【『小説家になろう』ジャンル変更分析レポート】(テキスト版)

音寝 あきら(おとねり あきら)

第1話

 今春から『小説家になろう』のジャンルが再編成されるそうですね。

「今まで少しでもランキングを上げようと『異世界転生チート』を書いてたけど、これからは他のジャンルの方が有利かな?」

 など、この再編成でどうなるかについて興味や疑問がある人は多いのではないでしょうか。そこで、投稿された作品から数百作品ほどのデータを取って、いろいろ分析してみました。


 私はこれまで、なろうの各ページや機能をあまり見たり使ったりしていなかったのですが、

 結果は……


 異世界ものが多いの、知っていましたよ。

 いやいや、正確には知っているつもりでした。でもでも、

 こ、ここまでぇ〜?


 うわああぁ~!! と叫んで床をゴロゴロ転げ回りたくなりましたよ、足をバタバタしたくなりましたよ、そりゃあもう。でも多分、みんなは知っていたのでしょうね。

 ……チートってこんなに人気なんだ。そう言えば、チョロいヒロインはチョロインだけど、チートなヒーローはチーローとか言わないのかなあ。

 まあ、私が独り勝手に驚嘆し悶えるのはどうでもいいとして、ここで述べる考えは私個人の私見に過ぎないとしても、データなどは他の方にも興味があるのではと思います。


 ではでは、コタツみかんでもしながら、分析結果をじっくりとお楽しみ(或いはおののき)くださいませ!



■目次(めいた何か)



【何について分析するか?】


■実際の分析はどのようにしたか(分析前の状況)


■『ランダムサンプリング』は完全に偏りのないデータではなかった。


■何故『なろう』は『異世界』が多いのか? 分析前の個人的な推測



【『ランダムサンプリング』の分析結果】


■ジャンルごとの内訳


■『異世界』と『それ以外』との違い


■話数の内訳


■話数とブクマの付きやすさの相関性


■話数と総合評価ポイントの相関性


■ブクマ数の割合



【『トップランカー』の分析結果】


■ジャンルごとの内訳


■話数と総合評価ポイントの相関性



【ジャンル変更後のランキング】


■総合ランキングを『異世界』/『それ以外』で分けるとどうなるか?


■ジャンル別のランキング ジャンル変更前後の変化



【ジャンル変更後、『異世界』と『それ以外』で、それぞれがどれだけ有利/不利になるか?】


■カクヨムとの相互作用は?


■登録必須キーワードは適切に付けましょう!


■『異世界』と『それ以外』とでは、どちらが上位にランクインしやすいか?


■『異世界』はこれからもデビューしやすいか? デビュー後も売れるか?


※このレポートはあくまでポイントやランキングを高くするためには、どうするのが効果的かを分析したものであり、小説の書き方、在り方としてどうあるべきかを説いたものではありません。どうするかは当然ながら本人の価値観の問題です。私自身、ここに書いたやり方に従うつもりはなく我が道を行っています。



【何について分析するか?】

 もちろん『小説家になろう』で『異世界』『それ以外』を分けた場合について分析するわけですから、投稿する小説を異世界ものにするかしないかで、ランキングの上がりやすさやブクマの付きやすさについて、どちらの方がどれだけ有利か? を比較検討します。

 そして最後に、それらのデータを元に、ジャンル変更前と変更後でどうなるか。総合評価ポイントを上げるにはどうするのが有利か、を予想します。


 そのため、『ランダムサンプリング』(偏りなくランダムにピックアップした百作品)がどうなっているかを検証し、また『トップランカー』(総合ランキングトップ100)とどう違うかも比較します。



[採集するデータの範囲]

 以下は連載中の小説のみ。完結作品、短編やエッセイなどは除外。


  『ランダムサンプリング』

『更新された連載中小説』に投稿された作品で、二〇一五年一二月三〇日 00時00分時点から百作品分。

 もちろんランキングに関係なく収集されたデータです。

 データに操作を加えないため、自分が投稿していないタイミングのデータにしています。

 年内にこのレポートを作ろうと思ったのに、後回しにしているうちに二月になってしまった……


※ただし、データを取得、分析後に更に情報が必要になったため、二〇一六年二月六日 午後四時頃にもデータの追加・再収集を行っています。


  『トップランカー』

『累計の総合ランキング』のトップ100(二〇一五年一二月三〇日 00時00分時点)


  『ジャンル別トップ100』

 ジャンル別の『年間●●ランキングBEST100』(二〇一六年二月一九日 午後七時頃)

※『詩』『エッセイ』は除きます。『その他』は含めます。

※実は、このデータ取得は何度もやり直しています。二月一九日というのは最終バージョンです。



[分析のために収集した項目]

◆総合評価ポイント

◆話数

◆ブクマ数

◆ジャンル

※評価人数や文字数もデータとして収集したのですが、結果的に分析には使用しませんでした。



[ジャンル]

 まさに今回の変更点。ジャンルは『ジャンル』と『大ジャンル』という二層構造になるわけですが、多くのユーザーが注目しているのは『なろう』の該当のお知らせのタイトルが示す「ジャンル」そのものよりも、むしろお知らせの終わりの方に補足のように書かれている『異世界転生/転移』という登録必須キーワードの方でしょう。

 このレポートではもちろん、『異世界転生/転移』かどうかを分析の中心とするので、『なろう』ではキーワード扱いとなっている『異世界転生/転移』を、このレポートの中だけ便宜上『異世界』というジャンルとして扱うこととします。また『異世界』でない作品を『それ以外』というジャンルとし、本来のジャンルである『ファンタジー』『学園』など(ただし異世界でない)を、『それ以外』のサブジャンルとします。

 ただしサブジャンルごとの比較などについてはほぼ分析していません。

 ジャンルの判断は作者の設定したジャンル、およびキーワード、あらすじを見て、場合によっては小説の本文も少し読んだりしています。正直、見落としはあるかも知れません。


 サブジャンルは基本的に現在(つまりジャンル変更前)ジャンルとして設定されているものに従いますが、ジャンル変更後の新ジャンルである『VRゲーム』に該当するものは『VRゲーム』というジャンルとして扱います。

 というのは、VRゲームはラノベとして(特になろうでは)人気のジャンルであり、しかも『ファンタジー』と違って『なろう』ユーザーと一般的なラノベ読者との間に、人気度で大きな差があると思えるので、それに該当するかどうかを見ることに意味があると思えるからです。



[作品のタイプ]

 各作品の方向性(作品の性質やジャンルでなく作者の姿勢)として、以下の二種類のタイプを定義しました。


『ガムシャラ型』

 ランキング上位を目指して、精力的に執筆された作品。更新ペースが速く、作品の話数も多い。また「何曜日の何時の投稿だと読まれやすい」のようにランキングを上げるのに有利な方法を検討し、実践することにも熱心。

 できるだけ『異世界』で作品を書こうとするのもこのタイプだと言える。


『マイペース型』

 ランキングを上げることに無頓着、或いはあまり精力的に書かずマイペースに執筆している作品。

「精力的でない」と「ランキングに無頓着」とはここでは区別していません。


 以上は作品を二種類に振り分けるというより、方向性として「ややマイペース型」「かなりガムシャラ型」のように評価します。

 実際、ランキングやブクマ数上昇に有利になるような選択をしつつも、執筆スタイルとしてはマイペース型の作品も割とあるでしょう。このレポートに興味を持って戴いた方も、必ずしもガムシャラ型だけではないはずです。

 また「気持ちはガムシャラ型だけど筆は遅いし長い作品を書けないので、表面上はマイペース型に見える」や「ランキングは興味がないので好きなように書いているが、次々と思い付いてはどんどん執筆し、数字だけで見ればガムシャラ型のよう」なども実際にはあるでしょうが、各作品をそこまで読み取っていくのは労力として現実的に困難なので、あくまで数字の上だけでガムシャラ型かマイペース型かを判断します。この点はご理解ください。


 これらは本来、作品というより作者の姿勢ですが、作者単位でなく、あくまで作品単位で捉えています。というのは、作者の姿勢を知るには作者の他の作品を確認する必要もあり分析の作業量が膨大になる一方、最終的には作者でなく作品を分析するのがこのレポートの目的なので、労力が割に合わないからです。




■実際の分析はどのようにしたか(分析前の状況)


 まず『トップランカー』はトップ100でなく、トップ101にしました。というのは、ある作品が前編と後編をそれぞれ別の作品として発表していたからです。

 連載作品を二つに分けて発表する行為は別に『なろう』的に問題はないでしょう。しかし、ここでの分析上はかなりイレギュラーなデータになってしまう(連載開始から短期間でトップ100入りしてしまう)ため、便宜上一件のデータとしました。ブクマ数以外は前編と後編の合算、ブクマ数のみ後編分を使用しました。結果として「トップ101までの100作品」となります。

 ちなみにこの作品は前編・後編、どちらもトップ100にランクインしていました。すごい!


