第11話 出会い、あるいは白昼夢
視界の角度が悪くてそれがどんな物だったかは見えなかったが、腹をえぐる生々しい音は今でも思い出すしその時はパニックに陥っていたと思う。
カツン……カツンッカツン
次に小さな音がした。これは見えなくても何の音だかすぐにわかった。俺のヨロイの腹を叩いてるんだ。
ますますパニックが酷くなる。俺が動かせる部位は首くらいでひっしに頭を振って団長や先輩に助けを求めた。だが誰も助けてくれず、おっさん達も含めて黙った見ているだけだった。
叩くのをやめてくれ。それかいっそひと思いに叩き壊してくれ。
その音が聞こえている間中半泣きになりながらずっとそんなことを叫んでいた気がする。
そして、とうとう俺の前から壁が消えた。雪や風を連れて入ってきた手のひらに乗ったもの。それは精霊の入ったカゴだった。人も載っていないヨロイが自分の精霊を抜いて差し出してきていたんだ。
泣いて言葉も出ない俺の腹に、ヨロイじゃなく生身の腹にそっとそのカゴを乗せると腕は引っ込んだ。俺から数歩離れたところに崩れ落ちそいつは二度と動かなかった。
よくわからないヨロイやカゴが気持ち悪くて腹の上から払い除けたかったが体が動かなくて、フッと意識を失ってしまった。
気がついた時は先輩のヨロイの中で、周りには誰もいなくて。でもヨロイが動いていることがわかったから操縦している先輩のところに行った。
先輩の隣に着き、声をかけようとした。だがモニターに映る外の景色を見て声を出すのをやめた。
外は猛吹雪になっていた。辺り一面真っ白で団長の姿も見えない。前の方で棒のようなものが横に揺れているのが少しだけ見えた。あれはおっさんたちのヨロイの尻尾だ。
「起きたのか」先輩が前を見たまま喋りかけてくる。
「あっはい。どんな状況です?」俺は迷惑にならないように少しだけ尋ねた。
「状況? 最悪だ。まず俺たちが動けなくなって、お前が気を失って、おっさん達はなんか喜んでて。そしたら急に吹雪いてきやがって。……まあ何したかったのか分かんねえがおっさん達が上機嫌で探索終了だって言い出したことは良かったが」
ちなみにもうまる一日以上過ぎて二日目に近いぞと先輩が頭をガシガシ掻きながらいつも通りの眠たげな声で教えてくれた。
先輩は簡単そうに操縦しているが先輩のヨロイと前方のヨロイはサイズさがふた回りも違う。少しでも離れれば前の人が見えなくなり、近すぎてもサイズさのせいで死角が生まれ事故につながる。
「お前、なにか変なことされなかったか? まあ無事に起きてんだから何もなかったんだろうが」
先輩にあのゾンビヨロイの落としたカゴについて聞いてみた。あれはどこにあるのかと。
「カゴ? お前のじゃなくか? お前、カゴ握ったまま気絶してたぞ。カゴ置きには何も無かったからいつも使ってる奴だろ? 他は知らん」
その時上着左胸内側のカゴ入れから温かな熱を感じた。
服の中を探って見ると見覚えのないカゴ。あの時押し付けられた物で先輩が見た物もこれだったのか。
「……これ、俺のじゃないっすよ」
変な模様の描かれたそれを握り締め小さく呟いた。
「おっ晴れてきたな街も近いぞ。お前はこのまま乗ってくか?」
「いやっ自分でいきます」
俺のヨロイは先輩のヨロイに背負われているらしい。 背中のメンテナンス用ハッチまでのハシゴを登り顔を出す。
体の下から上がってくる機体内の温かな風。顔にぶつかる冷たい風。深呼吸をし体を持ち上げる。
揺れと強風で体が持っていかれないように自分のヨロイを繋いだロープにカラビナを引っ掛け伝っていく。
閉じられた前面装甲下部に有る指が三本は入りそうな穴にカゴを刺す。体に刻み込まれた挨拶のような動作だから自然と行っていたが、今手にもっているのは出処不明のカゴだ。
あっと気づいた時にはもう遅く。何故か俺のヨロイはそのカゴを受け入れ装甲を開け始めた。
開いてしまったら仕方がない。横倒しになった席に座りカゴ置きに謎のカゴを差し込み起動を待つ。
数秒後、いつもよりもなめらかに装甲が閉まりモニターに光が灯る。
無事起動が出来たことを報告しようと通信のスイッチに指を伸ばすが何故か押しても反応がない。何度かオンオフを切り替え先輩に呼びかけるが無駄だった。
通信ができなければ拘束用ワイヤーも外して貰えない。このまま変な体勢で街まで運ばれるかもう一度先輩のヨロイに戻るか。
比べようがない。戻ろう。今度は装甲開閉用スイッチに指を伸ばしたがこちらもいうことを聞かない。どのボタンやスイッチを押そうがどれもこれも反応しやがらない。
しかたない諦めて空を見ていよう。そう覚悟を決め俺は正面を向いた。そして出会った。精霊サンダーソニアに。
初めはヨロイの視界を女の子が覆いかぶさって塞いでいるのかと思った。モニターいっぱいに女の子の顔が大きく映ったんだ誰でも最初は驚くと思う。
綺麗な金髪の女の子だった。どこか眠たそうで気の抜けた表情だった。
その女の子は俺が見ていることに気づくと驚いたようにまゆを動かし、すぐに小さく会釈をして微笑んだ。
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