いいね。
ねぎ置き場担当
第1話 クラスの人気者
大人には見えないらしい。
僕らじゃ考えられないくらいの天才が、僕らの日常に「いいね」機能をつけた。
その天才はどこの誰なのか分からないが、ご丁寧に誰が「いいね」をつけたのかすら分かるようになっている。
僕は今教室にいる。
退屈な授業。
いじり放題の新任社会科教師の授業。
平安京がどうとか言っているが、まだ受験に関係のない中学二年の僕らにはピンとこない。
一番後ろの席をいいことに、僕は壁に椅子を寄りかからせて、みんなの頭の上のハートを眺めていた。
今のところ、サッカー部の山村が16いいね…か…。
さっきの時間は体育だったもんな。山村のおかげでうちのクラスは強豪三組に勝った。
あの時、男子のほとんどが「いいね」をつけたはずだ。納得。
後はさっきウケ狙いで「トイレ」発言をした吉田が4いいねか…。
頭上のハートはいいねの数によって濃さが変わる。
つまり、今の山村は濃いピンク。僕のポジションを奪っているわけだ。
よし…。
バターン!!!!
「やっべえ…!矢に打たれた!」
僕はわざと椅子ごと地面に倒れ、わざと大きめの声でそう言った。
みんなの視線は自然と僕に集まり、僕の頭上のハートが反応している。
ガラス越しに僕の頭上の真っ赤なハートを見ると、隣に32の数字が見える。
よし…。
僕はクラスの人気者。
数字はいつも一番でなければならない。
いいねを毎日一番とらなければならない。
僕は真っ赤なハートを見ながら、新任教師が何か言っているのも気にとめず、誰からの「いいね」かをチェックした。
男子は全員…
女子は地味な子以外…か…
ちっ…
僕はどうしても気になることがあった。
どんなにウケをとっても、クラスのほぼ全員が「いいね」をつけても、
僕がひそかに想いを寄せている下村さんだけは一回も「いいね」をつけたことがない。
でも、下村さんはいつも笑っている。
他の人があまりウケてないときも笑っている。
その無垢な笑顔がまた可愛らしくて、ついつい下村さんの方を見てしまう…
今回もやっぱり下村さんは「いいね」をつけない。
が、爆笑している。
誰よりも欲しい下村さんの「いいね」
周りの男子から
「よっ!爆笑王!」
と言われたり、
派手な女子から
「ヒトシくん、まじウケる!」
とどれだけ言われても、
下村さんの「いいね」がつかない限り僕の心は満たされない。
僕は人気者ヒトシだ。
僕を好きにならない人なんていない…
言ってて虚しくなる。
毎日毎日ネタを考えるが、あえなく撃沈。
先生には目を付けられ、不良グループには休み時間のたびに一発芸をやらされる。
でも、下村さんの「いいね」はつかない。
いつの間にか僕は下村さんに釘付けになっていた。
窓の外をみている下村さんの横顔に思わず吸い込まれそうになった。
そのとき!!!
僕はついうっかり下村さんに「いいね」をつけてしまった。
下村さんの頭上のハートは薄ピンクに
そして、隣には1という数字が浮かんでいた。
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