 また『ランダムサンプリング』について、00時00分ちょうどに投稿した作品は普段、一〇~三〇作品くらいなのですが、この日(一二/三〇)はなぜか百作品を超えていました。それで00時00分ちょうどの作品を全部データ収集してしまいました。後で思うに、別に記載順にちょうど百作品までを収集範囲にしても問題なかったのですが。

 でもせっかくデータを取ったので、百作品を超えた分も切り落とさず、データとして活用することにしました。ちなみに一四五作品です。

※後日百作品ほど追加でジャンルのみ調査したので、『ランダムサンプリング』は合わせて二四五作品の場合と、最初に調査した一四五作品だけの場合があります。ちょっとややこしくて混乱させてしまうかも知れませんが、ご了承ください。



■『ランダムサンプリング』は完全に偏りのないデータではなかった。


 データ収集後に気付いたのですが、『ランダムサンプリング』は原理的に、平均よりもややガムシャラ型寄りになっています。


(1)0時に投稿すると、他の時間帯のものよりも見てもらいやすいと言われていますよね。とは言えマイペース型でも「せっかく投稿するんだから、できれば読んでもらえる確率を上げたい」と、この時間に投稿する人もいると思います。ただ、他の時間に投稿する人よりは投稿時間を気にする分、平均よりもややガムシャラ型だと言えるでしょう。

「0時ちょうどだとキリが良くていいな」と何となく思って深く考えずにこの時間でデータを取って、ちょっと後悔しました。

 しかし逆に他の時間のデータを取った場合、0時台が無いだけに、相対的にはややマイペース型寄りになってしまいます。偏らないデータにしようと思えば二四時間分のデータを取るしかありませんが、さすがにそれは無理。なので、このままで妥協しました。すみません。


(2)仮に、毎日更新している作品が百作品、二日に一度更新している作品が百作品、十日に一度更新している作品が百作品あるとします。つまり、それぞれの比率が一対一対一です。

 一日分(二四時間分)のデータを取った場合、毎日更新している作品百作品はすべてカウントされます。二日に一度更新している作品は二分の一の五〇作品、十日に一度更新なら一〇作品カウントされることになり、それぞれの比率は一〇対五対一になります。二四時間でなく一時間のデータでも、一分間のデータでも、この比率は変わりません。

 つまり『ランダムサンプリング』は、更新ペースの速い作品ほど、この中に含まれやすくなります。要するに、収集した作品群の更新ペースの平均よりも、なろう全体の更新ペースの平均の方が遅いと考えられます。ちなみにこのレポートでは更新ペースの分析はほぼしていません。しかし一般的に、マイペース型よりもガムシャラ型の方が更新ペースが速いでしょうから、『ランダムサンプリング』のデータはなろうの平均よりも、ややガムシャラ型寄りになっているはずです。


 以上(1)(2)より、『ランダムサンプリング』はややガムシャラ型寄りになっているのです。ところで集計後に思い付いたのですが、投稿された作品でなく「ユーザーID:1~100」みたいに範囲を決めて、該当ユーザーの全作品を調べれば完全に偏りがなくなりますよね。

 始めからそうすれば良かった!

 と思ったけど、調べてみるとそう言う検索はできないようですね。結局この方法が一番マシなようです。



■何故『なろう』は『異世界』が多いのか? 分析前の個人的な推測


『異世界』が多いのは、それを書きたい人が多いからなのか? それとも読みたい人が多いから、ランキング上位や書籍化作品に『異世界』が多いのか?

 私の予想では、読みたい人が多いから。ただし『異世界』は人気が出やすいために、敢えて『異世界』を書こうとする人も少なくないと思います。

 また、ガムシャラ型はできるだけ『異世界』を選ぼうとするでしょうが、それ以外のジャンルで頑張る人もいるでしょうし、逆にマイペース型でも『異世界』を書く人もいるでしょう。

 と言うことで……


(1)『トップランカー』では『異世界』がとても多い。


(2)『ランダムサンプリング』では『異世界』は割と多い(過半数)。ただし『トップランカー』での比率よりは少ない。


(3)『異世界』でのガムシャラ型とマイペース型の比率は、『それ以外』での比率よりも、ガムシャラ型の割合がやや高くなっている。


 と予想しました。多分、多くの人の予想と大差ないと思います。

 しかし分析結果は「ああ、やっぱり。こんなものだね」ではなく「ええっ! こんなに?」と驚くような内容でした。



 では、そろそろ分析結果を見ていきましょう。



【『ランダムサンプリング』の分析結果】


■ジャンルごとの内訳


 ジャンルは原則的に、作者の設定したもので計上していますが……結構いい加減なんですね。「さすがにこれは違う。このカテゴライズは無理がある」と私の解釈で再分類したり、逆にそのままのジャンルで分類したものの「これで良かったのかなあ?」って思ったり。

「学園オカルト異能力バトル(イラスト入り)」=「文学」の時は「ねえよ!」と全力で「ファンタジー」に振り分けましたが、意外と「あり」だったりして。

『学園の悪と戦う若者の誇り、そして苦悩を鋭く描く野心作』

『変身ヒーローの戦いを芸術の域にまで高めた怪作が、文学の限界に挑む!』

 ……なんてことはないだろう、と思いつつ、念のために本文を読んでみましたが、普通にラノベ的な作品でした。

 ジャンルが『ファンタジー』となっているものの超長いあらすじがさっぱり理解できず、本文も一万文字ほど読んでみたけど、小説かどうかすら分からなかった不可思議かつ意味不明な作品も、これ以上時間をかけて悩むのも不毛だと思い、分析対象から除外しました。

 色んな作品があるんですね。



◆異世界       ―――  四五%(六五作品)

◆VRゲーム     ―――  四%(六作品)

◆ファンタジー    ―――  一八%(二七作品)

◆恋愛        ―――  五%(八作品)

◆学園        ―――  九%(一三作品)

◆SF        ―――  五%(八作品)

◆残り        ―――  一二%(一八作品)

※『それ以外』(異世界以外の作品)は五五%(八〇作品)



 念のため、二〇一六年二月六日午後四時頃にも百作品をもう一度ランダムサンプリングしてジャンルごとの内訳を再度見てみました。



◆異世界       ―――  三九%(三九作品)

◆VRゲーム     ―――  七%(七作品)

◆ファンタジー    ―――  二二%(二二作品)

◆恋愛        ―――  九%(九作品)

◆学園        ―――  四%(四作品)

◆SF        ―――  三%(三作品)

◆残り        ―――  一六%(一六作品)

※『それ以外』は六一%(六一作品)



 データを取るタイミングが違うと、最大六%も変わっていました! 百作品中、一作品のジャンルが変われば一%変わるので、当然と言えば当然かも。誤差を一%以下にしようと思えば、データ数として千作品は必要そうです。誰か実際にやってみませんか? 私よりも高精度の分析ができますよ。大変だったので、私はもうやりません(笑)。



 データ数が多いほど精度が高まるので、二回に渡って収集したデータを合算してみました。総計二四五作品です。


 以降は、ジャンル分けのみ、この二四五作品のデータを『ランダムサンプリング』として使用することにします。ただし、追加で収集した作品はジャンル分け以外のデータを取っていないので、ジャンル分け以外では最初に収集した一四五作品のデータを扱います。



◆異世界       ―――  四二%(一〇四作品)

◆VRゲーム     ―――  五%(一三作品)

◆ファンタジー    ―――  二〇%(四九作品)

◆恋愛        ―――  七%(一七作品)

◆学園        ―――  七%(一七作品)

◆SF        ―――  四%(一一作品)

◆残り        ―――  一四%(三四作品)

※『それ以外』は五八%(一四一作品)



 私の予想は外れました。意外と『異世界』は多くはありませんでした。確かに細かくサブジャンルまで分ければ最大派閥にはなりますが、全体としては過半数を超えていません。なろうの作者たちは、売れ筋に合わせるよりも好きなものを書く、マイペース型が結構多いという結果になりました。


 ちなみに穿った推理として「私は『異世界』が好きでないし、面白く書けない。だから無理して『異世界』を書くよりは、自分に向いた作品を書いた方がランクが上がりやすい」と判断したガムシャラ型の作者たちが多い、ということはあるでしょうか?

 その判断が正しいかどうかはともかく、そのような判断した人たちは(多少はいるでしょうか)かなり少ないようです。これは別の分析から明らかになったので、その時に再度この推論について触れたいと思います。


 なろうのジャンル再編成でせないのは、『学園』が廃止されたことです。これだけ数もあるし、『恋愛』でも『ローファンタジー』でもない学園物もあるのに。学園物じゃない諸々の作品群と共に『ヒューマンドラマ』や『その他』に入れてしまうのもどうかと思います。第一、出版されている作品でも、ファンタジーに押されているとはいえ、一大ジャンルとしてその地位はそれほどマイナーでもないはず。しかも、時代の変化の中でいつかトレンドになる日が来ないとも言い切れないと思うのですが。

 過去にも「ファンタジーはもはや売れない。リアルでないとしてもせめてローファンタジー。現実世界でも『古代遺跡での冒険』のような読者に馴染みのない場所でなく、読者の周囲五〇メートル以内にあってもおかしくない、身近な場所を物語の舞台にすべき」と言われていた時期がありました。ラノベのみならずオタクエンタメの各業界で、まるで鉄則のように語られていた『半径五〇メートル理論』、結局は鉄則でなくトレンドに過ぎなかったのですね。今や(ハイ)ファンタジー全盛期。何がどう変わるか読めないものです。


 ところで、この分析をして気付いたのですが、『異世界』なのに『異世界』タグを付けていない作品を何件か見かけました。

 これはもったいないです! 後述しますが、『異世界』に興味を惹かれる読者は、『それ以外』よりもずっと多く、ブクマを含むポイントも「かなり」付きやすいです。「なろうは『異世界』で溢れているからなあ。違うジャンルの方が他の作品に埋もれず見てもらえるだろう」なんて思っている人はいませんか? 先程のグラフの通り、作品は『異世界』よりも『それ以外』の方が多いです。一方で読者は、『異世界』を読みたい人の方が多いです。作品数は多いのに読みたい人が少ないジャンル、作品数は少ないけど読みたい人が多いジャンル、どちらの方が読んでもらいやすいでしょうか?

