第2夜 血染めの花壇

梅雨。一般的には雨天が続き湿度が高く、ただでさえ薄着の女性の透けブラが堪能出来るとして知られる素晴らしい季節。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

俺は今、お母さんに会っています。

子供の頃に亡くなったお母さんに………

「いくさ!いくさ!起きるですよ!」

「はっ!?これが臨死体験…?」

「いいかげん数学の授業を受け入れるのですますよ!」

「そうか、俺はまたヤツシバセンに勝てなかったか…!」

スパァン!と頭に竹箒の感覚。

「ってぇ!コメットさんストライクは止めろって言ってんだろミコ!」

『コメットさんストラッシュ』

「新技とかどうでもいいわ!」

『ボクはもう疲れたよ(( _ _ ))..zzzZZ』

「それはパトラッシュだろ!つかお前まだ一人称発覚してないのに紛らわしいネタ振るなよ!」

「また夫婦漫才かい?」

「みやはもう結婚出来る年齢。かんじの誕生日を待っている」

欧米人の如くやれやれポーズで現れたのは一組の完治アンド美夜子ちゃん。

「何用だこのバカップル!」

「なるほど、軍は放課後ティータイムには不参加を表明、と」

『一人でライスをおかずにお米でも食べてなさい』

「完治くんだーいすき」

「いくさのせっそーの無さわラミ見習わない方がいい気がするですよ…」

「む、かんじはあげない。でもBLは別腹……BetubaLa」

『上手くない、上手くないから』

完治は医者一家の息子のくせにパティシエ志望という変わり者だ。

学園でも料理部に所属して超高校級の腕前を披露している。よく似た名前の学園からスカウトされたとかされないとか。

完治の肩を揉みながら付いて行った調理実習室にはカラフルなケーキが用意されていた。

「これが新作ブッシュ・ド・ノエル・トリコロールさ。感想頼むよ」

「いやさすがに丸々半年違いのクリスマスケーキなんて早過ぎぃ!も遅過ぎぃ!イキ過ぎぃ!も突っ込めねーよ」

「そういう感想はいらないからさ、本当に」

目が笑ってない。

「従来のブッシュ・ド・ノエルは薪をイメージしたチョコレート色なんだけど、いわゆるクリスマスカラー、赤白緑でデコレートしてみたんだ」

「みやのアイデア」どやあ

「赤はイチゴのシロップ漬けですますね!甘味と酸味がちょうどいいですよ!」

空中にフォークと苺が浮いて消えていく光景にはもう慣れた。

『白は生クリーム…違うわね、マスカルポーネチーズね、ティラミスにも入ってる』

「流れ的に俺が緑担当か?なんだろ、ハーブ系…ミントクリームか?ハミガキっぽい」

「みんないい舌だね、ほぼ正解だよ」

「残念賞はいくさ」

「ミントじゃなかったかー、なんだ?」

「え?」

「え?」

「いや、ハーブだよ、ハーブそれでいいじゃないか、ははは」

「おい何食わせた!?目を反らすな!こっち見ろよおい!?」

「冗談だよ冗談、フレンチジョークさ」

「泣いてる子もいるんですよ!?」

「うぇーん、ちょっと食べちゃったですよー…」

『あたしはまだ平気だから』

こんなジョークがまかり通る国なら俺はフランスには絶対行かねーぞ。

「これは錬金術研究会に分けてもらった無毒マンドレイクさ」

「はい、また二つほど聞き逃せない単語が出てきましたが」

「いくさはスルースキル低すぎ。煽り煽られのネット社会では生きられない」

「俺は現実社会で生きていく為の情報を欲しているんですが!?なんで錬金術研究会なんてもんが認められてんだ!?無毒ってなんだ、元々毒あるのかよつかマンドレイクってファンタジーかよ!?」

「気が済んだ?」

「済んでねーよ!過不足なく回答しろよ!」

「ちっ…」

「おい舌打ち聞こえてんぞ、ムッツリ野郎」

「むむむムッツリちゃうわ!」

「そう、かんじは割とガッツリ系。昨夜も縄「みや、飴舐めてなさい」

「あまあま」

『希望学園は一芸入試を採用している関係で、どんな部活・同好会も申請されれば設立可能、とケンサーク先生に聞いたら出てきた』

ケンサーク先生有能!

