第2話 いつかみる先へ

「……328件って……怖っ!」

独り言だ。つい、声が出てしまった。

家族の誰かが交通事故にあったか等と不安がよぎる。私はいつの間にか早足で廊下を歩いていた。一応は元生徒会長、廊下は走ってはならない。

しかし、3年生は校舎の三階に教室があるため、一階の職員室までの道のりは長い。(保健室同様)

申し訳ないが、せめて階段だけでも見逃して欲しい。と、二段飛びならぬ十五段飛びを繰り返して階段を降りきった。

どうやら、姉譲りなのか運動神経は人並み以上に優れているらしい。

ようやく、職員室に辿り着き扉を勢いよく開けた。その勢いの良さに驚いたのか、教師全員皆私に注目していた。

「ど、どうされましたか、先生?」

一人だけ眼鏡をかけた、少し細めの長身男性が半べそをかきながら受話器を握ってこちらを見つめていた。

私の担任の成田先生。新米教師だ。

「……小鳥遊さん、やっと来てくれた……。」

私の姿を確認すると、先生は心から安心したようだ。

一体、何があったんだ??

先生は、受話器口を抑えながら少し小声で

「小鳥遊さんのご家族からで、まだ家に帰ってこないし連絡もないって凄く心配しているよ…。」

多分その様子だとモンスターペアレントさながら先生にたいして怒鳴り散らしていたんだろうなと、推測してしまった。

「先生、申し訳ありません。その人、私の姉さんです。」

と、深々と頭を下げて謝罪し受話器をお借りした。

私の両親は共に15年前に亡くなり、祖母は4年前に亡くなった。なので、こんな電話をしてくるのはたった一人だけ。

「……もしもし、姉さん?」

「…………みっちゃん?みっちゃんなの?良かったー、全く連絡ないから何かあったかと思ったじゃなーい♡」


小鳥遊 二羽(たかなし にわ)

小鳥遊家の次女。私立鳳凰学園の教師。24歳

髪はもみ上げだけ伸ばしショートヘア。金髪。小鳥遊家は四兄弟だが、皆黒髪なのに対して何故か1人だけ生まれた時から金髪。

ちなみに、シスコンかと思われたかと思うが彼女は違う。

こう言った喋り方になるのは決まって怒っているときだ。


「だ、か、ら、早く帰ってきてね♡♡」

物凄い威圧感を何故か電話越しから感じ取る。

そして、一方的に電話を切られた。

電話をお借りしたことへの感謝ともう一度謝罪の言葉を述べて、すぐ様職員室を出た。

家にたどり着くまでの道中は正直言って記憶にない。

私の能力「絶対速読記憶力」を持ってしても二羽姉さんの圧力に屈したのか、無我夢中で駆け抜けていた。


「……はぁ、はぁ、たっ、ただい、まー……」

ようやく、我が家にたどり着いたが玄関先で横たわってしまった。

どうやら、身体能力は高くても持続力はそこまで備わっていないらしい。

あぁ、床ってヒンヤリとして気持ちいいーー

とか。浸っていると、上から殺気を感じて、思わず戦闘態勢に入る。

口元は笑っているが、目は完全に笑っていない二羽姉さんが立っていた。

「……みつばー、あなた高校どこに行くのかもう一度聞いてもいいかなー?」

「……私立鳳凰学園です。」

「……ラストチャンスだよー。どこに出願したのかなー?鳳凰学園?それとも地元の進学校、友枝高校かなー?」

姉さん曰く、鳳凰学園の方が私の成績で特待生として入学でき入学金、授業料が格安になるらしい。なので、小学校6年生の時から鳳凰学園に入れ。と、小言のように言われてきた。

だが、友枝高等学校は、地元の進学校ということもあって中学で出来た仲間とまた一緒に通えるということもあるし、一番は家から近いのが理由で推薦願いを出した。そして、先月あたりに合格が決まった。


二羽姉さんの顔がどんどん強ばって見るに耐えかねない。

目をそらそうとすると、二羽姉さんの頭の後ろに小さな影が見えた。


バッシーーーーン


凄まじい音が家中に響く。

音の正体は、巨大なハリセン。

「妹相手に、そんな殺気出すなや!!!」

と、一喝してくれたのは

小鳥遊家長女 小鳥遊一羽(たかなし かずは)

身長が約140cm程で見た目にロリ顔なので、小学生とも間違えられがちなのだか、年齢は25歳だ。

そして、この小鳥遊家の大黒柱でもある。

説明していなかったが、小鳥遊家は代々剣術を専門としている武家の一家だ。

なので、紅蓮鳥天流(ぐれんちょうてんりゅう)という流派も存在し、大きくはないが家も道場となっている。

門下生は100人を超えており、一羽姉さんはその師範代なのだ。

ちょうど練習時間が終わって、風呂に浸かろうとしたところで、たまたま私達を発見し、止めに入ってくれたそうだ。

推薦願いを出す際、相談を聞いて手伝ってくれたのも一羽姉さんだ。


「大体の話しは聞いていたが、三羽は自分で高校を決めたんだろ?なら、そこでいいじゃねぇか。あたし達がとやかく言う権利はねぇだろう。」

男勝りな口調で再度二羽姉さんに一喝してくれる一羽姉さん。

しかし、負けじと二羽姉さんが

「でも、かず姉!!」

「でも、じゃねぇ!しかし、でも、だっては禁句だって教えたよな。」

二羽姉さんとは凄みが違う。格の違いを思い知らされるようだ。

一羽姉さんは、私に視線を向け柔らかい笑顔で

「お前の好きなように生きればいいさ。

理由はどうあれ、後悔しない人生にしろ。」

まるで、見透かされているようだった。

生徒会長をしてきて、能力もある程度備わったいる。私は、普通ではない。とは思うが、自分の進むべき未来、進みたい夢なんて持っていなかった。

誰かの役に立ちたい等と思っても、心の片隅でそれが偽善だって気づいている。

一羽姉さんの言葉を聞いて、自分自身が目指したい未来を友枝高校で見つけると決心した。


「そおですか!わかりました!よ!」と、

二羽姉さんは、あからさまな怒り方をして、自分の部屋へと戻っていった。

心配になった私は後を追いかけようとしたのだが、一羽姉さんが

「あたしが後でなだめとくから、お前は心配すんな。」

と、頭をわしゃわしゃしてくれた。

「もぅー!せっかくのストレートがくしゃくしゃー。……ありがとう。」

実の姉に対して改めて感謝するのは、どこかむずがゆい。

しかし、この何ヶ月もの間不安に思っていたものがこうもあっさりと解決して、とても晴れやかな気持ちになった。



この気持ちの良いまま早く入学を迎えたいと思ったが、現実そうはいかなかったーーー。

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