『異世界』以外を書きたいから敢えて選ぶ。それは価値観の問題なので、本人さえ納得ずくなら別に構わないと思います。でも逆に、せっかく『異世界』を書いているのなら『異世界』タグを付けない理由もメリットもないはずです。適切なタグは必ず付けましょう!



■『異世界』と『それ以外』との違い


 ところで各作品を調べていると、ランダムサンプリングの作品でも『異世界』と『それ以外』では、かなり大きな違いがいろいろとあることに気付きました。


 まずは話数の内訳について『異世界』と『それ以外』とを比較しました。

 その前に、データ分析として話数がどのような意味を持つかについて説明します。

 将来、第一〇一話で完結する作品があったとして、たまたまランダムサンプリングの対象になった場合、それは何話の投稿時のタイミングになるか? 一話の投稿時の可能性もあるし、二話の場合も一〇〇話の場合もあり得ます。一〇一話の投稿時には『更新された連載作品』でなく『完結済みの連載作品』に振り分けられるので、その時はランダムサンプリングの対象になりません。当然ながら、どの話の投稿時になるかの確率はそれぞれ均等なので、例えば一話、二〇話、五〇話になる確率はどれも一%です。

 次に、将来二一話で完結する作品があったとしたら、一話、二〇話の確率は一〇一話完結の作品よりも増えて五%、しかし五〇話になる確率は〇%です。一一話完結の作品の場合は一話、二〇話、五〇話はそれぞれ一〇%、〇%、〇%となります。

 では第一〇一話で未完のまま終わってしまう作品だったら? 一〇一話も『更新された連載作品』に振り分けられますが、要は「第一〇二話で完結する作品」と同じです。

 ということは、例えばデータ収集した作品群で一話の作品が多かった場合、最終的に二〇〇〇話で完結する作品の一話目だった、という可能性もなくはないのですが、確率的には少ない話数で完結する作品が多いでしょう。

 つまり「収集した作品群の平均的な話数が少ない」=「完結までの話数が少ない(または未完で放置)可能性が高い」=「マイペース型の傾向が強い」ということになります。



■話数の内訳


◆『異世界』平均:九九.一話/中央値:三六.〇話

◆『それ以外』平均:九三.九話/中央値:一九.五話


 知っている人の方が多いでしょうが、一応『平均』と『中央値』の説明です。

『平均値(相加平均)』

 普通に『平均』と言えば、この『相加平均』です。計算方法は誰でも知っているので説明しませんが、これには一つ弱点があります。一部のデータが極端に高い、または低い場合(特に高い場合)、値が大きく動くのです。

 例えば九人のサラリーマンの年収がそれぞれ四〜六百万円、九人の平均は五百万円だとします。そこに年収四億五百万円の経営者が加わった時、一〇人の平均年収は四千五百万円になります。「君たち年収四千五百万もあるんだ、羨ましい」と言われたら、九人のサラリーマンはどう思うでしょう? 別の例を挙げれば、アニメーターは年収百万円だとよく言われていますが、実はアニメ会社の全員の平均年収は三百万円もある、と最近ネット記事で見ました。『異世界』も『その他』も中央値と較べて平均がかなり高くなっているのは、まさにそういう現象によるものです。

 極端に外れた数値を除外する、という手法もありますが、普通は特別な理由がない限りはしません。例えば二〇二五年の未来に東京都のホテルの過去一〇年間の年間収入を見た場合、二〇二〇年がオリンピック特需で跳ね上がっているかも知れません。それを平均に含めた上で社長が「今年は平均を下回っているぞ!」と叱咤するのも変な話です。こういう時、「特例として理由のある異常値」は除外したりするわけです。まあ上下五%のデータを問答無用で切り捨てる、という手法もあるにはありますが。


『中央値』

 全データをランク付けして、中央の順位になった値を採用する方法です。『平均』よりは納得できそう。

 しかし、例えば九九人がテストを受けた時、真ん中の五〇位になった人の点数を採用するのですが、四九位と五一位がそれぞれ五三点、四六点だったとすると、五〇位は四七〜五二点のいずれであっても『中央値』になります。『平均』が全てのデータによって値が決定するのに対して、『中央値』はたった一つのデータによって値が決まるという弱点を持つのです。


『それ以外』の話数は『異世界』と比較して、平均で五.二話(五.三%)、中央値で一六.五話(四五.八%)少ないです。平均での差が僅かなのは、『それ以外』の作品の多くが話数が少ないのに、一部の作品によって大きく平均を引き上げられていることが原因のようです。実際、中央値では大きく差が付けられています。


 話数の内訳を見てみましたが、データ収集時点での話数が少ないほど、『異世界』よりも『それ以外』が割合として大きくなっていきます。二〇話以下では顕著でした。

 一話しかない作品は『異世界』では一作品のみなのに『それ以外』では七作品もありました。

 私は『データ収集時点でたまたま話数が少なければ、それらは少ない話数で完結(または未完)になる作品が確率的に多い』と仮説を立てましたが、本当にその通りなのか追跡調査をしてみました。

 これは二月六日の一〇〇作品を含まず、一二月三〇日の一四五作品のみを基に作成していますが、その時にまだ一話だった『それ以外』の七作品、あれから一ヶ月以上、正確には三八日経った二月六日時点でどうなったのか?



◆完結     ―――  二作品(一五話、二八話)

◆連載中    ―――  三作品(一話)

◆削除     ―――  二作品



 これは驚きました! 『連載中』がありますが、どの作品も、あの時に投稿した一話のまま。二話目が出る可能性は少ないでしょう。つまり一ヶ月あまり経って、七作品の中でまだ連載を続けている作品が一つもなかったのです。しかも一話だけで終わりとか、無事に完結したけど三〇話未満とか、削除も二作品あります。

 この説明を聞いて、おかしいと思った人はいませんか?

「『その他』でデータ取得時が一話だった七作品のうち、将来三〇話以上になるのが皆無なら、『その他』で三〇話以上の作品数は全体の一/七(一四%)未満になるはず。『七作品が全滅』はたまたまで、別のタイミングでデータ収集すれば全然違うはずだ」

 なんて、思いました?

 確かにこのデータ、『その他』の八〇作品のうち三〇話以上になるのは二九作品(三五%)もありました。

 だけど、この反論は間違いなのです。

『ランダムサンプリング』として『更新された連載中作品』からデータ収集する場合、更新頻度の高い作品ほど収集されたデータに含まれやすいことは前述した通りです。だから一年に一度更新する作品|(あるかどうかはともかく)に比べて毎日更新の作品は、分析データとして選ばれた時点で作品数の比率が三六五倍に増加しているわけです。「一話で未完」の作品の更新頻度は「一年に一度」以下だと解釈できます。だから更新頻度による補正を掛ければ、三〇話以上の作品数の比率は全体の一/七未満になるかも知れません。

 では、再度データ収集してみましょう。今度は『異世界』も調べてみたいので、二〇一六年二月一四日午後六時頃に『更新された連載中作品』から一〇,六〇〇作品ほどチェックすると、そのうち一話のみのものは『異世界』が二〇作品、『それ以外』は三七作品ありました。一話だけの作品のうち全体に対する『異世界』の割合は、一二月三〇日では一/八(一二.五%)でしたが、二月一四日では二〇/五七(三五%)でした。少なくとも「一話だけの作品のうち『異世界』は全体の一/八だった」というのはたまたまだったのでした。

 では、二月一四日の五七作品が長く続くか? ですが、これから一ヶ月待つのは避けたいので、これらの作品を投稿した作者の他の作品(短編や詩、エッセイなどを除く)で三〇話以上のものがあるかを調べました。結果として、『異世界』の二〇人の作者のうち、三〇話を越える作品が一つでもある人は三人(一五%)、『それ以外』は三七人のうち四人(一一%)でした。多くの連載作品が三〇話以内で終わるのは間違いないようです。



 とにかく、話数だけを見ても『異世界』と『それ以外』で、こんなに違うんです。

『異世界』を書く人の方が多少はガムシャラ型が多いかな、なんて予想はまたしてもハズレ。『異世界』の作品は「多少」どころか「結構」ガムシャラ型、『それ以外』では相当なマイペース型でした。

 前の方で「穿った推理として」とガムシャラ型でありながら敢えて『それ以外』を選ぶ人の可能性について言及しましたが、いたとしてもかなり少ないでしょう。

 こ、困った、予定が狂う……

 これから『異世界』と『それ以外』をいろいろ比較しようと思っていたのですが、これだけ違うと『異世界』と『それ以外』からそれぞれピックアップした作品が数字上はかなり似ていても、その方向性はかなり違うかも知れません。例えば二つの作品が話数や文字数などがほぼ同じだとしても、一方は上手い下手はともかく自分の好きなように書いていて、他方はより読者が楽しめるように、より読者の興味を誘うように書かれているとしたら、総合評価ポイントやブクマ数の違いは必ずしもジャンルの違いではなく書き方や熱意の違いなのかも知れません。

