*エピローグ

 アメリカに戻った泉は治療のため、しばらく入院していた。

 まだ少々、足は引きずるもののこれくらいなら問題はない。病院から出て青い空を見上げ、太陽のまぶしさに目を細める。

「もう良いのか」

 待ちこがれた声に振り返り、会えた喜びに思わず抱きしめた。手痛い返しがないのは挨拶だと思っているからだろうか。

 間違いでもないがそれだけだと思われているなら残念ではある。

「すまないな」

 治療費も払ってくれたんだろうと親指で病院を示した。

「報酬の一部と思ってくれていい」

「ああ、なるほど」

 そうして、ゆっくりと歩き始めたベリルの後を追う。

「来てくれるとは思わなかった」

 応急処置の間や、帰りの飛行機で散々アプローチをして嫌がられた自覚はあったようだ。相手が怪我人であるためベリルもかなり我慢をしていた。

「ベリル」

 呼ばれて振り返る。

「あんたには色々と助けられた」

「それはこちらもだ」

「俺が一人で突っ込むこと、解ってたんだろ」

 それには答えず、再び歩き出す。

「悪かったな」

 あれは仇を討つためにはやったんじゃない。

「自身の腕を試したかったのだろう」

 発して立ち止まり、振り向いたベリルに目を見開いた。

「冷静でい続けるのは難しい」

 慕っていた者の死ならば尚更なおさらだ。しかし、

「いまのお前ならばそういられる」

 だとするならば、考えられることは一つ。

 サヴィニオという存在は、お前にとって越えなければならない壁でもあった。

「勝ったかね?」

 皮肉ともとれる問いかけに悔しさは否めない。しかし、正直あいつに勝ったとは思えない。

 そんな泉の表情にベリルは少しの笑みを口元に浮かべた。

「そう思えるのならお前は問題ない」

 これからも良い動きが出来るだろう。

「あんた、何者だ」

 タイダルベイスンで初めて目にしたときから、泉はずっと考えていた。

 目を見張る存在感でいて、どこか消え入りそうな雰囲気をまとっている。目の前にいる今でも、ふいに消えてしまうのではないかとさえ思えた。

「お前と同じ、ただの人間だよ」

 少し歳を取っているだけだ。

 そう答えて泉を見上げるエメラルドの瞳はやはり、強烈な印象を与えてくる。

「まあいいさ」

 それならそれでいい。俺には大したことじゃない。逃げるならどこまでも追いかけてやるまでだ。

「早く治せ」

「あ、おい!」

 気がつけば遠くにいるベリルに声を張り上げた。

「いつでも要請を受けられるようにしておけ」

 残された言葉に口角を緩める。

「ああ、待ってるぜ」

 まだ痛みの残る足を一瞥し、明日には治してみせるとつぶやいた。





END

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桜下に見、往々にして炎舞 河野 る宇 @ruukouno

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