『マンドレイクは普通に実在する植物。滋養強壮作用のある反面、幻覚作用もバッチリ完備、とアラユルペディアに書いてあった』

アラユルペディア有用!

「と、いう訳だよ」

「ああよくわかったよ、お前ら結構ポンコツなんだって」

「なるほど、軍はシナモンティーのお代わりは必要ない、と」

「上履きを舐めればいいのか?」

「いくさのアレ、一周回ってアリに思えてきたのですますよ」

『いやナシでしょ( ;´Д`)』

「上履きは舐めなくていいから…ええい足にすがりつくな!ちょっとパシられてくれればそれでいいから!」

「オーケイ、焼きそばパンか、カップ焼きそばか、それともソバメシか?」

「軍の中ではパシリ=焼きそばしかないんだ…校舎裏の温室に園芸部の人がいると思うから、ハーブを貰ってきてくれ」

「ハーブ…紅ショウガか!?」

「焼きそばから離れようね、料理部から来たと言えば伝わるから」

「よしきた、行くぞラミ!はじめてのおつかいだ!」

「はいですますよ!」

ケータイミラー改(仮)(正式名称募集コンテストは受付を締切ました。たくさんのご応募ありがとうございました。ただいま選考中です)を片手に調理実習室を出る。

改になり、よりスタイリッシュかつバリアフリーとなったのだ。

「おんしつ行くのわはじめてですますね!」

「俺も初めてだ」

「はじめて同士で行っちゃうのですね!…いくさ、どうして前かがみですか?」

「ラミさんや、男の子が前かがみになっている時は見て見ないフリをしてくださいな」

「?わかんないけどわかったですますよ!」

靴を履き替えてぐるっと回り込んで裏側へ。

希望学園敷地内には大きく分けて三つの建物がある。

L字型をした四階建て本校舎と連絡通路で繋がった部活棟。部活棟の一階部分は体育館になっている。

そして今は使われていない木造の旧校舎。

温室は本校舎と旧校舎の間に位置していた。校舎裏なんて日当たりが悪そうな立地だと思ったが、意外とそうでもないようだ。

「これは、かなり広いな」

ガラス張りの温室はテニスコートが三面は入りそうだ。

周囲には花壇が色とりどりの花を咲かせている。俺にわかるのは紫陽花くらいだが。

「お花、キレイですますね!」

「そうだな、良かったな」

ラミの笑顔には癒される。連れてきて正解だった。ラミには色々なものを見せてやりたいものだ。

見たところ温室の外には誰もいないようだ。中に入ってみよう。手近な入口を開く…

「!?こ、これはっ!?」

そこで我々が目にしたのは伸縮性に優れた素材で出来たぴっちりとしたタイツ状の衣類、すなわちスパッツに包まれた臀部であった!

「あなたが神か!?」

思わず拝んでしまった。

スパッツ様がもぞもぞと動くと藪から上半身が出てきた。

「ぷはっ!こんにちは!はじめて見る顔だね、入部希望の人?それとも見学かな?」

ツインテールの快活そうな美少女が姿を現した。

「こんにちわですよ!ラミわ料理部のはじめてのおつかいですよ!」

鏡の中からラミが答える。

「わぁ、ラミセンパイだ!初めて見た!本当に鏡の中にいるんだね!」

スパッツ神はバターにりそうな勢いでラミ鏡(仮)を回りだした。

二カ月が経ち鏡の中の少女の存在は学園内では広く認知され、一時的に殺到した野次馬もすっかり落ち着いた。彼女も話だけは聞いていた口だろう。

「ふー、堪能した。あ、ごめんなさい、ボクは園芸部員の遠藤えんどうクロス!駅前のフラワーショップHANAYAの看板娘だよ!よろしくね!」

ふむ、スパッツ神の上にボクっ娘とは!