 なので、これから行う『異世界』と『それ以外』との比較では、常にこのことを念頭に置き、差し引いて考える必要があります。



■話数とブクマの付きやすさの相関性


 連載作品の場合、投稿することで作品が読者の目に触れる機会を得ます。なろうの評価システムは原理的に評価が下がることはあまりないように思います。原則的には時間の経過により上がって行くことになるでしょう。特に低評価の作品は、作品の質よりもどれだけ知ってもらうか、読んでもらうかで評価が変わります。もっとも、それ自体も作品の質次第だと言えますが。

 そして『話数=投稿した回数=宣伝した回数』となるので、投稿するたびに評価が上がるチャンスを得ます。先程「時間の経過により」と言いましたが、続きを書かずに時間だけ経過しても、ほとんど上がらないでしょう。むしろ下がるかも。

 つまり、話数と評価との間には、ある程度の相関性があるのです。


 ……何だか、すごく当たり前のことを言っている気がする。なになに、「わざわざこんなこと言わなくても、みんな知ってるよ」ですか? すみません、その通りですよね。でも実は私、このレポートで分析を始めるまでは気付かなかったんですよ(笑)。大体、こんな機会でもないと、ここまで掘り下げたりしないもんなあ(言い訳)。


 では話数とブクマの付きやすさとの相関性を見てみました。

 ここでは一二月に収集した一四五作品ののうち、一話のみの八作品を除いた一三七作品(『異世界』六四作品/『それ以外』七三作品)で分析します。一話はデータとしては無効です。連載作品において、新シリーズを投稿した瞬間に、既にブクマがついていることはあり得ませんから。

 やっぱり話数が進むほど、ブクマが付いていきました。ただ、相当なばらつきがあります。つまり話数との相関性はある程度はあるものの、やっぱり作品次第ということを表しています。

 しかし、ブクマ数の多い作品と、ほぼない低空飛行の作品とで差があり過ぎです。ああ、これはまさにネット特有の現象ですよね。注目されるものとされないもののギャップが大きすぎる。書店に並ぶ作品はさすがにここまで酷いことは起こらないはず。低空飛行の作品は読んでみて面白くなかったというより、それ以前にタイトルやあらすじを見て興味がそそられないから通り過ぎた、ということでさえなく、存在すら知られなかった、検索で表示されることも滅多になかったのでしょう。知ってもらえないことは、下手であることよりも下なのです。


 ブクマ数二〇を超える作品は、『その他』が七三作品中、二一作品(二九%)、それに対して『異世界』は作品数が『その他』より少ない六四作品なのに、『その他』の倍近い三九作品(六一%)になっています。

『異世界』の方が話数が多いから当然? 確かにそれもある程度はあります。そこで『異世界』『その他』の分布の回帰直線(統計分析の手法)の『傾き』の数値を調べてみました。この『傾き』というのはブクマ数も考慮して「この位の話数なら、これ位のブクマ数が確率的に妥当」という平均ラインを示しています。『それ以外』の「5.3866」に対して『異世界』は3.99倍の「21.513」、つまり同じ話数でも統計上、『異世界』の方が『それ以外』の四倍もブクマ数が付くのです。



 次は、ブクマが付いている作品とまだ付いていない作品の内訳を見ます。


 まずは『それ以外』から。

 例えば一〇話以下では一六作品あり、そのうちブクマが一件以上付いたのが六作品、ブクマが一つも付いていないのが一〇作品となります。

 全七三作品のうち五五作品(七五%)にブクマが付いています。



 では、『異世界』が『それ以外』とどれだけ違うかを比較してみました。


 一一話以上でブクマが付いていない作品がない!

 ちなみに一〇話以下では一六作品中一二作品にブクマが付いているので、ブクマが付く確率は七五%です。全体では六四作品のうち六〇作品にブクマが付いているので九四%です。

 喩え『それ以外』を書いている人でも、ブクマを全く付けてもらっていない方は少ないと思うので、これを見ても別に羨ましいとは思わないかも知れません。ただし、これはブクマが付くか付かないかだけの差ではなく、あらゆる点で『異世界』と『それ以外』では決定的な差が付いていることを暗示しています。



■話数と総合評価ポイントの相関性


 今度はブクマではなく総合評価ポイントについて調べました。


 回帰直線の『傾き』を見ると『それ以外』の「16.327」に対して『異世界』は「58.093」と、3.56倍になっています。『異世界』は『それ以外』の三倍以上もポイントが付いているのです。

 しかも、一万五千ポイントを超える作品は『異世界』では六四作品のうち一〇作品(一五.六%)もあるのに、『それ以外』では七三作品のうちたった一作品(一.四%)だけです。


 この『傾き』は平均とは計算方法が違うのでイコールではありませんが、それに近いと思ってください。例えば『その他』は、一話につき一六ポイントぐらい付くことになります。

「あれっ、この数字おかしくないか?」

「一話につき一六ポイント? そんなはずねえよ!」

 と思った方はいませんか?

 特に、あまりランキングが高くない人。

 ええっとぉ、ここはいっそのこと、歯に付いたオブラートを剥がして率直に言いましょうか。

 ランキングが底辺の人。そこのあなた‼

 ……すみません、そこに私も含まれています。全然、他人に偉そうなことは言えないです。

 ランキング低位の人は特に、この『傾き』はその人の知っている現実から大きく乖離しているように思えるはずです。

 理由は簡単で、この『傾き』、すなわち「総合評価ポイント/話数」のばらつきが原因なのです。

 では、そのばらつきがどうなっているか調べてみました。

 ……

 ほとんどの作品が二〇ポイント以下に集中しています!


 次に、一〇ポイント以下を見てみましょう。

『異世界』の作品が二ポイント以下、『それ以外』が一ポイント以下に集中しています。ちなみに中央値は『異世界』で「4.0」、『それ以外』では「0.52」です。例えば『それ以外』では一〇話でも〇ポイント(=〇ポイント/話)の作品がそれなりにあるでしょうが、同じ一〇話でも一〇ポイント(=一ポイント/話)以上の作品も少なくなく、間の「〇.五二ポイント/話」は割と妥当かも知れません。


 つまり、総合評価ポイント/話数ではほとんどの人が低位の方に集中する一方で、一部の作品がかなり高い値をとって『傾き』の値を大きく引き上げて、多くの人にとって違和感のある「16.327」「58.093」という数字になっているのです。逆に高得点作品の作者は、自作品が他の多くの作品から突出していることを自覚しているでしょうから、自分とかけ離れた値でも気にならないでしょうが。



 色々とデータを見てきましたが、『異世界』と『それ以外』では、これだけ違うのです。

 前述のように、『異世界』と『それ以外』ではガムシャラ型かマイペース型かがかなり違うので、同じ話数でもどれだけ読者を引き付けるかの内容的な違いがあるかも知れません。

 ただ、それを差し引いても、ジャンルを『異世界』にするかしないかで、読者がどれだけ興味を持ってくれるかが大幅に変わるのかも知れません。もっともこれは裏付けの取れていない、私の個人的な憶測ですが。『それ以外』を書いて「全然、誰も見てくれない」と嘆いている人は、このグラフを見れば異世界作品を書きたくなるかも知れませんね。

 ちなみに『それ以外』を執筆中の私は、これからも相変わらず我が道を行くつもりです(笑)。



 次に、『異世界』と『それ以外』のブクマ数の割合を見ます。



■ブクマ数の割合


作品数(一話を除く)

◆異世界    ―――  四七%(六四作品)

◆それ以外   ―――  五三%(七三作品)


ブクマ数(各作品に付けられたブクマの総数)

◆異世界    ―――  八〇%(一八八,五〇二作品)

◆それ以外   ―――  二〇%(四七,二六五作品)



 それぞれの作品に付けられたブクマは『異世界』と『それ以外』とでは、これほど違う!



一作品当たりの平均ブクマ数

◆異世界    ―――  二九四五件/作品

◆それ以外   ―――  六四七件/作品



「ウソだ! 俺こんなブクマ数ねえよ」ですか? 前の方の「相加平均」の説明を思い出してください。一部の作品が平均を大幅に引き上げているのです。最近テレビで話題になった「日本人のソシャゲ平均課金額=二七〇〇円」に「普通は三万円以上課金しているはず」「この金額じゃ何も出来ない」といった声が出ていましたが、あれも「一般的な(三万円以上の)課金ユーザー」と「無課金ユーザー」に二極化されていて、その間を取ったのが平均課金額なので、当て嵌まる人がほとんどいないのです。


『異世界』と『それ以外』とでは、ブクマの付きやすさは、こんなに変わるのですね。



 ランダムサンプリングの一三七作品に対して、合計二三五,七六七件のブクマが付けられています。その内訳として、『異世界』に二九四五件、『それ以外』に六四七件のブクマが付けられていました。これはほぼ、『異世界』を読みたい人と、『それ以外』を読みたい人の比率だと言えます。

 やっぱり『異世界』を読みたい人が圧倒的に多いのですね。そしてこれは『それ以外』が、全体の過半数を占める作品数で、全体のわずか二〇%ブクマ数を奪い合っていることを示しています。残りの八〇%のブクマ数は、半分以下の作品数である『異世界』で取り合っているのです。

 これを見れば、投稿する作品を『異世界』にした方がブクマが付きやすいのは明らかですね。ただし、『それ以外』を書くよりも『異世界』にした方が、ブクマ数が四倍(八〇/二〇)になるということではありません。それぞれのジャンルで話数の平均が異なり、また、話数などの表面的なスペックが同じでも、ガムシャラ型かマイペース型かの方向性も違います。そう言った要因もあってこの比率なのです。双方の品質が同等になれば、この比率も差が縮まるはずです。ただ、それでも『異世界』を書いた方がブクマ数や総合評価ポイントで有利なのは間違いないと思います。



【『トップランカー』の分析結果】


■ジャンルごとの内訳


◆異世界     ―――  九一%(九一作品)

◆VRゲーム   ―――  五%(五作品)

◆ファンタジー  ―――  四%(四作品)

◆残り      ―――  〇%(〇作品)



 こ、これは……‼

 ここまで違うの⁉


 序盤で書いた『うわああぁ~!! と叫んで床をゴロゴロ転げ回りたくなった』と私が感じたのは、まさしくここです!

