第2話 いいね爆発

「やっちまった…。」


下村さんの頭上の数字1はまだ教室のみんなには気づかれていないみたいだ…。


もちろん下村さんも気がついていなく、この社会の時間は何事もなく済みそうだ。


しかし、「いいね」のリセット時間は放課の16:30。


それまでには、昼休みと午後の授業を越えなければならない。


絶対に気づかれてしまう…。



唯一「いいね」をつけてくれない下村さんに、

ずっと片思い中の僕…



嫌われているか

何とも思われていない


そこで、しゃべったこともない俺から「いいね」をつけられたら…


嫌われている確定…!


なんてことをやってしまったんだ、終わった…俺の青春が根こそぎもってかれた…今後は大人しくメガネでもかけてフォックも…いやフォックはいいや…ぶつぶつ…



「……町!…岡町!岡町ヒトシ!」


教室のみんなが俺を見ている。どうやら、気がつかない間に指名されていたようだ…。


「不意打ちはないっすわー、先生。明智光秀か!」


教室は爆笑に包まれ、俺の頭上のいいねがまた反応するが、


下村さんの「いいね」はつかない。


頭上の「いいね」が50を超えたことも、今の俺にはさほど関係ない。むしろ、虚しいだけだ。



そ、そうだ…

「いいね」は取り消しができる!!

今ならまだ誰からの「いいね」か確認していないに違いない!


急いで下村さんの「いいね」を取り消す。


下村さんの頭上から数字は消え、灰色のハートに戻る。


これで、一安心…。

気づいて…ない…よな?



その後は、男子とバカ騒ぎしたまま、いつも通りの学校生活を送った。




放課後、部活もない俺は教室で携帯をいじっていた。


教室の窓から、陸上部の高跳びを後輩が跳んでいるのをみて、マット気持ちよさそうだなーなどとどうでもよいことを考えるが、


やはり

今日も下村さんからの「いいね」がつかなかった。


周りを見渡し、下村さんの席を見つめる。


このまま片思いで終わるのかな…。


俺は、オレンジに染まった空を見ながらため息をついた。


その時…!


「「いいね」ありがとうね…」


「下村さん…!」


いつからかいたのか

教室に下村さんが立っていた。

教室に二人きり。

オレンジだけが教室を照らしている。


「ありがとうね…。でも、操作ミスだよね…。岡町君が私にいいねするわけがないもんね…。」


俺はばつが悪く、窓の外をみながら、力の無い声で聞いた。


「気づいてた…の?」


「うん。でも、すぐに取り消されたから、操作ミスかなって…。」


「操作ミスじゃないよ!」


僕は下村さんの方を見ながら、下村さんの頭上の「いいね」を見た。灰色のハートはピンクの1に変わる。


「えっ…?」


僕は「いいね」を送り続けた。もうどうにでもなれ!下村さんのハートがどんどん赤くなる。と同時に下村さんの顔も赤く染まる。


「うれしい…。」


「えっ!?」


「こんな日が来るんじゃないかって…。私ずっと我慢してたの…。」


「どういうこと?」


「みんなの人気者のヒトシ君に近づくためには、「いいね」を押さない方が目立てるって思ってたの。そうすることで、少しでもヒトシ君が私のことを見てくれるかなって…ずるいよね?軽蔑する?」


僕はあっけにとられたまま

下村さんの方の壁を見つめていた

オレンジの影響で陰影が濃い。


「軽蔑なんて…しない。俺もずっと発信してた。下村さんに振り向いてもらいたくて、ずっと毎日下村さんの「いいね」を待ってた。」


「ヒトシ君…。」


いつもの下村さんの笑顔が戻った。

僕がずっと一方的に見ていたと思っていた笑顔を今は真っ正面から見ている。


突然、頭上のハートが光った。


「初「いいね」だよ!貴重だよ!」


頭上のハート以上に僕の心臓が音を立てて鳴っている。うそだ、うそだろ…。夢みたいだ…。



僕たちは見つめ合ったまま、「いいね」を連打していた。


頭上のハートは光り続ける。


二人の想いのように真っ赤に光り続ける。





もうすぐ16:30。


いいねがリセットされる時間。



その頃には「いいね」に頼らず、気持ちを伝えられるかな?

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