エピローグ
気が付いたら、机を枕にして寝ていたらしい。それにしても凄まじい夢を見たものだ。自分がぬいぐるみになる夢なんて。目の前にあるクマのぬいぐるみ。きっと、これがあったからそんな夢を見たんだろう。窓の外を見ると、地平の向こう側から光が見えていた。もう朝なのか。あまり寝た心地がしないなと、眠いながらに俺は思った
毎朝の日課として、早朝のジョギングをしているが今日はなぜか、処分場まで歩いていきたくなった。まだ薄暗い街中は閑散としていた。すれ違う人もいなければ、車もない。空にはまだ月が残っていて、遠くの空に煙が上がっていた
川沿いの道を伝っていき、最終処分場についてみると規制線の周りに野次馬の人だかりがあった。黒煙が上がり、夢に出てきたとおりにここは燃えたらしい。これは正夢か?
「不審火だってさ」
野次馬たちが噂をしている。俺は気味の悪さを感じながらも、その場を離れることにした
「出火の原因は不明らしい」
最終処分場から玩具堂まで歩いてみる。昨日の記憶を辿りながら、確かめるように歩いていく。ふと空を見ると、少しづつが明るくなっていた。街にも通勤する人が出てきた。街灯は消え、家の明かりは付き始めて、それでも1か所明かりがついていない場所を見つけた。玩具堂は明かりが灯らず暗いままだった
『昨日を持ちまして、閉店させていただくことになりました。玩具堂店主』
張り紙にはその一文だけだ。ああ、自分が最後の客だったのか。舞に教えてやろうかと思ってたんだけどな…。失意のまま店先を離れる
家への道を急ぐと、車の往来が多々あった。空には光が満ちて、朝の到来を感じた
家に帰ってくると、まだ誰も起きておらず静かで、忍び足で自分の部屋に戻ってぬいぐるみと対峙する。あの夢の続きを思い出して…
「そういえば、言っていなかったな。君には本当に感謝しているよ」
そんな夢だった。彼は事切れた彼女を抱いて、振り向いて言った。いくつもの時代を見たその顔には笑顔が浮かんでいたことが思い出される
「いや、俺もあなたに良い経験をさせてもらった。ありがとうございます」
悲しみも怒りも浮かんでいたが、それよりも大事なものを学んだのは確かだった
「そうだ。君が元に戻る方法だが…」
あれは、夢だったんだろうか。腕輪を見て思う。もしかしたら、本当にあったことだとしたら。いや、あれが夢だとしてもあの言葉に真実はあったはずだ
「紙を見ただろう。君が読んだことによって、ぬいぐるみになったあの紙だ」
そういえば、あの紙にはほかの文言が書いてあったと思い出した
「…これからあなたはどうするんですか?」
色々聞きたいことはあったけれど、これが最後の問いになった
「もうちょっと生きるつもりさ。なに、君にもう会うことはないだろう。少年」
そんな言葉を彼は遺して去って行った。そして、俺は夢から覚めたのだった
「なぁ、クマオ。俺はお前に舞を任せるぞ。お前が夢を守るんだったら…」
俺は物言わぬぬいぐるみに語り掛ける
「舞はきっとお前を捨てるような真似をしない。それを信じてくれ。そして、お前も舞を信じてくれないか」
おもちゃは時に友で、兄弟姉妹で、恋人で、親で、赤の他人で、あこがれだ。それがただのおもちゃに変わった瞬間に人は捨てるんだ。そうだろ爺さん。俺とクマオは昨夜、戦友になった。それなら、このクマオだってただのおもちゃじゃない
「舞。いいか?」
扉をたたく
「いいよ。にーやん」
扉が開きパジャマ姿の舞が眠い目をこすりながら出てきた。俺は両手にクマオを持って舞に見せた
『夢を守るもの』
『夜を司るもの』
どちらもおもちゃを表す言葉だと言ってくれた人はもういないけれど、俺はこの言葉たちの意味を決して忘れない。…忘れられないだろう
…そんな余韻に俺が浸っているときに遠くで声が聞こえた
「make a change…うわっ!」
新しい物語が始まる…らしい
玩具戦士ぬいぐるえーたー グンジョシキ キレイ @r_gunjo_iro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます