第3話 崩れゆく音

私は自室に戻ってすぐ、制服からホームウェアに着替えて、隣の部屋をノックする。

その部屋の扉には四つ葉のクローバーのシールが大きく貼ってある。

私の部屋の扉には、三つ葉のシール。

二羽姉さんの部屋の扉には、鶏のシール。

一羽姉さんの部屋の扉には、葉っぱのシール。

単なる語呂合わせで、幼い頃皆で付けたのだ。

そして、数分待ったところでこの部屋の主が出てきた。

「ごめん、みつ姉。彼女と電話してて……」

…部屋から全く話し声は聞こえなかったがな。

髪型をワックスでびっしり決めて、ライダースジャケットを着こなし、何故か家でサングラスをかけている弟。

小鳥遊 四羽(たかなし しば)

中学2年生なので私の一個下。

ちょうど、そういう年頃なのか痛い子に育ってしまった。

でも、それもいつか黒歴史だと気づくだろうと誰も注意しない。

極めつけに現在進行形で呼ばれているあだ名は

「生徒会長の犬」

年が近いせいか、どこ行くにしても昔から私から離れなくて、周りからはよく「柴犬」と呼ばれていた。そして、中学に入り私が生徒会長に選ばれると翌年、副会長に就任した。その執念深さを他で利用して欲しいと姉として心から思う。

だが、こんなにも露骨なシスコンを前にして可愛くないわけがなく、やたら構いたくなるのだ。まるで、尻尾を振っている犬のようで。

「そうなんだー。ごめんねー。お姉ちゃんもう行くから、彼女さんと電話してて良いよー。」

彼女なんていない事は承知なのだが、ついからかいたくなる。少し話し方が不自然だったかなと思ったが、彼は全く気にしていない。

「えっ!?どこ行くの?コンビニ?…かっ、彼女なんて放っけば良いよー」

最初は目を輝やかせていたのだが、彼女の話しになると、目線をそらせる。

なら、嘘つかなければいいのに。

見ている限りの推測だが、どうやら彼女が出来たと嘘をついて私に焼きもちをやかせたいらしい。

私の前では、思っている事が顔に出るので読み取りやすく、それが何とも可愛らしいのだ。

「えー、彼女放っておくなんてサイテー。シーバってそんな子だったんだね……。お姉ちゃん、悲しいよ……。」

と、嘘泣き。

「おっ、俺そんな……いゃ、僕そんなことしない!!だから、サイテーなんて言わないでー」

そう言いながら抱きついてきた。顔を見ると今にも泣き出しそうだった。

今日はこれくらいで勘弁してやろう。


「ご飯出来たぞー!!!」

下の階から一羽姉さんの声がした。

すぐ様、四羽と駆けつける。テーブルの上には三つ蕎麦があった。二羽姉さんが食卓に来ていないということは、おそらく不貞腐れてまだ自室に篭っているのだろう。一羽姉さんに視線を送ると顔を横に振られた。

「とりあえず、食べるか!!」

と、皆で今日一日あったこと等話し合いをして夕食を終えた。


いつの間にか炬燵で寝てしまったらしく夜中の二時頃に目が覚めた。すぐ隣に四羽が寝ていたので起こさないようこっそりと抜け出し二階の自室へと向かった。

その途中、二羽姉さんの部屋から紫色の光がもれているのに気づいた。好奇心に負けて聞き耳を立ててみると、何やら呪文のようなものを唱えているようだ。だが、その直後何かが床に倒れ込んだ音がした。もしかしたら、と思い急いで部屋に入るとそこには倒れている二羽姉さんと石版が転がっていた。どうやら光っていたのはこの石版のようだ。すぐ様、二羽姉さんの様子を確認したが、息はあるので気を失っているように思えた。私はその石版を手に取り、もう一度見つめてみた。光は、徐々に弱まり文字が刻まれていた。

その瞬間、二羽姉さんは起き上がった

「見てはならんーー!!!!」

どこか懐かしい老婆の声がした。


だが、私は一瞬で読み取ってしまったーーー。


不可解な文字を。いとも簡単に。

何せ、一度目にしたことのあるものだからー。




私という自我が薄れていく感覚

何もかもがなくなっていく

炎の音が耳に残る

あとはー



なんで目の前に死んだはずの鳥栖(とぐら)お婆ちゃんがいるんだろう。

どうして、泣いているんだろう。




どうして、こんなにも熱いのだろう

どうして、私の髪は金髪なんだろう

どうして、私の手は鳥みたいな翼なんだろう



鳥?



あぁ、私


空を飛んでいるーーーー


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