第25話
それは中学二年生の冬休みのことだった。
私には二人の仲のいい友人がいた。
一人は男の子で、一人は女の子。
二人とは、小学校からの付き合いで、それはもう、仲が良かった。
「星那ー、今日、一緒に帰ろー」
そう声をかけてきた女の子は、七海菜緒ちゃん。
「はい、いいですよ」
「おっ、俺も一緒に帰っていいか? 他の友達、みんな部活でさぁ」
そして、こちらの男の子は佐藤大翔。
「じゃあ、3人で帰りましょうか」
「いいのか?! サンキュー!」
「じゃあ、大翔には、ついでに何か、コンビニでアイスでも奢ってもらおうかな?」
「勘弁してくれよ、菜緒。今月、金欠なの知ってるだろ?」
「それは、あんたが計画性もなしにお菓子やらゲームやらを買いまくるからでしょう?」
「うぐっ……」
私は、そんな彼らの会話を聞いて、くすりと笑った。
私は、二人の会話や、この空気感が心地よくて、気に入っていたのだ。
「じゃあ、帰るついでに、コンビニに寄りましょうか。勿論、大翔君の奢りで」
「今の俺の話聞いてた?!」
「ふふっ」
私は、まだ、これからもずっと、3人で一緒にいられると思っていた。
けれど、その日の夕方。
「じゃあ、私はこっちだから」
「おう。じゃあ、また明日な」
「また明日、会いましょう」
菜緒ちゃんと別れた後。
「なあ……星那、ちょっと話があるんだけどいいか?
「はい。なんでしょうか?」
すると、大翔君は何か、緊張した様子で深呼吸をする。
無言で私との距離を詰めてきた。
「えっと……どうしたんですか?」
彼は、熱を帯びた瞳でじっと私を見つめると――
「――星那、俺と付き合ってくれないか?」
そんな告白を私にしてきた。
当然、彼を友達だとしか思っていなかった私は困惑。
もしも、この告白を断れば彼はもう、私と関わってくれないだろうか。
でも……逆に受け入れれば、菜緒ちゃんが疎外感を感じるようになってしまうし……。
いや、そもそも私が好きでは無い時点で、告白は断るべきだ。
それこそ、誠実ってものだろう。
「ごめんなさい……私は大翔君とは、付き合えません」
そうして、私は彼の告白を断った。
「そ、そっかぁ……いや、そうだよな。実はさ、冗談で言ってみたというか……ほら、別にあんま大した意味はなかったんだよ。だから、気にしないでくれよ?」
しかし、誤魔化す彼の声には、涙が混じっていた。
その健気な姿が一層、私の罪悪感を増長させていく。
「じゃあ、俺は習い事あるからさ、先行くわ……じゃあな」
そうして、彼は走り去っていた。
私はそれを追いかけずに、じっと見つめていることしかできなかった。
その時だった。
「――ふざけんなよ、このクソ女」
突然、背後から服の襟を掴まれたのだ。
「だ、だれ……? 苦しい……」
「あら、星那、私の声忘れちゃった? まあ当然だよね、友達のことなんて、どうとも思ってないんだから」
「え……な、菜緒……ちゃん」
振り返ると、怒りで顔を真っ赤に染めた菜緒ちゃんの姿があった。
「なんで……どうして……苦しいよ、離して……」
「はあ? なんであんたが被害ヅラするわけ……! 大翔のことがずっと好きだったのに、あんたに取られた私の気持ち考えてよ……ッ!」
「え……」
「それも、相手を好きにさせてから振るなんて、最低ッ!」
菜緒ちゃんは、苛立った様子でそう言い放った。
「ち、ちがっ……盗ったとかじゃなくて……私は、二人ともずっと友達だと思ってて……」
「はあ? あんたが私と友達? ……な訳ないでしょ! 私は、あんたと友達になりたくて一緒にいたんじゃなくて、大翔があんたと仲良くしてたから、一緒にいただけ……勘違いしないでよね」
「ぁ……」
世界から色が失われた。
私は絶望と空虚な思いで、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
友達が二人いた……と思ったら、片方は下心、もう片方は、ただの打算から私に近づいてきただけだったのだ。
「じゃあ、あんたなんてもう、知らないから」
菜緒ちゃんはそう吐き捨てて、どこかへ行った。
きっと、大翔君を追いかけに行ったのだろう。
「私って……我ながら愚かですね……」
本当に、何を勘違いしていたのだろうか。
私は近くのベンチに腰掛けて、乾いた笑いを漏らした。
自然と涙も溢れてきた。
「――ねえ、大丈夫?」
けれど、その時……声をかけてきた人がいた。
顔を上げると、そこにいたのは制服を着た男の子だった。
体格からして、私と同じくらいの年だっただろうか。
「……大丈夫じゃなかったら、なんですか? どうせ、あなたも下心で近づいてきたんでしょう?」
「いや、そういうわけじゃなくて……ただ単に、泣いてる人がいたら心配になってさ」
「……でしたら、そんな心配、必要ありません。もう話しかけないでください」
「そっか……」
男の子は、申し訳なさそうにそういうと、どこかへ去っていった。
これでいいのだ。
どうせ、私に近づいてくる人は打算か下心。
こうやって相手を遠ざければ、相手は悲しまずに済むし、私は愚かな勘違いをしなくて済む。
「――これ、どうぞ」
すると、さっき聞いたばかりの声が近くから聞こえてきた。
同時に、私の横に温かそうなコーンスープが置かれた。
「じゃあ、俺はこれで」
そう言って、男の子はどこかへ去って行った。
思い返せばあの男の子って――
脅されてナンパした相手は、『月下美人』と呼ばれてる学校一の美少女でした〜勘違いヤンキーから助けたら、俺にだけデレるようになったんだが?!〜 わいん。 @wainn444
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