第4話 バレンタイン

土曜日、空はすっきりと晴れていて、絶好の花見日和だった。


 公園にはすでに何組ものグループがシートを広げていて、あちこちから楽しそうな声が響いている。


 「柚葉!こっちこっち!」


「わぁ、すごい!お弁当めっちゃ豪華!」


 みんなでおかずを持ち寄ったお弁当は、まるでバイキングのように賑やかだった。


 柚葉は瑞稀の隣に座り、桜を見上げ、思わず笑みが溢れた。


 (わぁ満開だ)


 風が吹くたびに、ひらひらと舞い落ちる花びらが、まるで誰かの手のひらからこぼれ落ちているようだった。


 「よっ」


 不意に隣に影が落ちる。


 悠斗だった。


 「・・・本当に来たんだ」


 「本当に・・・って、疑ってたのかよ」


悠斗はそう言いながら、当たり前のように柚葉の隣にドカッと座り、缶ジュースのプルタブを開けた。


その様子を瑞稀がニヤニヤしながらみていた。


 「んだよ」


悠斗は、瑞稀のニヤニヤした顔が気に入らなかったのか、不機嫌そうに瑞希をみた。


 「いや、当たり前のように柚葉の隣に座るなぁって思ってさ」


「幼馴染なんだから、別にいいだろ」


「幼馴染ねぇ。

夜月くんってさ、柚葉以外の女子とあんまり喋らないよね?」


 「は?

今、お前と喋ってんだろ?」


「そうじゃなくて。

夜月くんって普段クールっていうか、あんまり他の子と絡まないじゃん。でも柚葉とは普通に喋るし、そうやって当たり前の様に隣に座るし」


「そりゃあ、こいつとは昔から一緒にいるしな。大体興味のない奴と一緒にいる必要ねぇだろ」


「悠斗らしいね」


柚葉は、相変わらず一匹狼気質の悠斗に苦笑いしていた。

悠斗は友達がいない訳じゃない。

ただ、交友関係を無駄に作らずに仲の良い子とだけ一緒にいるタイプだ。


小中学の時、中にはそんなクールなところが、女子には他の男子とは違って大人びてカッコよくみえてたらしく、モテてた時期もあった。

だが、悠斗は興味がなさそうだった。

その一方で、その態度が気に入らない。と悠斗に突っかかってくる男子もいて、トラブルが起きたりもしていた。

悠斗の事をカッコいいって思った女子の中に好きな子がいたのか、もしくはモテてるのが単に気に入らなかったのか・・・。

更に悠斗はこの性格だ。

トラブルがちょいちょい起きていたので、柚葉からしたらヒヤヒヤもんだった。


そんな昔の事を思い出していたら、フッと疑問が浮かんだ。


「告白・・・」


「あ??んだよ突然」


柚葉は自分でも気づかないうちに、ボソッと呟いていた。


「あ、いや、そういえば悠斗って昔はよく女子に告白されてたのに、彼女いた事なかったなぁって・・・思って・・・」


「あ??何で好きでもないやつと付き合わなきゃいけねぇんだよ」


「え!?なになに!?

夜月くんってそんなにモテモテだったの!?」


「うん。結構バレンタインでチョコ貰ったりしてたよね?」


「あれは、いらねぇって言ってんのに、強引に押し付けられたんだよ」


「押し付けられたって・・・。

なんかその女子が気の毒だわ」


瑞稀は、片手をおでこに当てながら、悠斗の発言に呆れつつため息を吐いた。


「いらねぇもんはいらねぇんだから、仕方ねぇだろ」


「じゃあ柚葉のは!?

まさか柚葉のチョコもいらないとか言ってたんじゃないでしょうね!?」


「・・・コイツからは貰ってねぇよ」


悠斗は、どこか不貞腐れてような様子で答えた。


「え!?」


瑞稀は驚きながら、柚葉の顔を思いっきりみた。


「あ、いや・・・

最初は毎年あげてたんだけど、年々貰う数が増えてたし・・・

あれだけチョコ貰ってたら、私のは今更いらない・・・かなっ・・・て・・・。

あの時 女子からのチョコ迷惑だって言ってたし・・・」


柚葉は気まずそうに、悠斗の顔をチラッと横目で見た。


「だからってお前からのチョコが迷惑なんてひと言も言ってねぇだろ。

つうかお前、俺には渡さなかったくせに他の野郎にはあげてたしよ・・・」


「何で知ってんのよ。

それに、そのチョコは元々悠斗にあげようと思って持ってたんだけど、いらなさそうだったから・・・

だから公園でたまたま会った男子にあげただけだよ。

自分で食べるの何か虚しい気がして・・・」


「んだよそれ」


悠斗はどこか脱力したような感じだった。


「え!?まさかチョコあげてなかったこと気にしてたの?」


「・・・。」


悠斗は柚葉の質問に何も答えず、少し拗ねている様子だった。


(気にしてたんだ・・・)


瑞稀はそんな2人の様子をみて、ご馳走様。と言いながら柚葉の肩をポンッと叩いて、他のグループに混ざっていった。


柚葉は、バレンタインの事をそんなに気にしているとは思わず、どうやったら機嫌が直るか考えていたため、暫く2人の間に沈黙が続いた。


「おい・・・」


「へ?な、何?」


「そいつの事好きとかじゃなかったのか・・・?」


「そいつって?」


「チョコあげてたヤツのことだよ!」


「そ、そんな訳ないでしょ!!

そもそも、その日初めて会った子だったから、どこの誰かもわからないし」


「ホントだろうな」


「ホントよ!

顔すら憶えてないんだから!」


「威張って言う事かよ・・・」


悠斗は、ワザとらしく大きなため息を吐き、柚葉の頭を強引に撫でた。


「わ。ちょ、ちょ何!?

髪グチャグチャになるんですけど!!」


悠斗は柚葉の頭を軽くポン。と叩き、どこかスッキリした様な顔で、笑っていた。


「ばーか」


「な!?」


柚葉はそんな悠斗の笑顔が眩しくて、少しドキッとした。


悠斗は、そんな柚葉の様子に気づかず、ぼんやりと桜を見上げた。

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