「結婚してください」

「えええええ!?」

しまった。つい求婚してしまった。

「えと、その、本能寺センパイ、だよね?そういうのはイキナリは困るってゆうか、そんなこと言われたの初めてってゆうか、あううぅ…」

「クロスちゃん、いくさはせきずいはんしゃできょげんへきのびょーきなので許してくださいですよ。まったく、いくさは、めっ!ですますよ!」

「ごめんなさい」

ジャパニーズDOGEZAを決めた。

「い、いぃょ、もぅ…と、友達からね!友達!」

なんという心の広さ!

「ありがとうございます!神!」

「神!?ナンデ神!?」

「いくさ!またおもらしてるですよ!」

「もう、調子狂うなぁ…ハーブを取りに来たんでしょ?ハーブ園はこっちだよ、付いてきてね!」

クロスちゃんの案内で温室を進む。温室内はいくつかのブロックにわかれているようだ。

「最初に居たのが野菜園ね、ここが果樹園、ほらバナナあるよ!まだ青いけどね」

「青いかじつですよ!」

「ラミさんも割りと脊髄反射でピンポイントな発言をしますよね?」

「たまにいくさわラミにけーごになるですよ」

「不思議だね?そしてこっちがハーブ園」

「この看板わなんですか?」

「そこは間貸ししてるんだ、錬金術研究会と黒魔術同好会に」

なんか増えてるけど気にしない事にした。

「あっちのカギのいっぱいかかった扉わなんですか?」

「生命科学研究部の実験室だよ、危ないから近付いたらダメだよ」

「本当に大丈夫かこの学園!?」

「セージに、ローズマリーに、レモングラスにー」

手際よくハーブを摘み取っていくクロスちゃん。無防備に揺れる臀部inスパッツ。眼福眼福。

「いくさ、はなじがたれてるのですよ」

「なんてベタな!」

地面に落ちる血の滴。それがすぅっと跡形もなく消えた。

「おぅ?」

もう一滴。

消えた。

ぽたりぽたり。

消える。

吸い込まれてる。

え、なにこれ怖い!

ぼこん!

「ひぃっ!?」

「なに、どうしたの…って、手ぇ!?」

「ラミ知らなかったですよ!ニンゲンわ地面から生えてくるんですますね!」

「人間は生えません!」

「じゃあどうやって増えるですか?」

「このタイミングでまさかの性教育!?」

「あのね、雄しべと雌しべが…」

「言ってる場合か!ほら、もう手だけじゃなくおっぱいまで…おっぱい!!」

「本能寺センパイ直接すぎ!あ、でもおっぱいは使わない場合もあるよね…っておっぱい!」

「おっぱいですます!」

たわわなおっぱいが生えてきた!ていうか顔も!美少女!美女!

「やれやれ、おっぱいおっぱい五月蝿いねぇ、こんなもの二人に一人は二つ持ってるじゃあないかい」

クロスちゃんを見る。

ぺたーん。

ラミを見る。

ぺたーん。

俺を見る。

ぺたーん。

「意義あり!!この場には四人いても二つしかありません!」

「どーゆーことかなセンパイ!」

「ラミわまだまだせいちょうきですます!」

「くっくっく、モテモテだねぇ、色男」

ウェービィな前髪をかきあげて全裸美女が笑う。

「結k「言わせないですよ!」

危ういところであった。

「坊ややおぼこには刺激が強すぎたようだねぇ、ちょっと待っとくれ、そら!」

ネイキッド美女が腕をかざすと周囲から蔦が集まってきてそのわがままボディを包む。そしてすっぽんぽん美女改めチャイナ服美女が爆誕した!

