第5話 二人と初日

山の学習 否 野外合宿当日朝、俺はとてつもないだるさに襲われていた、いや目覚めていた、いやもうたぶん覚醒していた。

 なぜか、理由はいくつかある、まず一つ クラスである、俺はボッチとまではいかないとも、これと言って進んで会話をするような仲がないのである。

そして一つ、行動班、俺の班の中にはあいにく仲のいいやつがいないのである。そして最後に一つ、移動中のバスの中の近くに仲のいいやつがいないのだ。

ん?待てよ これって実質一つの問題じゃね?

でもまぁこれと言って仲のいい友達がいなくて愛想笑いしながら日々を過ごすぐらいならいっそボッチのが気が楽なのかもしれない。

俺はそんなことを思いながら今日の身支度を進めている。山にもっていくカバンは原則学校制定のもの+αらしいので、カバンの中でぐちゃぐちゃになっているプリント類を外に出し、まとめることにした。

入学初日からほとんど片付けてなかったからなぁ、数十枚もの書類が出てくる。一般的な健全男子ならこんなことは当たり前なのだ。また母さんにおこられちまうぜ。

プリントを処分するものしないもので分けているとふと一枚のプリントに目が留まった。

『部活導入部について』

・・・・あぁそういえばそんなのもあったな、この学校では部活動入部は全生徒がしなければならない、そして一か月経ち正当な理由があるもののみ退部が認められるそうだ。

一番最初の入部届提出期限はこの合宿が終わったあと次の週か、それまでに部活に入らなかったものは、生徒指導の対象になるんだとかなんとか。やめると分かっていて部活に入るなんていかにも人生の無駄遣いだ。命は有限なんだぞ、と訴えたい所存だ。

と無駄なことを考えていては時間が来てしまう、二日分の着替えと歯ブラシセット(もちろんいちご味の歯磨き粉)それと一日目の弁当、水筒を詰め込み、急いで家を出た。


学校の駐車場にはたくさんのバスが来ている、各クラスの担任がバスの前でしているのは出席確認だろうか、少し足を速めよう。

荷物をバスガイドさんに預けてバスに上った。俺の隣は、、、と

「加藤君ここね」

突然声を掛けられたから思わず変な声が出てしまいそうになる。

誰だこいつ、あ委員長の、、、、名前忘れた。

軽い会釈をして席に着いた。お隣さんはまだ来てない様だ。完全くじ引き制だったので、幸か不幸かお隣は女の子である。名前も顔も確認してないのでどんな子なのかはわからないが、露骨に嫌がられはしなかった気がしたのでたぶん問題ないだろう、多分。


バスが発車するまでもう少し時間があるな、カバンからスマホを取り出し暇つぶし程度にアプリをいじっていると何やらただならぬ気配を感じた。

なぁにこれと言ったことはない、隣の子が来ただけだ、落ち着け俺、とりあえず適当にスペースを開ける動きをしてだな、そしたら次はあいさつか、いや、寝たふりをしてしまおうか、それとも、えっと、えっと。

そうこうしているうちに、彼女は席に腰かけていた。

「えっと、絶望を贈ろうか」

じゃなくて!何を言っているんだ俺は、どこぞのストーカーセフィ○ス様だ。昨日の夜に何となくやっていたF○7のセリフが出てきてしまった。

幸いむこうには聞こえてなっかったのだろうか、こっちすら見ていない。

少しだけ声のボリュームを上げて今度はしっかり名乗る。

「あ、えっと、加藤です、えっと、、、あっ、、」

なんだこの挙動不審ぶりは、慣れない仕事をしているセールスマンみたいじゃないか。それにしても聞こえていないのか、聞こえていて無視してるのか、どっちなんだろうか、一向にこちらを向く気配がないが、顔すら認識できない。

ん?震えているのだろうか、なんだ状況が全く読めない。不思議に思い俺は彼女の肩をたたいた。

 ビック!!!!!!

「うわぁ!!!!!」

「きゃああ!!!!」

待て待て今の状況で悲鳴を上げられると俺は完全に犯罪者だ、それになんだあのザリガニみたいな俊敏な動きは!?

「ああ!ごめん!ちがうくてあの挨拶をね?」 

周りの目が痛い、、、、いやきもち、、なんでもない

変なざわつきと嘲笑が全部俺に向けられているような気がする、早く何か言ってくれ、ザリガニちゃん、、、早く。


「あ、か、加藤君ね、う、うん私は瀧見凛香」

瀧見さんか、聞いたことないな、同じクラスながら情けない。

それにしても彼女、一向にこっちを向こうとしないな。


そんな光景を見ていたのか、一人の女の子が声をかけてきた。

「凛香はね、基本男子とは喋らないの、てか喋れないの、ごめんね」

あぁそういうタイプか、幾度となく見てきたぞ、男子と喋らない、男子嫌いとか言ってることがステータスだと思ってて、でもいざ自分の好きな子、かっこいい子が話しかけてきたりするとこ媚びるようにひっつくビッチ。

