春の訪れ







あれから、一年。彼の部屋は、掃除はしているが、そのままとってある。彼が使っていた机での作曲活動は捗る。



彼がいなくなって、数ヶ月間、俺は何をする気力も起きなかった。しかし、ある日、突然彼の言葉が蘇った。「作って」と彼は言っていた。俺は、ぼんやりとしている頭をなんとか働かし、あの日、彼といった海の曲を書いた。彼の儚さを全面に出せるように。

その曲は前のヒット曲よりも、さらに売れた。チャートの一位をとった。番組で歌っている時は、彼が隣にいるようだった。そして、「頑張って、日向」と囁いているようだった。前の二の前にならないように、いつまでも謙虚であることを誓った。




今日は、彼の机や箪笥を整理することに決めていた。人の私物に触れるのはあまり好きじゃないが、彼がいつか「僕が死んだら、部屋のいろんなとこ見てみてね。」といっていたのを思い出した。あの頃はいつになるのか、と思っていた。いや、思いもしなかったかもしれない。俺より先に、彼がいなくなるなんて。彼の箪笥には、学業の関係のものの他に、俺が彼に買ってやったプレゼント、俺との写真、俺の昔のCD、などが入っていた。彼が大切に箱にしまっていたそれらは、彼と共に時間が止まっているようだった。机の中には何が入っているのだろうかと思い、最初の段を開ける。チョニョルへ、と書いてある封筒を見つけたーーーーーーーーーーー




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日向へ。


この手紙を読む頃には、僕はもうこの世にいないんだろうか。それとも、僕の机の中、勝手に見た?

日向にはたくさん、たくさんお世話になりました。

すごく楽しかった。多分日向は、いろんなとこに連れて行かなかった…とかいって悔いてるだろうけど、

死ぬ時に言ったかな?僕はナチュラルな日向が好きだったから、それでよかった。

大分、変態になっちゃって、困ってたよ(笑)

思ってたことは、恥ずかしいから書きません!!!


日向に最初に会った時、運命的だと思った。僕の音楽プレイヤーには日向の歌しか入ってなかったんだ。恥ずかしいから見せたことはなかったけど…。それで、これは神様が元気出してって…言ってんだなって思って…声かけたんだ。僕頑張ったんだよ。

日向が家に住めって言ってくれた時、本当に嬉しかった。結局お金払わせてくれなかったから、同封してあるお金、貯金に入れてね。足りないかもだけど…。

日向とのデートも楽しかった。一緒に誰かとカフェで食事したり、花火見たりするの初めてだったかも。告白してくれた時は嬉しくて、感動して、こんな完璧なことってある?!って思った。

彼女さんが来た時はびっくりしたけど、でも日向の意思に任せようって思った。結局、一緒にまた住めて嬉しかったよ。


…書こうか迷ったんだけど…日向との「あれ」すごく気持ちかったよ…。恥ずかしいな。

日向があんなに上手なんて知らなかった…。

ありがとうね、無理させちゃったよね。未成年にあんなことさせるなんて。

本当にごめんなさい!

(ここを一番長く書くなんて、僕って…!)



さよならは言わないよ!ずっとそばにいるから!



はる



P.S. 幸せになってね。


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俺は…大人ながらも泣いた。泣くしかないだろう。彼の一言一言が声になって再生された。自分の頭の中で形成されているのに、まるで、彼が隣でそう言っているようだった。幸せになってね、という彼の言葉は俺を幸せにするには十分だった。










いつまで彼は俺を愛してくれるんだろうか。どんなに長くても、短くてもいい。俺は…幸せだ。










はるが隣にいるから俺は幸せだ、と彼に言った。声が聞こえた気がした。










僕も、という声が。










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風、または君。 霜月六花 @rikkainthesky

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