デッドエンド03

「さてと、妾の主が心配なのでな。すまんが早々に終わらせて、行かせてもらうぞ」

 伏見が去った後、刹那の背後から二本の角を生やした少女が迫って来ていた。しかし、彼女は何故か伏見が去るのを待っていたのだ。

 気配を察した刹那は伏見を早めに行かせ、戦闘態勢に入った。

「行かせはしない。それがあのお方の命令」

「ふん、鬼が他の者に従うと珍しいの」

「あのお方には恩がある。これは恩返し」

「鬼の恩返しとは滑稽じゃな。妾も人のことは言えんがここは譲れんのじゃ」

 目にも留まらぬ速さで接近し、その鋭い爪で喉元を切り裂きに行った刹那だったがそれは難なく躱されてその際に蹴りで反撃されて脚がまるで棒のように宙に弾き飛ばされた。

「流石は鬼というべきか。その角は伊達ではないようじゃの」

「貴方の方こそ。本当は今の一撃で決めるはずだったのに」

 悔しがる素振りを見せることなく次の準備をする鬼、それを確認して脚を再生させる吸血鬼。

 誰が見てもどちらが勝つと断言できるものではない状況で刹那は不敵に笑う。

「それは残念じゃったの。じゃがそれは妾とて同じこと。だが気が変わった。主のことは信頼しておるし、ここはこの一戦を楽しむことにするかの」

「楽しむ? 私たちにそんな権利なんてない。この世界に必要とされていない化け物だから」

「権利? そんなことを気にしておったら肉体よりも先に精神が腐ってしまうわい。生きている者として謳歌しなくては死んだ者に申し訳ないじゃろ」

「不死身の化け物でも?」

「だからこそじゃ。不死身故の呪いと思ってくれれば良い」

「呪い……。成る程。貴方の考えは理解した。ではそれを証明してみせて」

 鬼の少女は何処からともなく刀を取り出した。その背丈よりも長い刀は月の光で輝き、殺気を漂わせる。

 だが刹那は違和感を覚えた。

 しかし、その違和感の正体を確認する前に先に鬼が動いたーーそして刀は刹那は胴は真っ二つに引き裂く。

 血に濡れていたが傷口は綺麗なものだった。そして斬られた刹那はようやく違和感の正体に気付く。

 剣道のような構え、居合斬りをする時の構えなど刀や剣には決まった構えがある。だが彼女のそれはどれにも当てはまらない。

 鬼の身体能力を最大限に活かすため、彼女自身が考えた構えは野球のようなもの。見た目はお粗末だが体重を、刀に鬼の力を乗せられるその構えは刹那の虚をついた。

「ふむ、面白い」

 胴体は地面に落ちる前に下半身が切り口から血が飛び出して、それが元通りにして振り出しへと戻る。

「その再生能力、やはり厄介です」

 いくら攻撃が強力でも結果が同じならば意味がない。しかし、鬼である彼女にはこの状況を打破できるような特殊能力などはなく、力技で乗り切るしかないのだがーー。

「そちらの力も末恐ろしい。じゃから、その刀は折らせてもらったぞ」

 ハッタリではなく、それを言い終わると同時に刀は粉々に砕かれた。

「いつの間に……」

「あのままでは鬼に金棒という諺から鬼に刀に変わりそうだったのでな。折るのは勿体ないほどの名刀ではあったが仕方があるまい」

「ですがこれで勝ち誇ってもらっては困ります。このまま私が時間を稼げば他の仲間がーー」

「それなら期待せぬことじゃ。妾の知り合いが掃討しておるからの」

 その知り合いは武道に優れたキョンシーがいる。ついでに寿もいるので刹那は安心して戦えている。

「さてと、これで互いに同じ条件になったことじゃし拳で語り合おうではないか。無論、青春ドラマのようにはいかぬじゃろうがな」

 きっと汗臭いというよりも血生臭くなるだろう。不死身の女同士で汗臭い青春を演じるというのもどうかと思うが。

「そんな不毛なことをする意味なんて……」

「意味を考えてどうするのじゃ? それを知ったところで何も変わりはせぬ。それよりも自分が何をしたいのかを考える方がよっぽど有意義じゃと思うがの」

「自分がしたいこと……」

 彼女は誰かに従いながら生きてきた。ずっと、ずっと、腕はあるが生き方を決めてもらっていたのだが刹那の発言に心が揺らぐ。

 従いながら生きてきた彼女の意味はいくら考えても見出せない。そして考えることをやめた彼女はある結論に至った。

「まず、貴方を倒します。どうか私を楽しませてください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る