なるほど俺の一番嫌いなタイプだ。

「じゃあ話しかけないほうがいいかな?」

皮肉を込めて放ったはずの一言だったが思いもよらない返答が返ってきた。

「あぁそんなことないよ!ん?ちょっとその手に持ってるケータイ貸して」

ここで何の疑いもなく今顔を見ただけの名前も知らない異性にケータイを渡せるあたりなかなか俺も無防備だな。

「はいよ」

「ん、えっとね、、、」

名前も知らない彼女は俺のケータイをいじり始めるが、何か困った顔をしている。

「ねぇねぇ加藤君LONEやってないの」

あ、この間消してしまった、入れなおす気も必要も特になかったからそのまま放置ししまっていた。

「あ、ちょっと探すから返してもらっていい?」

とりあえず再インストールだ、それまで探しているふりして、、、よしインストール完了。最近のアプリは早く入れれてた助かる。

そして前のアカウントにログイン、最後に、わかりにくところにあったように見せかけるためフォルダーに入れてと。

「あ、あったあった、わかりにくいとこに入ってた」

彼女にスマホを渡すと何か打ち込んだ後に返された。画面を見てみると。

母、父、花蓮、凛香、奏とある。なるほど状況が読めた。

早速新規メッセージが来ていた。

「よろしく!徳留(とくとめ)奏だよ~凛香は喋るの苦手だから文字のメッセージでコミュニケーションとってね(^▽^)/」

やっぱりそうか。

だそうだ、既読した以上は何かを返さなければ、、、、

「了解」

慣れない手つきだとこれが精いっぱいなんだ、、、、ぐふ


早速凛香さんにメッセージを送るとしよう

「さっきは、いきなりごめんなさい、加藤蓮です、よろしく」

みろ、これが崇高美というやつだ。おっ返信が来たようだ。

「私もいきなり大声出してごめんね☆彡慣れるまで喋るの恥ずかしいからメッセージお願いします(/ω\)」

可愛い、たしかにいかにも女子って感じのメッセージだ、ただギャップが激しすぎる。このテンションを普通に出せれば結構モテそうだが、まぁそんなに簡単にいかないのだろう。

とりあえず俺の嫌いな感じではなかったから良しとしよう

              

               |

バスに揺られてどのくらい時間がたっただろうか、いつの間にか眠ってしまっていた。隣を見ると瀧見さんも寝ていた、はっきりした素顔が見れる。割と、というかこれは完全な童顔だな。高校生にはあまり見えないかもしれない、それにはっきりとはわからないが身長も低い。可愛い。

はっ!こんな少女をなめ回すようにみて、俺はどこの異常犯罪者だ。

ランドセル背負わせたい、、、


バスの中では寝ている人もいたり、喋ってる人もいたりで特にこれと言って変わった様子はうかがえなかった、まぁそりゃまだ学校が始まって二か月だ、テストもあったし、クラス全員が友好関係を構築してないのもまた然りだ。

持参のお弁当のごみを片付けているとバスガイドさんが何やら話し始めていた。

「まもなく目的地です、寝ているお友達をおこしてくださ~い」

ああ出たよクラスのみんな全員お友達小学生思考、小1の頃掲げた友達百人宣言は今も達成できないままだ。

とりあえず

瀧見さんを起こそう、、、と思ったが一応メッセージで知らせることにしよう。

「着くらしい、起きて」

送信っと、不便だな。

瀧見さんの携帯のバイブレーションが鳴った直後、まるで今まで起きてかのごとく携帯に意識を向けた。

気が付けば俺の携帯にメッセージが一件

「んっ!着くの早いね!wずっと寝ちゃってたよ~ww起こしてくれてありがとう(^▽^)/」

かわいいなぁと打ってしまったところで自我を取り戻した。

バスはもう駐車場に止まっていて皆は降り始めていた。

奏が瀧見さんを呼んで一緒に降りて行った。他の人たちに先を譲っているといつの間にか最後尾になってしまった。まぁ俺は人がいいからな、仕方ないな、決してみんなが俺を本能的にカーストが下の人間だと解釈してるわけではない、はず。

バスを降りると六月とは少しずれた肌寒さを感じた、無理もない、標高1000メートルに位置にある少年の家だそうだからな、白樺の木がそれを物語るかのように凛とたくましくそびえ立っている。

持ってきていたジャージを羽織り荷物を自室に置きに行く。

もちろん男女同室などありえない、ので必然的に部屋ボッチとなるのである。唯一の助けが携帯電話をいじれるということくらいか。

そこからはすぐに体育館に移動し          

お約束の

・はーいみんなが静かになるまで3分かかりました~

・初めのあいさつ

・布団の敷き方たたみ方

・宣誓

・終わりのあいさつ

の工程を済ませ初日は終わりだそうだ、気が付けばもう16時になりかかっている。


部屋に戻ると数人が布団を敷き始めていた。後でわからなくなって誰かに聞くのも面倒なのでちょろちょろ隣を見ながら俺も敷いておこう。

はぁ毎度毎度こういうことにまで気を回さないといけないのは億劫だ。

幸いルームメイトがあまりうるさいタイプでないのがせめてもの救いか。

 

静かな空間は眠気を誘う。気が付いたのは日付が変わった夜中3時、バスの中で寝たというのにずいぶんと寝れてしまったな。

野外合宿一日目はあっけなく味気なく終わった。

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罪と正義(仮) ヘビーカステラ @kurearagi

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