『異世界』はブクマ数では八〇%でしたが、それによって選ばれた作品もトップランカーの八〇%、ということはなく、実に九一%を占めているのです。


 ちなみに更に後五〇作品ほど、つまり一五一位まで調べてみると、一五一位までの合計一五〇作品中、異世界、VRゲーム、ファンタジー以外のジャンルの作品は『恋愛』二作品と『SF』一作品でした。ただし『恋愛』二作品は作者の設定したジャンルが『恋愛』なので、それで計上したものの、ファンタジー世界での恋愛物だったので『ファンタジー』でもあり、上位三ジャンルと全く異なる作者は一四九位の『SF』一作品のみでした。


 喩えるなら、歴史小説のレーベルで高校サッカー部の小説を出版して誰も見向きもしない、っていうくらい、ハンパなく強烈なアウェイ感がありますね!

 えっ、歴史小説でサッカーとか「カテエラにも限度があるだろ!」みたいな作品にゴーサインを出す編集者はいない、ですか?……すいませんその通りでした。


 もう、ほとんどが『異世界』です!

 実際になろうでみなさんが執筆しているのは、『それ以外』が過半数を占めているのですが、それらはほとんど一〇一位までにランクインしていません。ここまでひどいと、『異世界』を書きたがる気持ちも分かるなあ。

 ちなみに『それ以外』では最高位が第二二位。そう、トップ二一はすべて『異世界』なのです。しかもこの二二位の作品も、ジャンルは『異世界』で人気のVRゲームです。


※個人的な話ですが、私は第二二位の作品を書籍版(富士見ファンタジア文庫)で読んでいるところです。これは面白い! なろうでレビュー書こうかなあ?



■話数と総合評価ポイントの相関性


 トップランカーの場合、話数と総合評価ポイントには辛うじて相関性はあるようです。ただばらつきが大きく、一〇〇話程度で高ポイントの作品もあれば、五〇〇話以上でもそれほどポイントが高くない作品もあります。

 やっぱりただ話数だけ稼いでも駄目で、最終的には当然ながら実力が試されるのですね。この辺りは多くの人が、このレポートを読む前から分かっていたと思います。ただ私は、このレポートではっきりと数字で示したことで安心しました。

 なろうは話数だけでトップランカーになれるような、そんな不条理なシステムではないことを証明できて良かったです。


 ところで、トップランカーのブクマ数って三万〜五万もあるのですね。

 ラノベ全体の読者数に対して、なろうのユーザーは相対的にはかなり少ない。だから「なろうからデビューした作家さんはウェブからの読者が既にいる分、他の作家さんよりも有利」ということはなく、「デビュー前からの読者」というボーナスは誤差と見做せるレベル……

 だと今まで思っていました。

 でも、このブクマ数を見ると、違う気がしてきました。よく考えるとなろうって最近七〇万ユーザーを超えましたよね。市場規模って、たまに買う(読む)人も含めるので、あまりアクティブでないユーザーも市場規模に含めていいと思います。日本の高校生って多分二百万人くらいだと思うけど(ソースを提示出来ませんが、五年ほど前の数字です)、活字媒体であるラノベはコミックのように誰もが読むものじゃないから、実は『なろうの読者』って『ボリュームゾーン』(ラノベのメインターゲット)に規模が近いかも。なろうでタダで読める小説を、わざわざお金を払って書籍版を買う読者もそれなりにいるようですよね。なろう時代からの読者でデビュー後の書籍版を買う人が、仮にブクマ数の一〇%(三千〜五千人)いたとしたら……

 デビュー作は普通、三作目までは出してもらえるという話を聞いたことがあります。もっとも、レーベルにも依るそうですが。そして打ち切りかどうかの基準は、重版が掛かるかどうか。打ち切りになれば次は新作を書くわけですが、出してすぐに打ち切りを受けた作家さん、特に何度新作を出しても三作目で打ち切りになる作家さんの次の作品は、当然ながら、中々出してもらえないでしょう。

 ラノベの初版は普通、五千部らしい。あるベテラン作家さんの言葉で「必ず買ってくれる熱心なファンを五千人作れ」というのを聞いたことがあります。続編が出れば、また更に買ってもらえる。既刊にしてもシリーズの新刊によって興味を持つ人も増える。そして連載が長く続けば、新シリーズを出せるチャンスも得られやすい。プラスのスパイラルです。

 続編を出すか、新作の営業をするか。この差はとても大きいと思います。

 それがデビュー前のファンだけでも買ってくれる人が五千人いたら? もう無敵ですね! 三千人だとしても旧来のファン以外に二千人が買ってくれたら五千人達成です。まあ、そもそも『ブクマ数の一〇%』というのが算出根拠のない数字ですが。それじゃあ、これが五%なら? デビュー時点で千五百〜二千五百のボーナス、五千人というハードルには届かないものの、ハードルが低くなったのは確かです。『ブクマ数の二〇%』だったら、六千〜一万のボーナス! す、凄い。

 ということで、ボーナスの影響はとても大きい……と言おうと思ったのですが、実はなろう出身のプロ作家さんたちは多くの人が数十万部もの発行部数があったのでした。それを考えると『ボーナス』の割合はそんなに大きくない、ということになります。いずれにせよ、なろうからデビューした作家さんがデビュー作がすぐに打ち切られる可能性はとても低いということです。



【ジャンル変更後のランキング】

 結局、今春のジャンル変更によって、何がどう変わるのでしょうか?



■総合ランキングを『異世界』/『それ以外』で分けるとどうなるか?


 ジャンル変更後も『累計の総合ランキング』は、『異世界』と『それ以外』で分けることはないそうです。しかし、それぞれの100位が総合では何位になるかは興味深いので、見てみました。

「編成前(現在)の順位」→「編成後の順位」のように表記しています。括弧の中の数字は総合評価ポイントです。



 『異世界』

 ●一位 → 一位

 ●一〇〇位 → 九一位

 ●一一一位 → 一〇〇位(六七九四五)


 『それ以外』

 ●二二位 → 一位

 ●一〇〇位 → 九位

 ●三〇〇位 → 四八位(三八九一四)



 分割する以上、『異世界』でも多少は順位が上がりますが、『それ以外』作品の順位上昇度が凄まじい! しかも三〇〇位までの四八作品の大半はVRゲームでした。

 まあ、『累計の総合ランキング』は、『異世界』と『それ以外』に分割されませんけどね。



■ジャンル別のランキング ジャンル変更前後の変化


 ここでのジャンルは便宜上、ジャンル変更前のジャンルにしていますが、『変更前』に対して『変更後』は、それぞれのジャンルから『異世界』を除いたものになります。『VRゲーム』も独立したジャンルとして隔離されるので、これも除きます。


※分析対象となるデータの範囲がここだけ違います。短編や詩、エッセイは除外なので『詩』『エッセイ』のジャンル別のランキングは調査しません。ただし調査するジャンル内に『詩』『エッセイ』があったとしても(そもそも分類ミスと思いますが)、ここでは除外しません。『異世界』『VRゲーム』を取り除いたら、どれだけランクが繰り上がるかを調べるのが目的なので。



 『文学』

 ●二位 → 一位

 ●一〇〇位 → 六〇位(一四八七)


 『恋愛』

 ●一位 → 一位

 ●九〇位 → 二七位(一二四三八)


 『歴史』

 ●一位 → 一位

 ●一〇〇位 → 九一位(七七八)


 『推理』

 ●一位 → 一位

 ●一〇〇位 → 八六位(一〇三)


 『ファンタジー』

 ●一六位 → 一位

 ●八一位 → 四位(三七九九九)


 『SF』

 ●四位 → 一位

 ●一〇〇位 → 一八位(一四一一)


 『ホラー』

 ●一位 → 一位

 ●一〇〇位 → 九二位(二〇二)


 『コメディー』

 ●八位 → 一位

 ●一〇〇位 → 三七位(一九六九)


 『冒険』

 ●三位 → 一位

 ●九三位 → 二〇位(一四〇二)


 『学園』

 ●二位 → 一位

 ●一〇〇位 → 五二位(一三八八)


