壱
空を見ていると飛蚊症と呼ばれるものか、なにかがプカプカと浮かんでいるように見え、それを目で追っていると、空を見ているというよりそのなにかゴミのようなものを見てしまっている。
そして、何をしてたんだろうと冷静なると、また空を見上げる。
何を見ているのでも何を考えているのでもなく何も考えたくない。そしてなにも見たくない。
目を閉じてもまぶたの裏が見える、暗く黒いものがみえる。何も見たくないのに眼球がある限りは常になにかが見えている。
自分は見るという行為が好きではない。
障害があるものには皮肉にしか聞こえないだろうが、見たくないものまで見えるというのはとても嫌なものである。
扇(せん)国66州ノ5-66は扇国の中でも唯一教育をする場のある地域だ。
教育を受けるために、国からはもちろん、他国からも人が来るが、昔は日本の本州と呼ばれた国からしかほとんど来ない。
本当に稀に大陸から来る者もいるが、その中でも言葉が違ったものはここ数十年で片手で数えられるほどしか来ていない。
生徒の人数自体、学年で15人ほどだ。教育の不必要さを訴えているが、自分自身が生徒であっては何も言えない。
自己紹介をすると、貫井 佳祐(ぬくい けいすけ)。
学校全体として見るのであれば一般的な生徒であり、特徴と呼べるものはあまりない。
ただこの学校にいるということを言ってしまえば一般的ではない。
ただ、1度だけ変わってると言われたことがあり、いまでも彼女のことははっきりと覚えている。
「なんで貫井君はここにいるの?」
12歳の頃である。とても不思議な質問にも聞こえるが意味など薄っぺらな質問だった。
が、
「え?」
思わず聞き返すしかなかったが、自分自身でなんとなく意味は分かっていた。
「だから、なんで貫井君はここにいるのっ?」
聞いてきた女の子は少し高い位置で2つ結びをしていてとても可愛らしい顔をしていたがその時ばかりはとても顔なんて見れなかった。
「しらないよ。母さんも知らないというんだ」
「ふーん、白観(びゃっかん)には行ったの?」
「行ってない。まだいいって先生も言ってたし」
「あら、そうなの?私は女にこっぴどくされたらしいわっ!だから女なのかしら?」
「へー。麻心(まこ)ちゃん可愛いし、そうかもね」
「ありがとぅっ!でも、貫井君12歳にもなって知らないなんて変わってるねっ!」
その後彼女とくだらない事を話した後、彼女は帰っていったが、変わっているという言葉が妙に胸に引っかかっていたが、深くはきにしなかった。
12歳の時、特に5-66にいる子達には黒嶽(くろごく)様がつくとして大人達から異様なまでに大切にされる。
それもかなり昔に12歳の子供が死んだということを祀っているからとても祈るようなものではない。
ただ、心臓以外で声も聞いていないのに死んだというだけだが。
ただ、12のころは黒獄様ということもあっておもしろいことがおこった。
そうだ、当時の話をしよつか。
16の時の話をしようと思ったが、12の時。いや、13だったか?
いや、そんなことはどうでもいい。あの時にはじまったのだった。
ではでは聞いてくれ、自分が12か13の時の話を。
目を開けると女の人の声がした。いや、歌い声か。
先生に声を聞くなというのを習ったのを思いだした。「 どこからも聞こえないはずの女の歌声はきくな、いや、聞いた方が幸せかもな。」
そんな良くわからないことを言われたが、とりあえず手で耳をおおった、はっきりと聞こえる筋肉の音。そして徐々に始まる耳鳴り。だが聞こえ続ける歌声。
寝ている間に蹴ったのだろうと思える布団を頭までひっぱり体を丸くして、また耳を抑える。いっそのこと叫んでやろうかとも思ったが、何故か声が出なかった。
あまりの怖さでということにしておこう。
声が出なかった。
そして、自然と、いやどんなに力をいれても耳から手が離れた。
そして耳元で歌われているようにその声を聞きながらまた眠った。
目を開けると、異様な鼓動。頭がぼんやりとした。
体の異様な熱さと、寒さが分からず、とりあえず学校へと行った。教師は住み込みの人が大半のため、食事中ではあったものの数人の男性教師がいて、その人達を見たら、体から力が抜け、意識が遠のいた。
寝ている間に不思議な夢を見た。
とても可愛らし女性が楽しそうに自分に微笑み、何かを言っている。それに対し自分もなにか返事をしているのはわかる。
何を話してるのかもわからない。
何がそんなに楽しいのかもわからない。
なのに、心の底から楽しいことだけはわかった。
そして瞬きをすると、今度はその女性がとても悲しそうにこちらをみている。心の底から笑ってと思うのだが、なにができるわけでもなく、軽く頭を撫でて、夢は終わった。
「……ぅ……めぇは、今も、巡りてぇ、忘れがたき、ふるさと」
「………先生」
「あらあら、起きたの?起き上がれる?」
目を覚ますと、他学年の主任である先生が林檎を剥いていた。
自分が起きたことにたし本当におどついているようで、林檎と包丁を持ったまま左右を見ている。
─────おばぁちゃんかよ。せっかくならボインな先生が良かった。
「貫井君、たしか6-89出身よね。」
「いえ、7-89です。」
「あらあら、私ったら。ごめんなさいねぇ、多分連絡は7-89でされてると思うから」
「え。連絡? 」
「だって貴方。 六感だもねぇー。」
灰毒 @Nnyy02141028
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