「しまった!おっぱいに気を取られて下の方まで見ていなかった!!」

「いくさはちょっと黙ってるといいですますよ?」

お口チャックマン。

「アタシは四葩よひら、大陸生まれの紫陽花の化身さ。しばらく眠っていたがそこの坊やの血で目が醒めちまったよ」

「うわぁ!トワイライトセブンが二人も!?スゴイや!」

「おなかまさんですか?よろしくしてほしいですよ!」

七不思議の一つ、血染めの花壇。屋上から飛び降りた者たちはなぜか同じ花壇に落下するという。その主と言う訳か。

薔薇姫ばらひめだな!薔薇っぽいし姫っぽいし!」

「ええええ!?センパイ話聞いてない!?今名乗ったよね!?名付ける流れじゃないよね!?紫陽花だって言ったのに薔薇!?」

「くっくっく、アタシが姫とは気が利いているじゃないかい。いいねぇ、気に入ったよ、薔薇姫、そう呼んどくれよ」

「あんまりいくさわ甘やかしたらいけないのですますが…バラ姫ちゃん、可愛いですね!」

「ボクが間違ってる流れに!?」




「と、言う訳で、薔薇姫だ!」

「薔薇姫だよ、よしなに願うよ」

『軍ぁぁああああああ!?』

薔薇姫を連れて調理実習室に帰ってきた俺を理不尽な暴力が襲う。

「あれは!」

「知っているの、かんじ?」

「ミコちゃんのいつもどこに隠し持ってるか不明の竹箒コメットさんによる怒涛の連続攻撃、その名もコメットさんランブルと言う!」

『ハーブを!取りに!行ったら!なんで!トワイライトセブンが!増えてるのっ

!?』

「だって生えてきたから…」

『埋め戻しなさい!』

「つれない事をお言いでないよ、狐の嬢ちゃん」

『ちょ///キツネゆーな///」

しなだれかかった薔薇姫がミコのアゴをクイっと持ち上げる。

「あわわ、バラ姫ちゃんがユリ姫ちゃんですますよ!」

「ねえ、うちのラミさんに変な言葉教えてるの君のとこの美夜子ちゃんじゃないよね?」

「すまぬ…すまぬ…」

「BLとGLは乙女の嗜み」どやあ




トワイライトセブンNo3 血染めの花壇


「すまなかったな、こんな時間にこんな場所に呼び出したりして。

三月はまだ冬だよな、まあ紅茶でも飲んでくれ、ペットボトルで悪いけどな。

うん?告白とかそんな色っぽい用事じゃねえよ。

あそこ、見えるだろ?あの花壇。

知ってるか、有名だもんな。

最初に飛び降りたのが何年前だったかの三年生。受験ノイローゼだったとかなんとか。

そして二股かけられた挙句捨てられた女生徒。

二股かけてて突き落とされた男子生徒。

自らもその後を追った女教師。

四人もの血を吸った花壇。やがてそれは新たな血を欲して屋上のどこから飛び降りてもその上に落下するようになったと言う。

俺な、実はずっとビデオ回してるんだよ、何台も。屋上の全方位映るように。

本当にそんな事がありえるのか、本当なら例えば逆サイドから落下した肉体はどんなありえない軌跡を辿るのか。

きっと世紀の映像になるぜ。

でもな、三年間撮り続けたけどな、一人の自殺者も出ねえんだ。がっかりだよ。

いじめてた奴は転校しちまうし、ヤリ捨てた女はシングルマザー気取ってやがる。

卒業しちまったら、もう気軽にセッティング出来なくなっちま…んだ。焦ったぜ。

と…ろで、どうだ?眠くなっ…きやしないか?

…うか、ようや…効き……た………………………………………………


第二夜・夜明け 「薔薇姫労働す」


栄養価の高い土とお天道様の光。それだけあればアタシは存在を維持出来る。元が植物だからね。寝床も土の閨で十分さ。

そう言ったのにこのおせっかいな嬢ちゃんはアタシを館に連れ込んだ。

花売りを営んでいるというこの西洋邸宅には、なるほど洒落た舶来品種が山ほどある。植物が暮らし易い良い環境だ。

せっかくなので厚意に甘えるとしよう。

だがタダ飯喰らいはアタシの性に合わない。

アタシの異能は植物を操りその存在を変換すること。店に並べる花の加工も造作もない事さ。

売り上げが増えたようで万々歳さ。

しかし、昔は花を買っていくのなんざ貴族の優男くらいだったのに時代は移ろうねぇ。

客の大半は強面の黒服たちさ。クロスの事を小姐さんなんて呼んでるくらいだから常連なんだろうねぇ。

どうりでクロスはあの悪人面に免疫があったはずさ。おっと、こいつは軍には内緒だよ?あいつは打たれ弱いからねぇ…



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トワイライトセブン 桐原温泉ホテルロイヤルつかさ @bokukkolove

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