介が挨拶すると、彼のお母さんらしき人が両膝をついて丁寧に俺を迎えてくれた。
「いらっしゃい、葦原君ね、いつも新之介がお世話になってます」俺は戸惑いながら答えた。
「いえ、こちらが迷惑をかけてばかりで…」
そのあとの言葉が続かない。そんな丁寧な返しの挨拶なんてしたことがなかった。
「ささ、上がってください」恐縮しながら大きな丸柱、広い廊下を座敷まで通される。ほどなくして新之介のお父さんの現住職が入ってきた。
「遠いところご足労だったね。どうぞ足崩してください」そう言われても、緊張ですぐに足を崩す気にはなれない。
世間話が始まり、学校のことを中心に雑談が続けていたが、いよいよ本題に入ることとなった。
「そうか、なかなか楽しくやってるようだね。それで…、今日ここに来た要件について話してもらえるかな?」
来た!
「それが…言いにくいことではあるんですがー…」
新之介の顔を見ると、彼は‶大丈夫だよ〟と言わんばかりに静かにうなずいた。
怨霊封じの鎮魂祭 ~金光の悪霊使い 第2部~ 三川 なおた @mikocircle
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