第4話 こぼれる

 「会いたかった」


 涙と共に言葉がこぼれた。

 偶然の再会だった。彼と見つめ合ったのは5秒だったのかもしれないし、1分だったのかもしれない。


 雑踏の中全ての音が無くなった。

 目の前には何度も会いたくて会いたくて、夢にまで見た彼が立っている。忘れられずに苦しんだあの日々がよみがえる。

 

 彼の隣にいた時の私はきっと輝いていたはず。今はどうか? 私はあの頃と変わってしまっただろうか? あの時の輝きは無くしてしまっただろうか?


 それぞれの時を過ごした私達の人生。お互いに歳を取った。残り少なくなった2人の未来。もう出会う事は、交わる事は無いと思っていた未来。



 しかし……。

 宿命の赤い糸は切れることなく私と彼を結んでいた。

 どうして彼にとって私だったのか? 私にとって彼だったのか? 

 

 答えは2人で探して行こう。

 手を繋いで、歩幅を合わせて歩いて行こう。いつまでもこの手を離さないで笑って歩いて行こう。

 沢山のモノを犠牲にしてきた。沢山の人を泣かせてきた。それでも2人で選んだ人生。罪深い人生。


 こぼれた涙が私達の残り少ない未来を変えた。



 あの日の偶然は必然で、今日この日の為のものだった。


 彼の最後を見送って、私も旅立ちの準備をしよう。離れていた時間を埋める為どこまでも一緒にいよう。


 待ってて。直ぐに行くから。きっと直ぐ会えるから。お互い違うカタチになっても、どんな暗闇でも見つけられるから大丈夫。

 

 彼に会えない時はずっと月にお願いしてきた。だからきっと月が教えてくれる。彼を照らしてくれる。迷わず彼に会いに行ける。


 月明かりの下、彼と過ごそう。


 

 


 

 


 

 



 

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