ワンタイム・ツーチャンス

蠱毒 暦

無題 ヒーローの帰還

高校生時代。俺は恋人を殺した。


……自分の地位の為に、裏切って…罵倒して…見捨てた。


自殺する前日。寂しそうで…今にも、消えてしまいそうな、虚な瞳で遠くで喋ってた俺を見つめていたのは、今でも覚えてる。


「…!」


だから…なのかな。早朝の満員電車。誰もが痴漢や、痴漢冤罪に怯え、我関せずの姿勢を貫く中…彼女の隣に座っていた俺だけが、気づいてしまった。


タイムリミットは、1分あればいい方だろう。電車の扉が閉じるまでに電車を出なければ、彼女は今日か明日にでも…死ぬ。


【〜〜〜♪】


「っ…すいません、降ります!降ります!!」


その上、彼女を追いかけないとだから絶望的だ。それでも人を押し除けてでも、立ち上がって出入り口へと向かうのは…何でだろうな。


「っ…ちょっと。」


罪滅ぼしのつもりなら、馬鹿げた喜劇もいい所だ。今更、償っても帰ってこない。大切だった人が亡くなっても…理不尽に時は過ぎ去っていく。


「キツイ…」


赤の他人を助けた所で何になる。地位や名誉が欲しいのか?馬鹿馬鹿しい…人はいつか死ぬ。お節介もいい所だ。


また、なれもしないヒーローになりたいのか?サラリーマン野郎の俺は。



——……くんは、わたしのヒーローだよ。



「どいて下さいっ!!!」


見捨てた癖に。加担した癖に。見殺しにした癖に……!!!今更、何考えてる?どうせ、間に合わない。無意味だ。



【ドアが閉まります…ご注意下さい。】



けど、人を退かそうとする両手も…進もうとする両足も…俺の指示に従ってくれない。



【ピンポン…ピンポン…】



諦めたんだろ…もう。大人しくしとけよ。


「…ぁ。」


後1歩足りず、無慈悲に扉が閉まった。


「……。」


「あっ。あの人、駅に降りれなかったダサっ」という視線を感じた俺は俯いてスマホの電源をつけて、気配を消そうと……



【ピンポン…ピンポン】



信じられない事に1分も経たず、もう一度、扉が開き、思わず顔を上げた。


「…は。」


気づけば俺は、さっき座っていた席に座っていて、隣に座っていた彼女が立ち上がり、他の降りる人達と共に、出入り口から出て行くのが見える。


俺は迷わず席を立つ。


赤の他人と、自分…天秤にかけるまでもない。


「ヒーロー…上等っ!!」


ざわっ…


……



余裕を持って電車から出て、視界に映ってる彼女を追いかけようとする寸前、後ろから…声が聞こえた。



———…を。今度は、間違えないでね。



俺は振り返らずに走り、あの子と付き合っていた頃みたいにニカッと笑った。


                   了


































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