最弱のプライド(4)
「さあ足立、受け取ってくれ」
ソファーに座った豪田先生は、満面の笑顔で、俺にある物を差し出してきた。
ここは進路指導室。
無事に一学期の終業式が済んだ後、先生から個人的に呼び出しを受け、俺達はこうして向かい合っている。
(なんか、まだ信じられないなぁ……)
期末テストでリカルドを倒した俺は、なんと、ワナビ戦の成績で「A」評価を貰った。
他教科は散々だったが、まあこの際それはいい。
粉チョーク事件の三人も、あの後こちらへ謝ってきて、今はどうにか和解できた。
ああ、それから。
学園の英雄として有名になった俺は、登下校中や休み時間に、多くのクラブから勧誘を受けている。
やれやれ、人気者はツライよなぁ。
「どうした? 早く受け取ってくれ」
豪田先生が持っているのは、シャンパンゴールドのETだ。
ずっと目標にしてきた、学年首位の確固たる証。
しかし俺は、笑顔で先生にこう答える。
「せっかくですが、辞退させてください」
「な、なんだと!」
「あの期末テストは、色々な偶然が重なって、たまたま運良く勝っただけです。他クラスや他学年の生徒まで乱入して、ドラゴンにダメージを与えていました。実力でリカルドを倒したとは到底言えません」
「だ、だがしかし、こんな機会はもう二度と……」
「ないって言うんですか?」
いいや、そんなわけない。
俺はこの先ゴールドETを手に入れる。
だがそれは、今この瞬間ではなく、実力でリカルドを超えた時だ。
「やれやれ、足立は変わり者だな」
苦笑する豪田先生。
「わかった、それなら無理にとは言わないさ。二学期の活躍に期待していいんだな?」
「もちろんです」
豪田先生に笑顔で頷く。
それから進路指導室を出ると、ユリナ、アカネ先輩、リカルド、葵先輩が俺を待ってくれていた。
「オメェ、やるじゃねえか。今すぐ金になれたってのに、まさか不成りを選ぶとはな」
「でも格好いいわよね。そういう男の子、あたし結構タイプかも、なーんちゃって」
俺に流し目を送るアカネ先輩。
慌てた様子でユリナが会話へ割り込んでくる。
「足立くん、今日から夏休みですよね! もしよかったら動物園へ行きませんか? ちょうど今、新作絵本の構想を練っているので、是非ともスケッチブックを見て欲しいんです」
「それより、あたしと映画館へ行かない? 話題のガンアクション映画なんだけど、たまたま無料のチケットが二枚あって……」
「わっ、わたしの方が優先ですよね! だってその、わたしは足立くんの、かか、かかか、かのじょ……」
「あらー、何かしら? よく聞こえないわねぇ?」
いきなり勃発する女のバトル。
思わず冷や汗が流れるが、この状態はこの状態で、男冥利に尽きる気がする。
「アダチ、先日はありがとうございました」
「ああ、リカルド」
「あなたが救ってくれなければ、今頃わたくしは、どうなっていたかわかりません。つきましては、是非ともお礼がしたいので、二人で『ジュラ紀の恐竜展』を見学しましょう」
「それ、自分の趣味に付き合って欲しいだけじゃ……」
「なんだ、なんだ? こりゃ、足立を奪い合うゲームか? そんならオレが、イイ店を紹介してやる。今日は特別におごりだぜ」
「ちょっと葵、イイ店ってなによ! 足立くんを巻き込まないで!」
「バーカ、ラーメン屋に決まってんだろ? 変な妄想してんじゃねえよ」
「イイ店がどこであろうと、まず行くのは動物園ですっ」
とまあ、そういうわけで。
最高の結果で一学期を締めくくり、男女双方からモテモテになった俺は、誘いの絶えない素晴らしい夏休みを心の底からエンジョイした。
え、これで終わりかって?
いいや、俺・足立勇気の最強伝説は、今まさしく始まったばかりである。
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