第9話 亡霊の行方③

 お葉さんと若い殿様は深々と頭を下げている。大六はやっぱり凄い存在なんだと再認識した。彼は真剣な表情のまま俺の方を向く。 


「唯人…、気がかりなことが一つある…。この辺一帯はもともとエネルギーが集中しやすい土地柄だ。地脈、龍脈、水脈が入り混じる、日本でも十本の指に入るパワースポットになる。若月京香の家系が、代々この土地を守ってきたのは前にも説明したな」


「え、あ、はい」


 時々、大六は威厳を持ったオーラを放ってくる。そんな時は背筋が‶ピン〟と伸びて、敬語になってしまう。面倒な人だ。


「今や巫女みこはいない。しかし幸いなことにその代役を務められる人間が現れた。それが唯人、お前なんだぜ」


「……」


「今までにない代替だいがわりわりだ、何が起きるかわからない。最近、呼ばれなくても俺がそばにいたのはそのせいだ……まぁ少しだけ心に留めておけ」


「そんな大役、俺にできる訳…」


「万物は常に流転する。現状はそんな感じだってことだよ。それはさておき、今はこいつらのことだ。行ってくるからな、心配ないとは思うが、悪霊だのが出てきたらぶっ飛ばせよ」


「……うん、わかった。ぶっ飛ばすかどうかはわかんないけど上手くやるよ」


 そう言うと彼は後ろを向いて手を振りながら消えていった。残ったのは俺とお葉さんと若い殿様だ。


「じゃあ、なんだかわかりませんけど、一つお願いします。お葉さん、えーっと道定?」


《はい》お葉さんは気持ちよく答えた。道定はこちらをぎょろりと睨む。よく見ると背格好が同じくらいなので呼び捨てにしてみたのだが、やはり年上だったようだ。


「み、道定さんでいきましょうか。道定さんよろしくお願いします」


 慌てて訂正したが返事はなかった。機嫌を損ねてしまったのだろうか。それにしても口数の少ない悪霊だ。

 おもての亡霊集団はとりあえず俺の中に入ってもらうことにした。お葉さんと道定さんにもそうしてもらって、何かあれば出てくるように指示を出した。大六の言うとおり、すぐに新之介に電話して明日会う約束をする。


 もう夕暮れだ、頭は疲れているのに体は元気なまま。長時間ゲームをした時と似ている。

 俺はこの数日でその対処法を自分なりに確立していた。目をつむり、15分だけ眠る。そして3,4時間起きて、頭が限界に来たらまた15分ほど眠る。これが夜の生活リズムになっていた。 


 霊感は常にオフにしてある。オンにするといろんなモノがイメージと共に頭の中に流れ込んで、どうにもならない時は気絶する。大六が言うには『広目天様の神力に直結した能力』だそうだ。俺はまだそれを満足に使えない。

 しかし、調節はできるようになってきた。ラジオのボリュームをゆっくりと絞るがごとく、聞きたい情報だけにチャンネルを合わせることも多少だができる。まあ自分のもともとの系統?能力だから当然といえるかもしれない。


(京香さんは自分の中の膨大なエネルギーをコントロールできていたのだろうか?)


 ふとそんなんことを考える。多分出来ていなかったのだろう。出来ていたらあんな事件は起こらなかった。誰かの教えが必要だったに違いない。俺に大六がいたように…。

 頭の中がグルグル回る。もう疲れた。15分だけ眠りに就けそうだ…。

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