猟銃

彼岸 幽鬼

猟銃

 広葉樹の森を慎重に歩く。あの時の罪を恥を償うために。それが、無駄死にであっても。


 銃口を黒いかたまりへ向けた。ツキノワグマだ。こちらに気づいて振り返った。


 間違いない。あいつだ。あの時、相棒が決死の覚悟でつけた深い傷痕が鼻にある。


 憎悪や復讐心は無い。ただ、このままなにもしないで死んだら相棒に顔向け出来ない。ただ、それだけだ。


 ツキノワグマは咆哮をあげてこちらに一直線に走ってくる。


 引き付けて、引き付けてから確実に当てる。


 ツキノワグマの動きがスローモーションに見える。舞い上がる落ち葉、木漏れ日を走る姿は神々しい。


 まだだ、まだだと狙い目をさぐる。


 突然、目の前が真っ暗になった。目を閉じてしまった。ツキノワグマが蹴りあげた土が目に入ったのだ。


 視覚を失った以上、もはや引き金を引くしかなかった。


 発砲音と共に強い衝撃が伝わってきた。妙な浮遊感もある。ああ、そうか相討ちか。


 一番の武器である爪と顎を使えばいいものを、やつは正面突破をしてきたのだ。


 体が地面に叩きつけられ、斜面を転がり落ちてゆく。天地が分からないけどぐるぐると視界が歪む。初夏の木漏れ日と落ち葉が万華鏡のように美しく厳しく現実を突きつける。


 いつの間にか、体は静止していた。けたたましくも勇敢な相棒の声が聞こえる。ああ、迎えにきてくれたのか。もう、未練はない。目を閉じて終わりを楽しもう。





 信じられない事に目が覚めた。終わりではなかった。終わらなかった。


 また助けられてしまったのだ。

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猟銃 彼岸 幽鬼 @meem

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