 『戦記』

 ●八位 → 一位

 ●九七位 → 三三位(六八七)


 『童話』

 ●二位 → 一位

 ●一〇〇位 → 八八位(一六六)


 『その他』

 ●五位 → 一位

 ●一〇〇位 → 六三位(六四二)



 ……っかしいなあ、百件数えるごとに二〇分掛かるとか、意味不明。何か、数えていると寝ちゃって、何度もやり直してるとか、ワケ分かんない。羊かよ! お布団が暖かいから?(寝転んでiPadで入力しています)

 お陰で、ここを数えるだけの簡単なお仕事を、何日にも分けてやりましたとも。


『ファンタジー』で『異世界』『VRゲーム』以外って、たったの四作品⁉ いくら何でも。まあ『ファンタジー』『SF』が『異世界』『VRゲーム』だらけなのは普通に予想出来ましたけど、他のあらゆるジャンルにこの二つ(特に『異世界』)が混じっていたのは予想外でした。


『ファンタジー』が八一位(ジャンル編成後なら四位)で三七九九九ポイントなのに較べて、『推理』は一〇〇位(ジャンル編成後は八六位)で、たった一〇三ポイントになっています。これは『推理』がわずかなポイントで一〇〇位にランクインできることを意味する一方で、このジャンルの読者層が少ないために一〇〇位でもこれだけしかポイントが付かないとも言えます。結局『推理』がランクインが簡単なジャンルなのか逆かと言うと、これだけでは何とも言えません。


『歴史』ジャンルに含まれていた『異世界』は九作品だけでした。でも「現代人が過去に転移/転生」が五三作品もありました。これって異世界転移/転生の亜種ですよね。それ以外タイムスリップが二一作品あり、残り、つまり普通にその時代の人が活躍する物語は一七作品しかありませんでした。転生はともかく、転移とタイムスリップはどう違うって? 分からないので取り敢えず作者の言い回しで判断しました。一緒な気がする。


 調べていて思ったのですが、各ジャンルに分類された『異世界』は、作者に設定された、どうとでも判断できる恣意的なもので、あまり意味がないと感じました。逆に『異世界』『VRゲーム』以外の各作品は、ストレートにそのジャンルそのもの。だからジャンル編成前の今はジャンルがほとんど機能していないように感じました。逆に、例えばジャンル編成後に『冒険』を検索すれば、読者が考えているような冒険物の作品を見付けることができそうです。

 ジャンル再編成は読者にとってはかなり便利になりそうです。今だと『異世界』『VRゲーム』じゃないハイスコアの『ファンタジー』を探そうと思えば、たった四作品しか表示されていませんからね。



【ジャンル変更後、『異世界』と『それ以外』で、それぞれがどれだけ有利/不利になるか?】


 最後の考察になります。

 ランキングがどうなるかは、既に書きました。では、ブクマや総合評価ポイントの付きやすさはどう変わるのでしょうか。



■カクヨムとの相互作用は?

 この点についてですが、正直分かりません。

 カクヨムとなろうとのカラーの違いによって、なろうの作者、読者、作品の傾向、層、ジャンルのバランスなどが変わってくる可能性は大いにあります。このレポートはそれを考慮していない、カクヨムがどうなるか、少なくとも私には分からなくて考慮できていないので、その点について留意して下さい。

 一応少しだけ考察してみると、『異世界』というのは非常に好きな人と反発する人とに二分化しているので、『反異世界派』みたいな勢力がカクヨムに民族移動して、なろうの『異世界』指数が高まる、或いは逆に、そういう事態をなろうの運営の人たちが懸念して、なろうでの異世界以外の地位が浮上するような施策を打ち出す(今回が第一弾)、などがあるかも知れないと予想しています。実際にどうなるか、正直判断に自信がありませんが。



■登録必須キーワードは適切に付けましょう!

 違反した場合は運営対応の対象になる場合があるそうです。しかしそれ以前の問題として、マナーを遵守することは作者の矜持だとも言えます。マナー違反した作品を読者はどう思うでしょうか? そもそもキーワードやジャンル、タグなどが不適切な場合、そのジャンルや作風に興味がない読者にばかり検索で表示され、逆に興味のある読者には見付けてもらえない可能性が高くなるはずです。



■『異世界』と『それ以外』とでは、どちらが上位にランクインしやすいか?


 総合ランキングは従来通りだそうですね。ジャンル別は前述した通り、『異世界』でない作品のみで行われます。


 答えはずばり、『それ以外』です。


 理由は簡単、このレポートの一番最初のデータ『ジャンルごとの内訳|(ランダムサンプリング)』をもう一度見てください。この比率は『なろう』に存在する作品の比率に近いはずです。最大のグループが『異世界』で全体の四二%、二番目に大きなグループは『ファンタジー』で二〇%でした。総合ランキングではトップ100のうち、九一作品が『異世界』でした。

 全体の四二%を占める作品の中で競争して『総合』で九一位以内にランクインするよりも、二〇%の作品の中で競争して『ジャンル別』で百位以内にランクインする方が競争倍率が低くなります。

 しかも競争倍率という数字の上だけでなく、『異世界』の方がガムシャラ型の傾向が高くて、競争相手としては手強いです。逆に他のジャンルの作品はマイペース型が多く、更新ペースが遅い、少ない話数で完結/未完になるなど、ライバルとしてはユルい作品が多くなります。

 じゃあ『異世界』よりも『それ以外』を書いた方がいいかと言うと、ちょっと待ってください! かなり上位にランクインして、ランキングから検索される作品は極僅かです。あなたの作品が該当するのであれば、確かに『それ以外』を選ぶメリットはあるでしょう。そこを目指す人には、『それ以外』を選択することも一つの作戦にはなります。ただし、ブクマの八〇%が『異世界』に付くことを考えると、『ジャンル別』でトップ100を表示して面白そうな作品を検索する人よりも、『総合ランキング』で検索する人の方が圧倒的に多いです。

 それ以外(一〇一位以下)の作品には、実は今回のジャンル変更は、はっきり言って影響ありません。

 ブクマの八〇%は『異世界』に対して付けられる、残り二〇%が『その他』に付けられる。これは読者の嗜好であって制度は関係ありません。ジャンル変更後も変わらないはずです。総合ポイント数も同じです。つまり、少しでもブクマや総合ポイント数が欲しいなら、これまで通り『異世界』の方が断然有利なのです。そしてブクマが多い人ほど、それだけ読んでもらえるということです。

 今回のジャンル変更は、どちらかと言えば作者よりも読者にとって、特に異世界以外を読みたい人たちにとってありがたいもののはずです。



■『異世界』はこれからもデビューしやすいか? デビュー後も売れるか?


 まずはラノベの読者層のうち、注視すべき三つのグループについて説明します。


『ボリュームゾーン』

 ラノベの読者の中心となる最大派閥です。『人気がある』と『ボリュームゾーンに受けている』はニアリーイコールだと思っていいでしょう。年齢では中高生、どのくらい読んできたかは個人差がありますが、購買力やラノベを読み始めた年月を考えると累計百冊を超える人は少なく、二百冊を超える人はかなり希少でしょう。

 そんなこと、このレポートを読む人のほとんどが既に知っている、わざわざ言及するまでもない……はずなのですが、ラノベの評価では後述するような『ズレ』がよく見掛けられます。


『なろうの読者』

 年齢は二〇歳以上が中心、知っての通り、ボリュームゾーンとも嗜好が違います。『異世界』の人気を支える人たちです。「ボリュームゾーンが最大派閥」と言いましたが、ブクマ数の件で話したように、実は『なろうの読者』の規模は『ボリュームゾーン』に迫るかも。一方で無料のウェブ小説にブクマを付けるより書籍にお金を払う方がハードルが高いにもかかわらず、書籍化作品にブクマ数の何倍もの発行部数があるということは、『ボリュームゾーン』を含むマーケット全体が『なろうの読者』より遥かに大きいのでしょうか。誰か、これらの具体的な規模を知っている人は教えてください(笑)。彼らの嗜好について、詳しくは後の「『異世界』とは何でしょう?」で解説します。


『ヘビーユーザー』

 累計数千冊も読んできた人たちです。そのため年齢的には『なろうの読者』と大体同じですが、嗜好が違います。たくさん読んできただけあって詳しく、作品を解説・評価できる能力を持っていることも少なくありません。

 ところが、この『評価』に問題があるのです。読みはそれなりに深いものの、評価自体はズレているのです。あくまでも彼らの価値観と経験、そして嗜好に沿った評価なのです。彼らの言う『いい加減食傷気味』はボリュームゾーンにとってはまだまだ鮮度があり、彼らが引き合いに出す例えはボリュームゾーンが幼児の頃の古い作品。その結果、通販サイトに書かれたレビューはボリュームゾーンには共感しがたい内容になっているのです。

 ネットなどでよく見る評価がこれであり、ボリュームゾーンとのズレが補正されていません。ネットで見掛ける意見はヘビーユーザーのものが多いため、「ラノベ読者の中心はもはや中高生じゃなくて大人じゃないか?」と勘違いしていた人がいたので驚いた経験がありましたが、恐らく変わっていません。マーケットリサーチは企業にとって基本かつ生命線であり、中小企業でなければしていないはずはありません。自社でできないとしても調査会社に依頼しているはず。ラノベの編集者さんたちが、いつまでも古いデータを元に「ラノベの中心読者は中高生だ」と言っているわけではないと思います。

