第12話 契約そして教育
画面上で微笑む謎の少女。何かの映像かと思い手を振ってみるとその目は確かに俺の腕の動きを追っている。こんな雪の中で今外にいるのか。戸惑っているとその子が口を開いた。
『初めましてマスター』
ノイズが入ったようなひび割れた声。そして俺の目を見つめ今度は深く頭を下げた。
「マスターって……」
なんだその呼び方。俺は相手に聞こえていないと思い込んでいてそんなことを呟いた。
『貴方は私を受け入れた。つまりは私のマスターなのです』
独り言に反応され通信機のスイッチを確認するがオフのまま。コイツはどうやって声を聞いているんだ。ヨロイには通信機能と外の音を拾う機能がついているが操縦者の声を勝手に漏らすような機能はついていない。
俺がまゆを寄せたのを見て何かを察したのか少女が弁解する。
『あの日私を受け取っていただけましたよね』
「ああ? 受け取った?」
受け取ったもの……カゴか。俺の目線がカゴ置きに行ったことを目ざとく見つけ少女が頷く。
カゴがなんだ? 使うことで遠くから干渉できるカゴなんて聞いたこともない。もしどこかにそんな機能が有るカゴがあったとしてもマスターってなんだよ。
『マスター。どうやら誤解が発生しているようですので訂正させてください。私はどこか遠くの地から話しかけているわけではございません』
『私は人の言うところの精霊と呼ばれる存在に含まれ、その端末に内蔵されている意思です』
少女の胸の前に四角い小さな枠が作られそこにあのカゴとその下に「わたし」の文字が表示される。
「精霊……どういう」
『そろそろ出発いたしましょうか』
俺の話を途中で遮り自称精霊が勝手なことを言い出す。さっきからコイツは俺が話し一つを理解し切る前にどんどん新しいことを被せて来てイライラする。
「出発ってどこへだよ。俺は帰るんだぞ」
『いえ、行くんです』
俺のヨロイを固定していたワイヤーが外れ、寝そべったままでヨロイが後ろにずり落ちていく。先輩のヨロイは背中の高さが10mを超えている。このまま無抵抗に落ちると命が危ない。俺は慌てて操縦桿を握るがこれも反応しなかった。
焦る俺を画面の向こうのあいつは首を傾げて見ているだけ。
「おいっ動かないんだがこれもお前のせいなのか?」
『あっはい』
気の抜けた返事を聞きながら頭から逆さまに落ちる。落ちている時間は数秒もなかった。驚きだけで恐怖を感じる間もなく地上に叩きつけられた衝撃で俺はまた意識を失った。
それから復帰したのは前回に比べてかなり早かった。どれくらい早いかというと目を開けた時に先輩のヨロイがまだ小さく見えたくらいだ。
いつの間にか体勢を立て直したヨロイ。痛む体を撫でながらまた操縦桿を握る。
今度は普通に動いた。じゃあなんで今頭から叩き落とされたんだ。モニターを睨むがあいつはこっちを向いていない。
ならどこを向いているのか。またモニター内に小さな画面が作られこの近くのある場所を映す。そこには森から顔を覗かせた大きなムシ。近くの木と比較しても頭だけで俺のヨロイと同じくらいの大きさがある。
甲虫に似たキラメキの有る外殻に細く長い無数に生えた足。足のついた胴体の先に平たい頭とそこに雪を載せた大きなハサミ。
頭を上下に振りながらのそのそ森の外へと出ようとしていた。
間違いなく街へと向かうつもりだ。俺一人でなんてとてもかなわない存在。それがムシ。早く街に知らせなければ──
通信機のスイッチを押すがまだ使えない。
「おいっ通信機能戻せっ街に連絡しないと」
『いえ。すいませんがこのままの状態で進めさせていただきます』
やっと俺の方に向き直ったが拒否する少女。
雪の下から現れた
『では本題を説明いたします。このムシを教材に』
少女が笑顔でそう言った。
ベニミツロジック スズキさん @TudukiSAN
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます