エピローグ

エピローグ

 俺は現在、夢の舞台に立っている。

 広大な屋外ステージ。

 四方からの眩しいスポットライト。

 会場を埋め尽くす大勢の見学客は、すでに熱狂的に盛り上がり、俺の名前を大声でコールしている。

「ア・ダ・チ! ア・ダ・チ!」

 片手を振って歓声にこたえると、観客はさらに一段とヒートアップして、ゴングの音を掻き消すほどの声援を送ってくれた。

 ん、ゴング?

 ワナビ戦の試合開始の合図って、ゴングじゃなくて掛け声だよな?

 なんて不思議に思っていると、いきなり後頭部に衝撃が走る。

「……はへ?」

 そこは自宅の俺の部屋。

 後頭部の痛みはベッドから落下した衝撃で、鳴り響くゴングは目覚まし時計の音だった。

 夢の舞台だと思ったら、まさか本当に夢だったなんて、我ながら相変わらずだ。

 ああでも、よく考えてみれば、今はそうとも言えないか。

「勇気、起きなさーい!」

 おふくろの声がしたので、俺は急いで身支度を整えて、リビングへと顔を出した。

「もう高二になったんだから、少しはしっかりしてくれる? しかも今日は文化祭、あんたの初の晴れ舞台でしょ?」

「ああ」

「母さん、ご近所さんを誘って応援に行くつもりなのに、当の本人が遅刻したなんてまったく話にならないじゃない」

「へ、平気だって! 今から全力ダッシュすれば間に合うさ!」

 俺はリビングの時計を確認し、机の上の弁当を引っつかんだ。

 中身は唐揚げとサンドイッチで、どちらも自分の大好物だから、思わずテンションが上がってしまう。

「それじゃ、いってきまーす!」

 靴を履いて玄関を出ると、そこには俺の門出を祝福するような、雲一つない気持ちのいい青空が広がっている。

 よし、今日はやってやるぞ。

 透明カバーのETを抱えた俺は、そう決意して力強く駆け出した。


 え、ETの色?

 それは皆様のご想像にお任せしておく。


『激烈ワナビ戦』〈完〉

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激烈ワナビ戦 常木らくだ @rakuda_tsuneki

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