 結果として人気ジャンルに「ウンザリ」と感想を洩らすことも少なくないので、ネットで見掛ける意見の中心であるヘビーユーザーの意見は、ボリュームゾーンとのズレというより現実とのズレが生じていたりします。

 なのでヘビーユーザーの意見を参考にする場合は、このズレを考慮に入れる必要があります。



 また、ラノベ読者の三つのグループのうち、『異世界』を支持しているのはあくまでも『なろうの読者』であり、『ボリュームゾーン』とは嗜好が異なります。しかもこの二グループにとって主人公を自分に重ね合わせられるかどうかは重要なのですが、困ったことに一番の相違点がここ、『異世界』の主人公は大人なのです。一部のなろう作品では書籍デビュー時に主人公を高校生に変えていましたが、そう言った変更が困難な作品は多いと思います。『ボリュームゾーン』と異なる、『なろうの読者』特有の人気ジャンルである『異世界』『VRゲーム』は一般の読者でもそれなりに楽しめるものの、レーベルの出版物としてはラインナップが偏り過ぎています。普通なら各ジャンルの人気度によって刊行作品数のバランスを決め、そこに加わる新人賞受賞作も数が少なく問題はなかったのですが、今ではなろう作品が大量にデビューするので、作品数のバランスが編集部の思惑よりも大きくずれていると思います。

 もしかすると、今回のジャンル変更はこれが目的かも? 『異世界』に埋もれていた他の作品を見付けやすくなったのは読者だけでなく、ラノベ編集者も同じです。各レーベルはなろう特有の人気ジャンルだけでなく、ファンタジーや学園異能力バトル物など、一般的にラノベでの人気ジャンルをも、なろうから良作を見付けたいと思っているのでは? そう言う出版社の要望になろうが応えたのが、今回のジャンル変更なのではないでしょうか? あくまでも個人的な憶測ですが。『なろう』で人気が出やすい作品よりも、一般的な市場で人気が出やすい作品の方が、デビュー作の成功度が大きくなりやすい。そういった作品がデビューすることは作者、出版社、読者、なろう運営など、どの立場の人にとってもメリットだと思います。



 初めて『異世界転生チート』を読んだ時はビックリしました。

「いきなり死んだよ主人公⁉ まだ何も始まっていないのに」

 どうしてこんな展開なのか分からず、

「そう言えば、物語の始まりで主人公が瀕死の状態になった時に、謎の美少女な存在が現れて、命を救ってもらったついでに何故か異能力を得たり、人外なその少女に『わたしと魂が繋がっている』とか言われたり、救われた代償に怪物退治を手伝わされたり、ってラノベでよくあるパターンだよね」

 なんて思っていると異能力の代わりに超すごい能力を得て、何故かファンタジー世界で生まれ変わっていて、私の予想はことごとく外れていました。

「こんな未知の世界に放り出されて、これから主人公はどうするのかなあ? 家族とか色んな人と生き別れ(死に別れ?)になって寂しいだろうし。

 そうだこの人、サラリーマンだよ。無断欠勤! 不味いよ。今のご時世、再就職は大変だよ?

 そうか、この人が未知の世界で冒険して、無事に日本に帰るところで大団円なんだ。

 ……あれ?

 この人、日本に全然未練がないよ! 帰る気ゼロだよ。『BIG―4』(大楽絢太著/富士見ファンタジア文庫)の山田くんだって、買う予定だった新作ゲームとか気にしていたのに」

 という感じで、なんでこういう話になるのかこんなキャラなのかさっぱり理解できず、よく分かんないけど最初の死ってきっと何かの伏線で、クライマックスで伏線の意味が明かされるんだろう、そう思って読み進めました。

 結局、伏線は回収されずじまい、じゃあなくて、そもそも伏線じゃありませんでした。

 その当時の私にとって異世界ものはこんな、何狙いかどこがツボなのか全く分からない、謎ジャンルだったのです。それでも色んな作品を読んでいるうちに、異世界もののことが少しずつ分かってきました。

『異世界』とは何でしょう?

 物語は主人公に強く感情移入してなり切るタイプと、若干離れて眺めるタイプがありますよね。『感情移入』タイプは、最近はラノベ、コミック、アニメなどの多くの作品が該当します。『離れて見る』タイプは最近は少ないです、古いのでは『コブラ サイコガン』や『ルパン三世』、最近のものでは萌えマンガの一ジャンルである、四コママンガで男性向けなのに少女しか登場しない箱庭楽園系でしょうか。

 また物語の方向性として未知の世界や能力でスリルある展開になる、ドキドキする冒険といった『未知の体験系』や、最強でハーレムみたいな『願望充足系』などがあります。

『異世界』は『感情移入』タイプ、かつ『願望充足系』に大きく傾斜しています。ただしボリュームゾーンとは違い、最強やハーレムは現実世界で叶えません。中高生と違い現実をよく分かっているので、現実世界に夢を抱きにくいのです。だからファンタジー世界で夢を叶えるのですが、それだけでは全く不充分です。嗜好から察せられる『なろうの読者』の想い、「俺の人生、どうしてこうなった?」すなわち「やり直したい!」 だからこそ『異世界に迷い込む』でも『始めから異世界の住人』でもなく、『死亡』という通過儀礼イニシエーションでこれまでの人生をなかったことにして(だから未練がない)、赤ん坊として生まれ変わることで、人生のセカンドステージにのではなく、スタート地点にのです。「夢のような人生」を考える時、赤ん坊の時代なんてまどろっこしくて飛ばしたいと思うかも知れませんが、人生の続きでなくリセットである以上、避けては通れないのです。

 そして『未知の体験系』でない、極端な『願望充足系』でよくあることですが、新しい人生を送るべき場所は作者のセンスが光る独創性に溢れた世界、なんて別に要らなくて、馴染み深く、かつ現実世界の匂いがしない場所ならどこでも構わない。だからよく知っているネトゲ風ファンタジー世界。これから過ごす新しい世界は斬新で刺激的であるよりも、慣れていて楽な方がいい。そして「世界に名前なんて別にいいよ」ということで、単に『異世界』なのです。今では『異世界』は『名無し』ではなくキーワード、カテゴリー、或いはブランド名となっていますが。



 蒙古来襲‼

 彼らはエンタメ世界の様々な王国ジャンルを侵略、滅亡までは至らないまでも弱体化させ、版図を拡げ続けている。そう、彼らの名は ―― ソシャゲ!

 ソシャゲがエンタメ産業の各業界からユーザーを大量に奪っています。ソシャゲは二〇〇七年頃から急激な拡大を絶え間なく続けてきました。基本は無料ですが一部ユーザーは高額な消費に走り、パチンコ業界のような状態になっているとか。しかし、他の業界から奪ったのは可処分所得よりも可処分時間でしょう。ソシャゲは『隙間時間でできる娯楽』であって『隙間時間でする娯楽』ではありません。電車で移動中にソシャゲしていたのに家に帰った途端、「これからまとまった時間が取れるのに、わざわざソシャゲするのは勿体ない」と他の娯楽に切り替えるユーザーは少ないはずです。

 ソシャゲの侵略により、様々な業界が衰退の道を進んでいます。例えばほぼ同じジャンルであるコンソールゲーム業界は七年連続売上が減少しているそうです。まあソシャゲという外部要因だけでなく、ゲーム業界の内部要因もあるかも知れませんが。ただ同じゲームでもコンソールゲームはユーザーから搾取でなく満足を与えるように心掛け、一万円以内で無制限に遊べ、ロード時間の短縮など、少しでもストレスを減らせるように開発しているのに、ソシャゲは真逆なんですね。全てのゲームがそうだとは言いませんが。頑張れゲーム業界! ソシャゲはドラクエやファイナル・ファンタジーのように長く愛されるコンテンツはきっと出ないと思うよ! もっともソシャゲの多くは戦略などのゲームとしての自由度はなく、ひたすらタップして『景品』ならぬ『ガチャ』を当てるわけだから、ゲームと言うより『ガチャのパチンコ』なのかも知れません。実際、ユーザー層が近いパチンコ業界も大きな打撃を受けているそうです。テレビもユーザーを奪われているとか。

 そしてラノベ。出版不況にあって成長を続けたラノベ業界も、とうとう二〇一二年をピークに減少に転じました。実際にはどの程度の影響を受けたのか分かりませんが、周辺の全業界がことごとく大打撃を受けている中、ラノベ業界だけ無傷ということはさすがにないでしょう。

 これは、高性能化したケータイがかつて引き起こした現象に似ています。昔、電子手帳から進化したPDAというガジェットがありました。まだスマホなんてなかった時代ですが、電話とメールだけではなくなり高機能化したガラケーによりPDAは業界ごと、この世から消滅しました。まだガラケーの機能がPDAに追い付かず、PDAを必要としたユーザーも少なくなかったと思われるのですが、ユーザー数が限界集落を下回り、PDA業界が存在を維持できなくなったのです。

 もう一つ、ガラケーから大きなダメージを被ったのがデジカメです。当時のガラケーのカメラは貧弱で、低価格デジカメよりも更に低性能でした。しかし一円で買ったガラケーに最初からカメラがあるのに、わざわざ別にデジカメを買うでしょうか? それが喩え、より高性能でも。高品質な商品が低品質な商品に駆逐されたのです。デジカメが生き残ったのは、写真に拘りを持つユーザーが少なからずいたからでしょう。基本的に、こういった近隣業界からの侵略ではまずライトユーザーが刈り取られて、拘りを持ったユーザーが残ってくれます。

 ソシャゲの侵略を受けたラノベ業界も『暇潰しでラノベを読むけど、別にラノベでなくてもいい』ユーザーが奪われやすく、『どうしてもラノベが読みたい、他のメディアでは代替できない』というユーザーは奪われにくいはずです。

 読者が減少するラノベ業界、そして『異世界』などのなろう作品は、これからどうなるのでしょうね。



 異世界物がどうなるか? の前に『テンプレ』というものについて話をします。

 テンプレな作品というのは良いことでしょうか? 人によっては「最近のラノベはテンプレばかりでつまらない」「どれも似たり寄ったりに見える」と否定的な意見が出ています。テンプレが氾濫することでラノベ業界が衰退しているとか。一方で編集者さんからは最近も「テンプレ=悪ではない」という発言がありました。テンプレは売れる? 売れない? 一体どちらが正しいでしょうか?

