故郷に捨てられた日
第10話 少し昔のあの日の出会い
ミロクはサンダーソニアの補助脚を下ろし固定するとヨロイに乗ったままのユテンさんとユッカちゃんにも降りるように勧めた。
蜜を燃料に焚き火を起こす。腰を下ろした俺とユテンさんにユッカちゃんがヨロイから飲み物とクッキーを持ってきてくれた。
ソニアの入ったカゴを右手に持ち、反対の手でコップを受け取りミロクが話し始めた。
その街は常に雪が降っていた。
三方を山に囲まれ残りの一面は海。
海から入ってきた冷たい風は山を越えられず雪になるのだそうだ。
だが街には雪はあまり積もらない。
暮らしている人達も寒いなどとは言ったりしない。
なぜならこの街は神様が見守ってくれているからだ。
その神様は樹の形をしている。よその地方では世界樹と呼ばれているらしいがここに住む者たちは神様と呼んでいた。
神様はとても大きく、その幹はとても暖かい。
冬が特に厳しくなり野山にもはいれなくなると街の者たちは暇な時間を神様のそばで暖をとることで潰していた。
この街は人が暮らしている中で最北端の街だ。人口はそれほど多くなく。港に船で来る客の方が多いくらいだった。
人は無謀だろうが先を求めるもの。ここより更に北に人が暮らせる場所がないかと探検家気取りがヨロイと共にやってくるのだ。
だが、人が少ないということはほかの場所では駆逐され尽くしたムシや手遅れの害獣もまだ手を出されずに多く残っているということ。
無謀な探検家や街を守るためにこの街のヨロイ乗りたちは日夜害獣達との戦闘に明け暮れていた。
俺もそんな街でヨロイ乗りをやっていた。形式上は自警団と呼ばれる男だけが数十人集まったグループのメンバーだった。
ヨロイを操縦する団員はみんな子供のうちからメンバーに入って無事に成長出来た人達ばかり。子供のうちは整備とかの勉強や直接戦闘のない仕事でヨロイの操縦方を学んだりで、害獣駆除等に参加出来るのは団長を含め上位十数人くらい。
だけど俺は入って数年で実践に出して貰えてた。自慢とかではないけど普通のヨロイの操縦テクニックもかなり自信があった。そのころ同世代の仲間達はやっと作業用のヨロイに乗り始めたくらい。
それで、こいつと始めて会ったのは本格的な冬前の駆け込み需要もあって街が客で賑わいすぎて、いつもはやらない探検家の警護業務をやっていた日のことだった。
冒険家の護衛ってのは雪深い山に数日から数週間もこもることもある大変な仕事だ。でも俺は街の周りに来る害獣をただ倒すだけよりもそっちの方が好きだった。
護衛組の組長とうちの団長は仲良くなかったからそんなこと最後まで言えなかったが。
その日の客はヒゲをかなり伸ばした熊みたいなおっさんとずっとゴーグルみたいな厚いメガネをかけたおっさんの二人組で、持ってきたヨロイが六足の獣だって皆かなり大騒ぎしてたな。
両前足の外側にちょっとだけ大きい前足が二本生えてるタイプ。誰も見たことないヨロイだって船から降りるときにはもう大注目だった。
街から少し離れた森の中に見たいものが有るから護衛がほしいって話で俺と団長ともう一人の先輩の三人組で付いていくことになった。
あっ雪用のヨロイって見たことあります? ないっすよね。
俺たちの居たところじゃ普通のヨロイじゃ雪に足を取られてすぐダメになるんで足にキノコを逆さまにしたようなパーツを付けて重さを分散させるんですよ、それで足首に圧縮空気を排出する口がついてて滑って動くこともできるんです。
それで、その時は一週間の業務契約だった。人型のヨロイ二体と荷物持ちの四足一体で四足の中に途中炉で燃料補給するときに使うパイプや食料なんかを詰め込んで出発した。
道中なにも問題なく順調に進み二日目には目的地の森に到着する。森では冒険家のおっさん達には目印か何か有るのかまっすぐ森を進んで行く。
森に着いたのが昼前くらいでそのまま日がくれるまで進んだはず。
夜はヨロイ達を近くに固めて俺らの四足ヨロイ内部で夕食を取った。そのヨロイも比較的珍しいタイプで中の人が入れるスペースが二段になっており、そのまま家としても使えるのだ。その分足は遅いが。
そこで飯を食いながら俺はおっさん達の目的を聞いたんだ。
おっさん達の目的は、ヨロイ探しだった。
それを聞いて、こんな森の奥にまで来てたかがヨロイ探しか、と声には出さなかったが横に座った先輩がそう思っているのが伝わってきた。当然俺も同じことを思った。
後で団長がおっさん達のヨロイも珍しい物だからそれもすごく珍しいヨロイなんだろと普段しないようなフォローをしていたのを未だに覚えている。
次の日森の中を歩き始めてすぐにそれが見つかった。
全体が紅い小さな世界樹とその幹に食い込んだまま朽ち果てているヨロイ。
それは人の血を吸ったような黒ずんだ紅色をしていた。
装甲は砕けコケが生えた体。
壊れたヨロイなんて見慣れていたがそれでも何故かそれを直視することが辛かった。
おっさん達はすぐにそのヨロイを調べようと準備を始める。
世界樹を着るためのカッターやヨロイを引きずるためのウィンチ。雪の降る中まるで工事が始まったかのような大騒ぎだ。
世界樹が固くて切り出すのに時間がかかったがなんとかそれを外に引っ張り出せた。腹なんか完全に穴があいていて体が半分にちぎれてないのが不思議だった。
おっさんの一人、痩せた方が操縦席を探ろうと腹に近づいた時だ。
突然ヨロイが淡く光り、体が動き出した。一つの動作ごとに破片が落ち、立ち上がった時には片腕と片足もなかい。
そんな状態で顔をゆっくりと回し俺たちを見る。何が起こるのかわからずとても怖かった。
そして俺たちが動けずにいる中あいつはゾンビのように朽ちた体で俺の方へ近寄り、あお向けに倒れた俺の上にあがると自分の剥き出しの腹に手を入れ何かを掴み出した。
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