秘密のワルツ

猫姫花

秘密のワルツ



 昔、とっても小さい頃に祖父母の邸に招かれた。


 バレエを習っていて、ちょっとした一族の会食の折り演目を用意された。


 その間、親戚の子供たちのグループで、邸の中を追いかけっこをしていた。


 その時の私の姿は、バレリーナ。


 親戚の子供たちとはぐれてしまって、泣きそうになった。


 すると、「どうしたの?」と声をかけてきた少年がいた。


 親戚の子、なんだろうか?


 階段のあたりにある壁には、幻想的な絵画が飾ってある。


 男の子は微笑して、怖がらなくていいよ、と言ってくれた。


 絵の中から、光の人影たちか嬉しそうに出てきた。


 びっくりしている私に、男の子は「君は心優しいこなんだね」と言う。


「これはどういうこと?」


「君はきっと、将来、この邸の持ち主になる」


「どういう意味?」


「そんなことより、少し踊らないか?」


「それはそれでよくってよ。少しなら」


 こうして踊り出したのはワルツで、バレリーナの姿をしている私はそれが楽しかった。


 遠くから声をかけられて、「ここまでにしよう」と男の子。


「ねぇ、わたしあなたのことが好きみたい」


 そう言って彼のほほにキスを贈ると、彼はいつの間にか姿を消していた。


 近づいてくる大人たちを前に、知らん顔をして、演目の準備。


 見事に一興を演じた私に、賛美がたくさんあった。


 ――

 ――――・・・


 そして二十年後。


 遺産相続で邸の持ち主になった私は、久しぶりに邸におもむいた。


 屋敷内を見回って、夜。


 階段のあたりの絵画の側に行ってみる。


「あれって夢だったのかなぁ・・・?」


 すると小さく笑い声が聞こえた。


 絵画から光の人型が出てきて、いつの間にかそこには青年がいた。


 ぱっと顔色を明るくする私に、彼はほほえんだ。


「僕はこの家の当主を守護する者」


「今度は私が言うわ。ダンスをしない?」


 彼は意外そうにはにかみながら、「喜んで」と言って、私の手をにぎった。

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秘密のワルツ 猫姫花 @nekoheme_hana

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