 否定派の意見は、理論に加えて彼らの嗜好で結論を出しています。一方で編集者さんは理論だけでなく、結果を見た上での考えのはずです。

 これは編集者さんの意見の方が正しいのです。結果を予測した推論でなく、結果に基づいた結論だからです。テンプレ作品が好評な(=正しい)ことを確認した上で言っているはずなので、原理的に間違いようがないのです。

 或るマンガが四巻で打ち切りになって、通販サイトで「こんな良作を打ち切るとか、編集者が無能だとしか思えない」とのレビューが載っていたことがありました。私も個人的に好きな面白い作品だったので、打ち切りは残念でした。ただ、あまり売れていなかったようなのです。編集者の立場なら担当作品の売れ行きは分かるはず。売れている作品を打ち切るはずがなく、逆に売れない作品を続けることもあまりないはず。これは本人の判断能力にかかわらず、間違えようがありません。「売れているのに打ち切る」なんて無能な判断は起こりようがないのです。

 また、否定派は大抵ヘビーユーザーのはずです。そう、ボリュームゾーンとのズレが補正されないままの、自身の好みを主張するだけの意見なのです。「テンプレばかりで飽きた」というのは、単に「人気のある作品と自分の好みが違う」と言っているだけなのです。

 逆に編集者たちは担当の作品ごとに売れた/売れなかった、といった手応えを感じているはず。テンプレ作品が全然売れていないのに、作家さんにテンプレ作品を書かせようとするとはちょっと考えられません。作家さんたちも売れ行きや売れ筋のことは多分聞かされていると思います。JーPOPが衰退したのは売れるフレーズにばかり集中して、似たような曲ばかりになって飽きられた、という話を聞いたことがあります。ラノベがそうなったら、真っ先に編集者さんが作家さんたちに「テンプレになってはいけない」と言うはずです。テンプレが飽きられて売れていないのなら、アニメ化されるラノベはテンプレでないものばかりになっているはずです。だけどご存知のように事実は逆なのです。

 そう言えば、オリコンがラノベの二〇一二年以降の売上減少について「テンプレ作品が飽きられている」との見解が示されたことには個人的に少し驚きました。テンプレ作品が他の作品以上に売上が落ちている、みたいな裏付けが取れたわけではなさそうなので、単に分析した人が主観でそう思っただけのようですが。陥りやすい現象として、悪化した原因として以前から存在した問題(と思われるもの)を、好評になった原因として以前から存在した長所を挙げる理論をよく見掛けます。結果が好転・悪化のように変化したのなら、原因も変化していないとおかしい。問題点が以前から存在したのなら、悪化したのではなく以前から悪いままでないと辻褄が合わないのです。


『異能力者だけが入学を許されるエリート学園では、揉め事は決闘で解決することになっている。主人公は入学早々、学園最強クラスのヒロインとトラブルになり、決闘する羽目になる。

 ところが最弱と思われた主人公が勝ってしまい、ヒロインに認められた』


 このストーリーに合致する作品を皆さんは幾つ挙げられますか(笑)? たくさんあると思います。

 では、主人公はどのような能力を持ち、どう闘うでしょうか? ここが重要であり一番面白いところです。そこまで全く同じなら、二つ以上の作品を読む必要はないでしょう。でも本当に重要な箇所は作品ごとに異なり、それこそが作者の腕の見せ所なのです。「それでも、あらすじが似ているだけで嫌なんだよ」な意見はヘビーユーザーのものであり、そこがボリュームゾーンとは違います。

 ただし『結果に基づく判断』の『結果』とは現在であって未来予測ではなく、どうしても後手に回りやすくなる、と言った弱点があります。

 ちなみに次のような現象が起こった時、皆さんはどう判断しますか?


『売れ筋のテンプレな作品は相変わらず好調、一方でマイナーな路線の作品は売上が落ちてきている』


「やはり売れ線は良い。マイナー路線は駄目だ」でしょうか?

 それが正しいことも勿論あります。しかし以下のような現象が起こっている可能性は少なくありません。

 そのマイナー路線が好きな読者が「最近は好きなジャンルの作品が少ないな」と思った時、代わりにメジャー路線の作品を読むのではなく、ラノベ以外の市場に流出する可能性が高いのです。一般文芸に行くかも知れません。またコミックは市場が大きいだけに、特にレーベル名に『ヤング●●』と付く大人向けマンガは様々な路線の作品が豊富にあり、そちらに流れる可能性も高いです。つまり前記の例は『メジャー路線VSマイナー路線』という視点で見れば単に「メジャー路線が売れ、マイナー路線が売れなかった」ように見えますが、それだけの分析で終わってしまうと「ユーザーが流出して市場が縮小していく」といった本質を見落としてしまいます。もっとも、マイナー路線よりもメジャー路線の方が重要で注力すべきであることは間違いありませんが。それでも『売れるテンプレ』ばかりに集中することには、こういった危険があるのです。実際、ネットニュースを読んでいて「これ(テンプレ)でラノベを離れたけど」と言ったコメントを見掛けました。と言うか、よく考えたら似たような意見、今までも聞いたことあるなあ。みなさんも目にしたことがあるのでは?

 ここでは『テンプレ=善』のような結論になっていますが、自分の主観が入りやすい『テンプレがいい作品か』でなく『テンプレが売れるか』という議論です。私の嗜好としてはテンプレでない作品も好きだし、テンプレもそれぞれの作品ごとに良さがあって、読んでいて楽しいです。「またこのパターンかよ!」はロボットアニメ批判(人型兵器は非合理的)と同じくらい野暮だと思うので、私は割り切って楽しんでいます。

 ただ、その一方で、テンプレ作品の氾濫でラノベ業界の将来を危惧する意見がなろうの内外でありますが、前述の『売れるテンプレ作品への集中』の通り、それらの意見も無視できないと考えています。そういった主張も一度読んでみることをお薦めします。



 テンプレの話ばかり延々と続けるのも、このレポートの趣旨からずれるので、この辺で切り上げますが、このテンプレの話、『異世界』に重なると思いませんか?

 全く同じことなのです! 『異世界』について「似たようなものばかり」「多すぎてウンザリ」という感想は、単にヘビーユーザーがメインの読者とは嗜好がズレているだけなのです。



 延々と遠回りしましたが、そろそろ本題に入りましょう。

 Q:『異世界』はこれからもデビューしやすいか? デビュー後も売れるか?

 A:はい。

『なろう』出身の『異世界』はまだまだデビューし、しかもデビュー後、人気が出ている作品と作者は多いはずです。これは難しく考えなくても、現状を見ればはっきりと分かります。各レーベルで主催している新人賞の大賞受賞作よりも人気だったり、多くの作品がアニメ化されたりしていますよね。ヒットしている以上、ラノベ編集者たちはまだまだなろうからデビューさせようとするはずです。五年以上先はともかく、当面は急激な変化はなさそうです。

 ただし数年後(恐らく五年くらい先)、更に良くなるか悪化するか横這いかと言うと、徐々に悪化すると思われます。何故なら、各レーベルがなろうから作品と作家を求めて次々とデビューしていく需要ペースに比べ、「優れた作品が新たに生まれる」供給ペースが追い付いていないからです。『なろう』のトップ一〇〇当たりは既にデビュー済みです。更に新人を求めるならそれよりランクと質を下げていくしかありません。

 膨大な手間を掛けた新人賞よりも優秀な作品を獲得できるとあって、新人賞を開催する企業体力(下読みを雇うなど膨大なコストが掛かる!)がない小規模な出版社などが積極的に『なろう』からデビューさせてきましたが、その質が一般的な新人賞を下回り始めた時、どうなるのでしょうか? 恐らく、『次々と』ではなく『少しずつ』デビューしていく時代になると思います。『ゴールドラッシュ』が『オイルショック』に変わるのも時間の問題でしょう。



 いかがでしたでしょうか。

 この分析と推論が、読まれた方のお役に立っていればいいのですが。

 もし「全然ダメだよ!」であったとしても、データとグラフくらいは役に立っていますよね?(汗)

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【『小説家になろう』ジャンル変更分析レポート】(テキスト版) 音寝 あきら(おとねり あきら) @otoneriakira

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