ハッピーウインドウ

@maruma

プロローグ 宇宙暦2138年、ケプラー62C

 ケプラー62Cは第二宇宙区域の恒星ケプラー62の周りをまわっている惑星だ。宇宙暦358年にテラフォーミングが開始され431年には本格的な入植が始まった宇宙暦的に見ても古い「人住星」である。ケプラーの名が示す通り宇宙暦56年にケプラー望遠鏡が発見した惑星で発見当初から生命が暮らすことの出来る星と期待されていたが成果は散々なものだった。当初予想より恒星の温度が低く、二酸化炭素やメタンの大気含有率も上がらず、結局より内側のケプラー62bに多くの入植者が押し寄せることとなった。しかし中途半端に開発されたケプラー62cも1020年代から表面化する人住星の割合に対する人口爆発問題、通称「飽和の時代」期に注目が集まり地下シェルター活用等なんだかんだでそれなりに発展した人住星となった。

 大きな人住星には得てして愛称がつけられる。古くからの習わしに従い、初めてケプラー62cに降り立った宇宙船の名前から取り、「ネーヴェント」と名づけられた。「不死の船」という意味が込められているらしいのだが不思議と古代地球文字にそのような意味はないらしい。よくある事だが古代地球文字はあまりに多くの言語が混在しており、今では失われた言語もあり、当時の言葉の意味を正しく理解出来る者はほとんど存在しない。だが一度放棄されてもなお人々が暮らす人住星となったさまは不死の名にふさわしく、ネーヴェント住民の誇りとなっていた。

 さて、そんなネーヴェントの片隅ジャンクだらけの小屋でぼーっとしている若い男がいた。名はオルト。ネーヴェントで生まれ育ったぼーっとした男だった。毎日ジャンクの山を歩き回っては何かを探しているようだが何をしているのか分からない不気味な男だった。まわりの人々は頭がおかしい男だと思い誰も近寄らなかった。そんな男がある日突然いなくなっても誰も気に留めなかった。ただ一人、同じジャンクの山に暮らしていた少年を除いては……。

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