デッドエンド04

「生きるっていうのは人間のエゴだ。豚とかは生きてえって思って生きてるわけじゃねえが人間はちげえ。死にたくねえから必死になって研究したり、他人を平気で他人を見捨てたりする」

「いきなり何の話だ」

 戦線布告の言葉を吐き捨て、口調が変わった八羽医は残っていたカップラーメンを置いてグルグルと伏見の周りを歩きながら語り出した。

「正直よぉ、こんな不毛なことしなくないんだぜ。だから考えて欲しい。その糞みたいな体質をよぉ!」

 怒号と共に強烈な衝撃が走り、伏見はコンクリートの柱にめり込んだ。

「がはっ!」

 肺の空気と一緒に血が口から飛び出た。

「痛いだろ? 不死身ってのは不便だよな。死にたくても死ねないなんてよぉ。けど生きたくても生きれない連中もいる。それって不平等だって要は思ったらしくてある計画を立てた。何年も前からコツコツと頑張ってやってきてたってのに邪魔しやがって」

 腹を抑えつつ伏見は立ち上がり、彼を否定する。

「はぁ、ふぅー。お前が、お前たちがやってることはただの自己満足だ。たとえ他人を思ってのことでも、それは変わらない」

 とんだありがた迷惑だ。

 寿が言ってた通り、こいつは全員を不死身にさせようとしていたんだ。実際に死ねない身体をしているから分かるがこれは虚しくなる。こんな思いをするのは僕だけで十分だ。

「何もしてない奴よりはマシだ。教えてやるよ。信念を持ってる方が強いってことをよ」

 まだ目が眩む伏見に八羽医は躊躇なく、その肉体を貫こうと手を槍のようにして仕掛けたが咄嗟に前転した彼に当たることはなくコンクリートの柱を砕くだけに終わった。

「避けたか。良い判断だ。今のが当たってたら終わってたんだがな」

「僕が不死身なのにか?」

「不死身だからこそだよ。テメェみたいのは知らないだろうが不死身を殺せる不死身の王がいる。要は努力の末、その能力を身に宿してんだよお」

 もしそれが本当だとしたら絶望的な状態だ。飛んで火に入る夏の虫とは僕のようなことをいうんだろうな。

「そんなチートみたいなのがあってたまるか」

 必死に強がってはみるものの、ここで嘘をつく必要性が感じられない。つまりは本当に僕の唯一の強みである不死身であるということが意味を成さないわけでーー

「信じられねえか? だったらその身体で実際に確かめてみるんだな」

 隙を与えまいと強気に連続して攻撃を放つ。その攻撃は一撃一撃が人間のものとは思えないほど強力で先ほどそれをもろに受けてしまった伏見の動きは鈍く、石に躓いて転んでしまった。

「しまっ……!」

 直後、生々しい音が廃墟に響き渡る。

「あの男の刺客しては呆気なかったがこの俺様を相手にこれだけ粘ったのは褒めてやろう」

 手にこびりついた血を拭き取り、廃墟から去ろうとしたが途中で背後から立ち上がる音を聞き足を止める。

「待て……八羽医」

「何故、立てる⁉︎ 確実に殺したはずだ」

「どうしてだろうな?」

「調子に乗るなよ。俺様はここで負けるわけにはいかないんだ!」

 先ほどは心臓を貫いたが今度は脳を破壊する。大量に噴出されたそれは屋内であるのにも関わらず雨のように降り注いだ。

「今度こそやったか」

 無傷である八羽医は心身共に疲れ、死体を眺めているとそれは赤い炎に包まれてそれが消えると同時に無傷の伏見が現れた。

「それはフラグってやつだぜ。それよりもそろそろ終わりにするか。二回も見れば十分だ」

「終わらせる? それは俺様の台詞だぁぁ‼︎」

 怒りに任せ突進するが冷静にそれを躱した伏見は彼の喉を貫いた。

「いいや、僕だ」



***



「お疲れ様、伏見くん。それで結果はどうなったのかな?」

 八羽医との決闘が終わり、家に一直線に帰ろうとした伏見だったがとある公園で待ち伏せていた寿に捕まった。

「勝ったよ。じゃないと帰ってこれないだろ」

「それもそうだ。感謝をしてもしきれないね」

「するくせもないのに言うな。刹那はまだ戻って来てないのか?」

「ああ、彼女なら問題ないよ。今頃存分に力を出して楽しんでるんじゃないのかな。君の心配は必要はないかな」

 言われなくても刹那のことは信頼してるから心配はしないけど。

「そっか。じゃあ僕の役目は終わりか。お前との付き合いは長いようで短かったな寿」

「おいおい今生の別れじゃあるまいし」

 言われてみたら確かにそうだ。

 無意識のうちに寿とは会いたくないと思っているのだろうか? 可哀想だけどその可能性は非常に高いな。

「それもそうだな。もう不死身の化物と戦うことはなくてもお前と無関係になるわけじゃないもんな」

「? 伏見くん、君は何か大きな勘違いをしていないかい」

「何も勘違いなんてしてないさ。お前との出会いとその時に交わした約束は覚えている。僕が不死身の存在ではなくなったら普通の生活に戻っていいって言ったのは寿、お前だろ」

 こいつに救われ、不死身になったあの日のことは脳がどんなにグチャグチャに掻き回されても忘れられない。

「確かに言ったね。けど残念ながら伏見くん、君はまだ不死身の存在だよ」

「は? あの八羽医とギリギリで殺り合ってもう在庫はゼロだ」

「僕が君に与えた視認した化物の能力をコピーして保存する能力のことかい? それで君は不死身になったわけでその能力はまだある。そして八羽医を倒した能力をよ〜く思い出してくれ」

 そう、僕に隠された能力は能力をコピーする能力。発動条件は厳しいけど強力な能力だと自負している。

「不死身を殺す不死身だろ……あ?」

 八羽医の能力をコピーして、それでどうにかして倒すことしか考えていなかったけど不死身も能力に含まれるのか。

「保存してたのはなくなったけどノーライフキングの能力が手に入った。けど気をつけてよ。君が思っているよりも八羽医との戦闘の傷は深い」

「分かってる。暫くテスト勉強しながら安静にしてるよ」

 果たして今からやって間に合うかどうかは甚だ疑問だけどやらないよりかはやる方が断然いい。それにこのままだと成績が下がる一方で天宮が何かお節介をしてくるかも。

「うん、それがいい。じゃあそれまで他愛のない日常を楽しんでいて」

「お前と次会う時はその日常が終わる時か。ちょっと憂鬱だな」

 けれどこれで僕の物語は一度幕が閉じる。

 不思議で不毛な不死身同士の争いが起こった怪訝な物語が。

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Revive〜僕と怪訝な不死話譚〜 和銅修一 @ky1108

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