デッドエンド02

 終わりは必ずやって来る。

 人の一生も、不死身の僕にも。

 けどそれは今じゃないだろう。これから終わるのはこの街で起こった悲劇だ。どこから始まったのは僕には分からないけどこれ以上被害者が出ないように終わらせなくては。

「主、私を置いて行こうとするとはたった一週間で随分と変わってしまったそうじゃな」

 決意を固めつつ寿に指定された場所へと赴く最中に聞き覚えのある声が足を止めた。 

 声がした方を向くとそこには赤髪の吸血鬼がこちらを見つめていた。

「刹那! 久しぶりだな。今まで何処に行ってたんだよ」

 一週間も寝ていたからその分、伏見的には早く会えた感はあるがそれでもどこか懐かしさを感じられる。出番がなかったからとか、そんなメタ発言は控えておこう。きっと刹那も忙しかったんだよ。

「ちと色々とあっての。じゃがお陰様でこの通りじゃ」

「この通りって何か変わったのか?」

 修行して強くなって帰って来たとかか? それなら見た目で判断しろというのは素人の僕には無理難題なのだが。

「見て分からんのか。あの幼女姿をする必要がなくなったのじゃ。もしや主は幼女姿の方が好みじゃったか?」

 そういえば普段は体力が消耗するからということで幼女の体にしていたが、今は初めて会った時の姿をしている。これは力が戻ったことを如実に表しているのだが。

「いいや。僕はロリコンじゃないから安心してくれ。それにしてもその完全体でいても平気ってことは元に戻ったってことか。寿がよく許したな」

 あいつは灰になってそれほど脅威ではなくなったからこそお咎めなしにはなっているが、こうして僕と出会った当初と同じ状態になっているのなら黙ってはいないだろう。

「危険分子ではないと判断したようじゃ。妾には主という枷があるしの」

「枷って言い方悪いな」

 まるで僕が足を引っ張っているみたいじゃないか……いや、実際にそうなんだけどさ。

「別に間違ってはおらん。主が死ぬのなら妾は自ら命を絶つ」

「不死身の怪物に言われても説得力はないな。それより、刹那も僕と一緒に戦ってくれるってことでいいのか?」

 ここで会ったのは偶然ではないはず。きっと寿の入れ知恵か何かだと思うけど。

「少し違うの。妾は邪魔者を排除する役目じゃ。漫画でよくいる敵を引き受け、主人公を先に行かせる奴じゃな」

 最近流行りなのかその例え。別に上手くはないけど、本人が何故かご満悦なので何も言うまい。

「じゃあ、そっちの方は頼むよ。僕は全部を終わらせてくるよ」

「流石に主でも全部は無理じゃろ」

「これからって時に言ってくれるな。せめて嘘でも励ましてほしかったな」

「吸血鬼に優しさを求めておる方が間違いじゃぞ。それに主は知らないことが多すぎる。奴を倒したからといって全てが終わるとは限らないのじゃからな」

「確かにそうだけどーーだからと言って放っておける奴じゃないみたいだし、どのみちやることは変わらないさ。今までもこれからも」

「なら早く行くのじゃな。あの剽軽な小僧がわざわざ用意したのを無下にはしてはいかんぞ」

 珍しく寿のことを気遣う刹那。雨でも降るんじゃないと思ったけど雲ひとつなく、月と星がくっきりと見える綺麗な夜空だった。

「ああ、じゃあ刹那も気をつけろよ」

 完全体の彼女を心配する必要なんてないだろうけど次の相手は元に戻らないといけないほどの強敵なのではーーそう考えるとこっちもかなりヤバイのでは……。まあ、今更後には引けない。

 そして伏見は刹那と別れ、早足で目的地へと向かった。着いたのはそれから五分後、とある廃ビルで遂に八羽医 要と対面する。

「ようやく来たすっね。待ちくたびれて夜食を頂いてるっすよ。食べるっすか?」

 スープを吸って伸びきったカップラーメンを差し出すが伏見は首を振ってそれを拒んだ。

「いや、いい。僕たちはそういう関係じゃないだろ」

 そう言い切ると先ほどまでとは打って変わり、真剣な眼差しとなる。そしてゆっくり立ち上がると途中、まるで人格が入れ替わったかのように叫んだ。

「それもそうっすね。じゃあ、はじめるとしますか殺し合いをよおっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る