エピローグ

 お兄ちゃん お元気ですか

 わたしは ちゃんと無事でやっています

 わたしはこう見えて たくましいのです 大丈夫


 こうやって旅をしていると

 いろいろな人たちにめぐり会います

 わたしのような“旅人”も

 世の中にはたくさんいるもたい

 その“旅人”の中にも

 いろんな人がいるのだけど

 どの町へ行っても

 誰もが必ず口に出す旅人が

 一人いるのです

 ある意味 有名です


 こういうと

 ベテランの おじさん おじいさんを

 思い浮かべるでしょう?

 でもね 驚いたことに

 まだ十七、八歳くらいの

 若い青年だということです


 その旅人は

 とても不思議な人で

 いつの間にかいて いつの間にかいなくなる

 そんな人なのに

 ほとんど町の人達とも会話しないのに

 姿もよく覚えていないくらいなのに

 なぜか心にずっと残っているのだと

 みんなが言います


 実は わたしも

 そういう旅人に 一人だけ

 出会ったの 先日ね


 その時は気づかなかったけれど

 きっとあの人のことだと思うわ お兄ちゃん

 最初は なんてばかな

 とち狂ったひとだろうと思ったの

 なのに 不思議ね とってもおかしな気持ち

 たった一回出会っただけなのに

 今はなぜか

 その旅人さんを すごく尊敬しています


 ハシバミ色のまんまるな

 幼い少年みたいな目をしてて

 マーマレードジャムみたいな

 明るい髪の毛が まるで綿毛みたいにふわふわしてた

 焼きたてのトーストみたいな肌をして

 小柄なくせに

 とっても大きなスクーターに乗ってるの

 ヘルメットもつけてないんだよ

 しわくちゃの

 帽子だけ 後生大事にかぶってて


 もう一回 会ってみたいなあ

 もう一回 会えたなら

 わたし もう旅なんかしなくてもよくなる気が

 そんな気がするの お兄ちゃん


 わたしがその旅人に出会った場所では

 目の前の道が二手にわかれていて

 どっちへ行こうか決めなければいけなくて

 なのにその旅人は

 それまでに来た道を逆走して行ってしまったの

 ばかな人だわ

 でも 頭いいわ

 わたしも その人の後ろから

 追っかけて行こうと思ったけれど

 後ろから追いかけても

 ただ追いかけているだけで

 だからわたし

 別方向から行くことにしたの

 違う道を走っていれば

 いつかまた 会えるかもしれないでしょ?

 わたしも 右か左 どちらへ行くか

 結局決められなかったから

 道でもないところだったけれど

 バイクを走らせてみているわ

 それでもちゃあんと町にたどりついた

 知らない町


 わたしは今も いろいろな町を転々として

 ちゃんと旅を続けられています

 あの分かれ道を

 通らなかったこと 選ばなかったこと

 後悔してないよ お兄ちゃん

 私は元気です

 お兄ちゃんも 家族大事にしてね


 やっとできた家族なんだから


 赤ちゃん産まれたら 教えてください

 飛んで帰ります


 また 手紙書きます


 お元気で



             愛をこめて



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ある旅人の旅 星町憩 @orgelblue

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