第9話

 翌朝、二人は騒音で目を覚ました。誰かが騒いでいる。まるで幼い子供が遊びに興が乗り、自制が利かなくなったような、そんな音。幸太郎は冬香が騒ぐはずがないし、いったい誰だろうかと疑問に思いながら自室を出る。冬香は幸太郎がこんな騒ぎ方をするだろうかと疑問に思いながら自室を出る。二人は二〇一号室の前で鉢合わせ、互いに顔を見合わせた後にその部屋の玄関ドアを開いて中へ。そして目撃する。一人でゲームをするタマ。少女は昨夜のことなど無かったかのように、当然のようにそこにいた。

「くそ、まただ! 絶対に今のも私の方がはやかった! やはりこのげぇむは壊れてるのだ! でなければ説明がつかん!」

「説明が必要なのはこっちだコラ!」

 ゲーム画面に夢中だったタマは、びくりと浮き上がった後、恐る恐る背後の二人へと振り返る。その顔には冷や汗が滲んでいた。

「お、おう。これはこれはお二人とも、どうしたのだ?」

「どうしたもこうしたもあるか! おまえ、なんで居るんだよ!」

「いや、私ってずっとここで暮らしてたから、死霊が普段どのように結界をすり抜けていたのかを知っていたのだ。その、抜け道とか? だからそこを通って帰ってきた」

 幸太郎に次ぎ、冬香が問う。

「それはわかったわ。でもあのとき、私は本気であなたを打った。なのにどうして」

「いや、猫に九生有りと言うだろ? だから魂の一つや二つが消し飛んだところで、あまり問題はないというか、その……あはは」

「そう。それは良かったわ。……タマ、そこに直りなさい。九つあるのなら、あと五つくらいはいいわよね?」

 そう言って、何処に持っていたか雪月花。冬香はそれを構える。その気迫は凄まじい。おそらく歴代の強打者すらこれほどではないだろう。何故なら、黒い霧を纏うほどの怒りを抱ける者など、この世にはそうそうに存在しないからだ。

「覚悟しなさい、タマ」

 とそこで、幸太郎の携帯電話が鳴る。幸太郎はいったい誰だと通話相手を確認するや、うっと唸った。そしてしばしの躊躇の末、通話に出たのである。

「幸太郎です。……あ、母さん? 父さんの携帯から電話してくるから、本気でビビったよ。っで、やっぱり電話してきた理由って……あ、はい。そうですよね。……あの、父さんは怒ってる? 激怒! マジで! ヤバイヤバイヤバイ、殺される。……え、帰ってこい? いやーそれはちょっと……。え、帰らないなら永遠に許さないって言ってるの? うわーマジかー……死にてえ~……。あ、はい。わかりました。じゃあ一回帰ります」

 そして幸太郎は通話を切り、意気消沈とした様子で項垂れた。

 が、先の電話の内容に納得が行っていない者が一人。冬香である。

「幸太郎? ちょっと聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」

「え、べつにいいけど……って、笑顔なのに目が笑ってない!」

「あなたの家族は生きてるの?」

「え、普通に生きてるけど?」

「じゃあ帰る家が無いって言ってたのは?」

「いや、俺って受験生なわけだけど、今までずっとゲームも漫画も禁止されてて色々と鬱憤が溜まってたんだよ。っで、それが受験勉強やらのストレスで爆発。勉強をほっぽって友人宅でゲーム三昧した結果、志望校に落ちてしまったと。最悪なのが、ゲームのことが父親にバレたこと。まだ勉強した上で落ちたならまだ救いはあったんだけどな。こうなると家には帰れない。ならばいっそのこと……」

「っで、私と出会ったと?」

「そう」

「……幸太郎、あなたもそこに直りなさい」

「え、俺は人間だから魂は一つしかないと思うけど……」

「大丈夫。その魂ごと家までぶっ飛ばしてあげるわ」

「いや、俺の家はこのアパートの二〇六号室で……」

「アホか! とっとと家に帰って父親にこってりと絞られてきなさい!」

「あの、その、わかったから雪月花をどうか収めて――って、危な! いま髪を掠った。避けなかったら死んでたぞ!」

「ガタガタ言わずに死ね。嫌ならさっさと怒られてこい!」

「は、はいぃ!」

 幸太郎は脱兎の如くメゾン・フレンドガーデンを出ていく。冬香はベランダに出て、そんな幸太郎を微笑ましそうに呼び止めた。

「幸太郎。お父さんにしっかりと怒られたら、ちゃんと帰ってきなさいよ」

 幸太郎はふっと笑い、手を上げて了解の意を示す。

 浪人確定の上に、一人暮らしの許可を得なければならないとは、これは骨が折れる。そう思いながらも、家に向かう足は意外と軽かった。

 しかし、反省はやはり必要だ。

 してはいけない。

 そう言われたことは、やっぱりしてはいけないのだ。

 でないと、後悔することになる。

 幸太郎はそう教訓を得たのであった。




          /


正直、冗談混じりに作った物語です。

キャッチコピーの「遊んだっていいじゃない、人間だもの。」は、主人公の言い分でもあり、作者自身の心情でもありました。

もしもこの作品を楽しめた方がいらっしゃったならば幸いです。

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死霊ポロロッカクライム 田辺屋敷 @ccd

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