鳳凰学園
深津 夏凜
第1話 日々、青春
ピンクの髪の女の子、とか。
空から女の子が落ちてくる、とか。
ツインテールのツンデレ娘、とか。
異世界に連れていかれるハーレムもの、とか。
えとせとら
ここ最近の小説はタイトルが無駄に長くて
ハーレムものばかり。
似たような作品がゴロゴロ転がっていて
一応アニメも見てみるけど特に好きにはなれず…。
こんな世界に憧れる気持ちも分からないでも無いけれど
現実はそんなに甘くないってーの。
まったく、いつの時代から
こんな欲望の塊のようなものが流行り出したのかしら。
ぱたん
あとがきまで読み終えたところで本を閉じた。
右側の机にライトノベルが30冊分山積みにされている。30冊を上に積み上げると崩れる可能性があるので10冊ずつに分けて置いてある。そして、今読み終えたライトノベルをその上に置いた。
そして、次巻に手を伸ばす。
読んで早々ライトノベルに対しての不満を述べていて、何故まだ読み続けるのか?
と思うかも知れないがこれには深い訳がある。
「やっぱ、ミツバちゃんの速読はいつ見ても凄いわー。どうやった?このシリーズおもろいやろ?」
反対側から声がしたので、伸ばした手を止めた。
眼鏡をかけた関西弁の女の子。成瀬さん。
「…うーん。そうだねー、ハーレムものはちょっとね。」
嘘をつくのは苦手だ。
なので、思ってた通りの事をそのまま口にした。なるべく笑顔で。
「そっかー、なんやー、残念。
原作読んでみたら良さが分かると思ったんやけどなー」
これが深い訳。
言い方は悪いが、彼女のおせっかいで好んでもいないジャンルの小説を読んでいたのだ。
事の成り行きは、昨日の3時間目に遡る。
授業中に携帯の着信音が鳴った。
マナーモードにしていないなんて、この学校では良くある事なのだが、その時鳴った着信音はアニソンだった。
この間ちょうど、たまたま見た深夜アニメのオープニングテーマ曲。
顔面真っ赤にさせて慌てて携帯の電源を切ろうとしていたのは成瀬さんだった。
まぁ案の定、授業終わってから周りの男子にからかわれてしまい落ち込んでいたので私は声をかけた。
私の好みは、どちらかと言うと少女漫画寄りなので、ジャンルは違うのだが様々なアニメの話しをして盛り上がった。
そして今朝、学校に到着するや否や大きいサブバックを持った成瀬さんが出迎えてくれた。
蓋を開けてみたら40冊程のライトノベルとDVDが6本。ちなみにDVDは持ち込み違反である。
成瀬さんが満面の笑みで、
「昨日、1話しか見てないってゆーたから今家にあるの全部持ってきたでー」
確かに、1話しか見てないとは言ったけども、見たいとは一言も言ってない。
「今日の放課後一緒に見よーなー」
本気か…。
で、今に至るという訳だ。
別に成瀬さんが悪気があってやっているのでは無いのだから良しとしよう。
さて、残り9冊。どうしたものか。
ふと、黒板上の時計に目をやると、5時をさしていた。
成瀬さんは連られて時計を見る。
「あぁ!!もうこんな時間なん!?
6時から見たいアニメやるの忘れとったわー!」
あたふたと積まれていたライトノベルをサブバックに全て戻す。その最中、
「しっかし、生徒会の引き継ぎ会議で遅くなったのにも関わらず、10分足らずで30冊分読み切るなんて大したもんやわー」
正確には、31冊なのだが。
「しかも、それぜーーーんぶ一文字忘れず記憶出来るなんて。その能力私も欲しいわー」
そしたら、小説買わんで立ち読みすればええし。
と小さい声で呟いた。
言い終えると同時にサブバッグのチャックを締める。
「ほんま、今日はありがーとーなー」
今朝見せてくれた満面の笑みで彼女は教室から猛スピードで去っていった。
賑やかだった教室内は静かで、少し風に当たりたくなり窓を開けた。
日中、天気が良かったお陰か今日の夕日は最高に映えている。
グラウンドから野球部の声が聞こえ、また下校中の女子中学生の声も聞こえるが、今日はいつもより風が強くあっという間に声をかき消した。
ここから見る景色を十分に目に焼き付ける。
何せあと1週間で私は、この学校から卒業しないといけないのだから。
入学したての頃の事や、教えて頂いた先生の事、沖縄の修学旅行で生徒の半数がインフルエンザにかかったこと、何故かバレンタインデーにチョコをもらうこと、生徒会長になったこと、など。
まるで、昨日のことかのように思い出す。
その時の天気や建物の色はまだしも、父兄の方や旅行者の顔までも鮮明に覚えている。
成瀬さんも言っていたが、これが私の能力。
[絶対速読記憶力]
確かに、この能力のお陰で成績が保たれているのだから不満等あまり言えない。
だが、全てを記憶するが故に嫌な記憶までも鮮明に覚えているのは良い事とは言えないだろう。懐かしき幼少時代、祖父の家、異形を模した…ー。それ以上は、思い出したらいけないのだと、記憶に蓋をする。簡単に思い出すことは出来るけど、この記憶だけは体や脳、心が拒絶してしまう。
だいぶ長い間、風を浴びていたせいで少し体が冷えたのに気付き、窓を閉めた。
さて、私も身支度して家に帰ろうか。
と、スクールバックに手にかけたとき
校内放送が流れた。
『3年4組小鳥遊 三羽(たかなし みつば)元生徒会長。至急、職員室へお願いします。』
放送は二回繰り返され、急いで職員室へ向かう。
向かう際、片手で携帯を確認したところ、家から着信が来ていた。
その件数、328件。
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